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涙腺さん

文才が欲しいと日々願い続けるその辺の餓鬼です。

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教室の片隅で

13/08/03 コンテスト(テーマ):第三十六回 時空モノガタリ文学賞【 無口な人 】 コメント:3件 涙腺 閲覧数:1135

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彼女は一体なんなのだろうか。
宇宙人や超能力者というそのようなニュアンスの意味ではない。彼女が分からないのである。
何かの理由があって他との接触を頑なに拒んでいるのかとか、一回喋り出すとそのギャップのインパクトで嫌われるかもしれないとか、きっと何かがあるに違いないのである。
短いが、今まで生きてきて15年。十人十色、千差万別、多種多様。様々な人間と関わってきたが、このような人間は初めてである。
話したいわけでもない。だが、なにか怪しいのである。


四月に高校に入学しはや三ヶ月。特にこれといった行事もない一学期であって、非常に毎日の有意義さを疑って過ごしてきた。期末テストも半分より少し上といった微妙な位置に腰を降ろし何事もなく終わった。そして周りの人間はいよいよ待ちに待った夏休みといった雰囲気で友人と騒がしく予定を立てている。
「ねぇ、夏休み一緒にプール行かない?」
「いいねー! 何日にするー?」
「それじゃあー・・・」
特に女子共は余程暇なのだろうか、無差別にクラスメイトに誘いを掛けた。私のところにも来たが、言わせる前に断った。当然である。別になんの興味も持たない女子の水着姿など、見てもなんの感情も湧き出ない。
そしてその次に私の後ろ、丁度教室の左隅の女子に誘いを掛けようとしたが、一瞬躊躇した様子を見せ少し悩んだ挙げ句、回れ右をしてクラスの輪へと戻った。
それもそのはずである。一体どうやってこの『無機物』と会話しろと言うのだろうか。
この学年ではなかなか活発と言えるこのクラスの中で、唯一置物のように微動だにしない少女がそれだった。
長澤恵美。通称『無機物』『残念美人』。さらっとしたロングストレートの黒髪に、整った顔立ちをした少女である。身長は黒板の一番上が消せないくらいの高さである。頭脳明晰で、運動神経も抜群。まさに才色兼備という言葉がぴったり当てはまるような人物である。一目見ただけで保護欲をかきたてる。そのようなキャッチフレーズを勝手に付けられ、一時期この学校では有名であった。
普通ならこのようなタイプの女子は同性や異性からの人気が高く、休みのスケジュールが全て埋め尽くされるはずである。だが、彼女の一番の問題はその¨生き方¨である。
言葉という意志の疎通する方法を忘れたのではと疑いをかけたくなる程に、彼女はその言葉の通り『無口』であった。全てにおいて会話は首を振ったり傾けたり頷いたり。それ以外の概念を持たぬか、感情も捨てたか。表情は常に動かない。時々口が少し開くくらいである。
その為もちろん話掛けられることは先生以外滅多にない。行事や何かで強制的に喋らなければいけなくなる時もあるが、その時ですら、耳に全神経を集中させなければいけないくらいの小さな声しか出さないのである。もちろんマイクを通してである。
ここまでくるとさすがに男子共も女子共も諦めがついたらしく、喋り掛けることはほぼ皆無となった。陰口が発生してしまったのも確認している。
そんなのを気にも止めない彼女は、休み時間になっても次の授業の準備をしてそのまま席へとゆっくり腰を掛ける。
だが、私は彼女に好意を抱いたのだろうか。分からないが、この中で唯一彼女のことを知りたがっている。
一ヶ月前くらいから質問をし始めて、彼女のことを少し知ったような気がした。といっても、本当に微塵の情報量である。それもそのはず、あの感情のない瞳でずっと見つめられるとなんともいえない虚無感に襲われてリタイアしてしまうのだ。
なので毎日一回。一回だけだが、私はその時間が学校生活の中で一番有意義であると感じている。
しかし明日から夏休みが始まってしまう。このままでは終われない、謎のプライドが私の中を駆け巡る。彼女を早く突き止めたい。
今日はいつもの二倍、いや、十倍質問をしよう。できるだけ目線を外しながら。
そう決心し、タイミングを伺った。


いつの間にか帰りの支度が終了しているではないか。まずい。タイミングを伺い過ぎた。
こうなったら最後は帰り際に名前を呼ぶか背中を叩くという大胆な行為に走らなければいけなくなる。しかも少しの質問だけで、一学期最後の日に呼び止めるような人間が居るだろうか。
だがそんな悠長なことを考えている暇はない。帰りの会が進行中であるが、私は上体を反らせた。
彼女がこちらに気付いた。私は彼女の目を見つめる。何故か今日はいつもの虚無感が襲ってこなかった。
そして口を開ける。後悔はしない。
「ねぇ、長澤さんってなんで喋らないの?」
一番聞きたかったことを一番最初に発した。これを逃すと、永遠に来ない気がしたのだ。
すると、彼女が笑った。
「私って、喋っていいの?」
そんな彼女の様子を見て、私は涙を零した。


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このストーリーに関するコメント

13/08/04 梅子

コメントありがとうございました。私も拝見させていただきました。
無機質な彼女の描写でぐっと興味を惹かれ、
最後にドラマがあるようなそんな作品だと思いました。
今後の二人や無機質な彼女の過去など思わず想像を膨らませてしまいました。
楽しみながら読ませていただきました。ありがとうございました。

13/08/05 涙腺

コメント有り難う御座います。
やった!狙い通りだ!と喜びたいところですね。読者様にこの彼女の過去を予想してもらいたかった、といえば正解なのでしょうか。自分でも何を考えていたのか覚えていませんが。
過去やらなんやらは別の機会で何か書きたいですね。元々書くつもりでしたし・・・
楽しんでもらえたようで嬉しい限りです。こちらこそ、有り難う御座いました。

13/08/11 涙腺

コメント有り難う御座います。

この終わり方は果たしてこれでいいのかと思いつつ投稿したのですが、どうやらそれがよい結果になったっぽいですね(笑)
某ドラマの感情を反転させた・・・みたいな感じです。笑わないのではなく喋らない。そっから発想がPONと浮かび上がってきました。

プロフィールに書いてあったこと・・・ですか?
なにかおかしいところがありましたでしょうか?

とりあえず、有り難う御座いました。

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