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貧しさと幸福のユーフォニー

13/08/18 コンテスト(テーマ):第三十七回 時空モノガタリ文学賞【 神 】  コメント:2件 alone 閲覧数:1248

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「はい、どうぞっ」
少女は私にひと欠片のパンを差し出した。その手は貧しい生活のために細くやつれてしまっている。
「ありがとう」
私は礼を言い、彼女の細い腕から小さなパンの欠片を受け取った。
食にありつけるかも分からない日々の中で、少女がやっとの思いで手に入れたパン。そんなにも大切なパンを、手に入れる度に少女は私に分け与えてくれた。
だが、私は食べなくても死ぬことはないので、君が食べるべきだと少女に言ってきた。
しかし、少女は聞かなかった。頑なに私にパンをくれ続けた。
いつしか私は少女からパンを受け取るようになり、少女と共にパンを食べるようになった。とは言っても食べるフリをしているに過ぎなかいのだが、それでも少女は嬉しそうに笑っていた。
だがそんな日々もずっと続くことはなく、私の仕事は終わりを迎えようとしていた。
私は自分の仕事の残り日数を確認した。
残り一日。今日が最後だと思うと、今までのことが思い起こされる――。
私は貧乏神という職業のために、人々から忌み嫌われるというのが常だった。
だが少女は違った。少女は私に対して優しく接してくれ、初めて私は自分の居場所を見つけたような気がした。
しかし仕事に私情を挟むわけにはいかない……それに、私が傍に居てはいつまでも少女が幸せになることができない。
私は仕事の終わりを少女に告げた。
「私の仕事ももう終わりだ。君とはお別れになる」
「お別れ? 貧乏神さんにはもう会えないの?」
「もう会うことはないだろう。でも、その方が君のためになる」
「嫌だよ! 貧乏神さんとお別れするなんて。ずっと一緒に居ようよっ!」
「それはできない。……それにもしできたとしても、私は君を苦しめてしまう。私はそういう存在なんだ」
「知らないよ、そんなこと! わたしは貧乏神さんと一緒に居たいだけなのに……」
少女はその場にペタリと座り込んで、わんわんと泣き始めた。肩を上下に大きく揺らして泣きじゃくる少女の小さな身体を、私は見つめることしかできなかった。
私は貧しさをもたらす存在……私は不幸をもたらす存在……。私には少女を慰められるような力はない。
私は少女の傍に居るべきではない。私の居場所は、ここではない……。

   *

私は次回の仕事の資料を見て、驚きを隠せなかった。そこに刻まれていた名前が、まさしくあの時の少女のものだったのだ。
少女と別れたあの時から、十年以上の月日が流れていた。何百年と生きている私にとっては昨日のことのようだが、人の世では十分すぎる長さだ。彼女はきっともう私のことは覚えていないだろう。
胸の奥に形容しがたい気持ちが込み上げてくるのを感じたが、私は押し殺そうと努める。
仕事に私情を挟むな……。
苦しい胸に手を押し当て、私は波打つ気持ちのさざ波を落ち着ける。
平常心……平常心……仕事に私情は挟まない……。

人間界に降り、私は仕事の対象となる『少女』を見つける。少女のあどけなさはなくなり、大人の魅力を携えてはいたが、一目見た瞬間にそれが彼女だとすぐに分かった。
私は彼女に歩み寄って声をかけようとしたが、先に彼女は私に気付いた。
「貧乏神さんっ!」彼女は声を上げた。
「私を覚えているのか……?」
「当たり前だよ。忘れるわけない」そう言って、彼女は私に抱きついた。「もう会えないかと思った……」
「だが私が来たということが、どういうことか分かっているだろ?」
「分かってる、分かってるよ……でも、そんなことどうでもいい。貧乏神さんに会えたんだから」
「……でも君は不幸になってしまうんだよ?」
「不幸になんてならないよ」
彼女は僕の顔を見上げ、強くハッキリとそう言った。
「貧乏神さんは貧乏にするけど、不幸にするわけじゃないでしょ? 現に私は貧乏神さんに会えて、すごく幸せだよ」
そう言って彼女はギュッと私の服を掴んだ。
私に会えて幸せ……? 人を貧しくする、この私に会えて……?
今まで担当してきた人々は皆、この世の終わりとでも言うような表情を浮かべ、絶望と不幸のどん底で苦しんでいた。彼らは私の存在を疎み、さっさと居なくなれと罵ってきた。
だが彼女は、私に会えて嬉しいと言ってくれた。私に会えて、幸せ、と言ってくれた。
私にも、人を幸せにすることが出来るのか……? この、貧乏神である、私にも……。
初めて味わう気持ちに、私は困惑を隠せなかった。だがそんな私の手を彼女は引っ張り、言った。
「貧乏神さん、お腹すいてない? 何か食べに行こうよ」
これから貧乏になってしまうというのに、なんて気楽なものなんだ。私は微笑を浮かべつつ、言葉を返した。
「ああ。もうペコペコだ」


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このストーリーに関するコメント

13/08/19 光石七

貧乏と不幸はイコールではない。
少女の綺麗な心に癒される微笑ましいお話でした。
貧乏神も心根が良くて、これからもいい関係でいられるんだろうなと思えます。

13/08/19 alone

>凪沙薫さんへ
とてもありがたいお言葉、ありがとうございます。
自分としては貧乏神である主人公をメインに話を構築したわけですけど、女の子に対してそのような見方もできるのかと書いた当人ながら「なるほど」と感心してしまいました。
本当の神は、女の子。考えれば考えるほど神とは不思議な存在ですね。
評価ポイントについては自らの文章力や話づくりの未熟さ故ですね。
真に良い話であれば、読み終わってから自然に評価をクリックしてしまうでしょうし。(自分の場合はそうですね)
文章の上手さについてはやっぱり読書量がものを言いますよね。
でも文章が上手いからと言って、良い作品というわけではない。そこが難しいところです……。ふーむ。
こちらの受賞作品については他の方々も色々と仰ってますが、個人的にはあまり気にしていません。
自分としては、こちらのサイトは主催して下さっている会社の皆さんの趣味的なものと考えているので、彼らの好みに応じて受賞作を選ぶのは当然でしょうし自由でしょうから。
まあ、どこら辺が気に入ったとか記載していただけると、分かりやすくはなるでしょうけど。
感想に加えて余談も書いていただき、ありがとうございました。

>光石七さんへ
貧乏と不幸はイコールの関係じゃない。幸せの形は人それぞれですよね。
貧乏神を良い奴にしようと思ったのは、以前日本昔ばなしで見た『貧乏神と福の神』という話に影響を受けましたね。
貧乏神と長く暮らした夫婦が、福の神との交代の際に貧乏神に加勢し、福の神を追っ払う、
というような話なんですけど、そんな風に取り憑いている対象から愛されるようなキャラクターを作りたいと思った結果ですね。
まあ、出来上がった作品を見ると、ちょっと違う気もしますが(苦笑)
感想を書いていただき、ありがとうございました。

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