1. トップページ
  2. あるバーにて

光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
座右の銘

投稿済みの作品

5

あるバーにて

13/08/03 コンテスト(テーマ):第三十七回 時空モノガタリ文学賞【 神 】  コメント:8件 光石七 閲覧数:1778

この作品を評価する

 『バー・レイム』に一人の男が入ってきた。黙ってカウンターの隅の席に腰掛ける。
(見慣れない顔だな)
マスターはその男に注意を向けた。もちろん新規の客が来ても不思議ではないが、その男が纏う空気は明らかに異質だった。気高さと慈愛、厳格さと温厚さ、相反するものが絶妙に共存している。近寄り難いような、近づきたいような、そんな気持ちにさせられる男だ。
「何になさいますか?」
「適当に見繕ってくれ。思い切り酔いたい気分だ」
男の要求に応え、マスターはロックをテーブルに置いた。男は一気に飲み干す。マスターは空のグラスを受け取り、次の酒を用意した。
(相当ストレスがたまってるな)
男の顔は曇っている。悩みや苦しみを抱えている者は多いし、憂さ晴らしに酒を求めるなんて珍しくもないが、マスターは独特の雰囲気を醸し出している男が妙に気になった。男は二杯目もグイッと飲み干す。
「お客さん、何か嫌なことでもあったんですか?」
三杯目を差し出しながら、マスターは男に声を掛けた。
「わかる?」
男がふっと笑う。
「仕事柄、いろいろな人を見てますからね。よかったら話してみませんか? 誰かに聞いてもらうだけでもすっきりしますよ。もちろん、私は聞いたことを誰かに喋ったりしません」
マスターがそう言うと、男の顔がほころんだ。
「うれしいね。私の気持ちを聞いてくれる奴なんてほとんどいないからね」
「幸い他のお客さんもいませんし、お付き合いしますよ」
男は再びグラスを空にした。マスターから四杯目を受け取ると、男は話し出した。
「本当にね、嫌になるんだよ。年中無休で奉仕してるようなもんだし」
(仕事の愚痴か)
マスターはふむふむと頷く。
「なのに、私の存在を無視する奴も多いんだよ。誰のおかげで無事暮らせてると思ってるのか……。そのくせ、困った時だけ頼ってくるんだ。『助けてください』、『なんとかしてください』って」
「いますね、そういう連中」
マスターは相槌を打った。
「なのに、結果が悪いと私のせいにするんだ。やってらんないよ」
男は仏頂面でグラスをあおった。マスターは五杯目を用意する。
「自己中心的な奴らですね。お客さんが頑張ってるのに……。でも、お客さんのことを認めてくれる人もいるんじゃないですか?」
「いるにはいるよ。だけど、私を本当に理解してくれているとは言えない。自分の都合のいいように解釈して、解釈が違う者同士で争ったりする。私はそんなこと望んでないのに」
「大変ですね」
共感しているような口ぶりでそう言ったが、マスターは少し困惑し始めていた。この人は一体どんな仕事をしているのだろう? ただの管理職というわけではなさそうだ。男はまたグラスを空け、次の杯を求めた。
「私がこう言った、ああ言った、そう吹聴して回って結局金儲けが目的だったり。私の名を悪用するなんて、ひどすぎる」
(かなり高い地位にいる人なのか?)
わかったようでわからない。マスターの心はもやもやしている。
「なんでこうなったんだろうなあ……。私はただ幸せな楽園を造りたかったんだ。どうして争いや犯罪、悲劇が蔓延するようになったのか……。美しいはずのこの星まで破壊して。私も改善するために努力してるんだ。必死に働きかけてる。でも、みんな私の意図とは違う行動をしたり、そもそも私の存在を信じてなかったり、罵ったり、憎んだり……。あの二人が私に背いたのが全ての始まりだな」
空のグラスを受け取ったマスターは、慌てて七杯目の準備にかかった。
「ああ、でも結局私が悪いのか。人間なんか造らなきゃ、こんなことにはならなかったんだから」
「……はい?」
マスターは動きを止めて男を見た。
「神なんて損な役回りだよ。時々本気で思っちゃうね。こいつらは失敗作だ、造るんじゃなかった。いっそ滅ぼそうかって」
自分の理解を越えた言葉に、マスターは口をパクパクさせることしかできない。
「だけど、そんなことしても後味悪いからね。人間には特別豊かな思考と感情、霊性を与えてしまったから。他の動植物と同程度なら躊躇しなくてすむんだけど。――あ、もう一杯もらえるかな?」
マスターは震える手でグラスを差し出した。男――神は美味そうに飲み干す。
「ふー、酒は良いねえ。話を聞いてくれてありがとう。ちょっと元気が出たよ。ま、信じて頑張るしかないね。これ、お勘定」
神は新札を多めに置いて出て行った。
(……何だったんだ、今の客。本当に神? なんでうちの店に飲みに来るんだよ?)
頭が混乱しながらも、マスターはしっかり新札を売り上げ金に加えた。
 とりあえず、明日も世界は続くらしい。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/08/03 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

レイムは霊夢だったのでしょうか?
神様も大変ですね。同情してしまいます。
コミカルな味わいがあって楽しかったです。

13/08/03 泡沫恋歌

光石七さん、拝読しました。

こんな風に厄介な人間たちを相手に神様も悩んでいるかも知れませんね。
酒場のカウンター越しにマスターと神様のやり取りがコミカルで楽しかったです。

神様にはもっと頑張って貰わないと、滅亡させられたら堪んない(笑)

とっても面白かったです(`・ω・´)ハイ!

13/08/03 草愛やし美

光石七さん、このお方は……? どうなのでしょうねえ。一気に読みました。確かに、損な役割でしょうね、どうしてと思われるのも頷けます。
信じている私などの存在があることをお伝えしたいです。新札は、偽札ではないでしょうね、ちと心配。なぜか、心配になっています。
ご寄付かしら? それならわかりますけどね。苦笑 神様の悩み、面白かったです、ありがとうございました。

13/08/03 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
レイムの由来はその通りです。鋭いですね。
神様も愚痴をこぼしたくなる時があるんじゃないかと思い、この話を書きました。

>泡沫恋歌さん
世の中厄介なことばかり、神様だってたまには息抜きしたいかもしれませんね。
面白かったと言っていただきうれしいです。

>草藍さん
ありがとうございます。
結局このお客は本当に神様だったのか? それはご想像にお任せしたいと思いますが、実際の世の中を見れば神様も愚痴りたくなるのではないかと。
お金は本物のはずです(苦笑)

13/08/04 涙腺

なるほど、面白く読ませて頂きました。

確かに人間は失敗作ですね。その場に居るだけで周り全てに影響を及ぼし、その神より与えられた頭脳によってさらなる進化を遂げ、また、退化する。
ちょっぴり哲学っぽいものが入っているのも面白かったですね。

終わり方も、マスターの混乱っぷりがよく出ていました。神様も交替制がいいですね(笑)

13/08/04 光石七

>涙腺さん
初めまして。お読みくださり、ありがとうございます。
人間に特別に与えられたものの使い方を間違って、いろいろ悲劇が起こっているのかもしれませんね。
面白かったとのコメント、うれしく思います。

13/08/05 光石七

>OHIMEさん
ありがとうございます。
新札にしたのは遊び心です(笑)いろいろ想像できるかと。
神様の意図を正しく汲み取るのは難しそうですが、不平を言う前にちょっと神様の立場を考えてみるのもいいかもしれません。

>凪沙薫さん
人間も神様も大変だけど、とりあえず世界は続いてますね。
いつまで続くかはわかりませんが……
いえ、続いてほしいです。願わくばいい方向へ進みながら。
コメントありがとうございます。

ログイン