涼風豊さん

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追憶

13/07/29 コンテスト(テーマ):第三十六回 時空モノガタリ文学賞【 無口な人 】 コメント:2件 涼風豊 閲覧数:1176

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 世の中、働いていると物言わず堅物な上司や同僚などに一度は出会う。
東幸四郎もそんな社会の歯車の一人として、物言わぬ上司を持ったサラリーマンだ。
しかし東は慣れっこだった。なにせ父親が物言わぬ堅物な、いわば「昔の人間」であったからだ。それでも自分の父親が母と出会い、子供を授かり家庭を築いているのを実際にその息子として生を受けた東にとっては多少不思議であった。
普通に考えるともし自分が女の立場ならそんな堅物な男になんて惚れやしない。そう思ったのだ。

 「母さん、ちょっといい?」
東は帰宅後、冷蔵庫にある缶ビールを取り出しながら母に訪ねた。

 「どうしたの?あぁご飯はもうできるから、飲みながら待ってなさい。」
 
 「母さんはさ、何でオヤジなんかと結婚したんだ?」
思ったことをすぐ言葉にする。父親とは真逆の息子だ。

 「なによ急に。何でお父さんとって?そりゃ、んー何でだろうね笑」

 「なんだよそれ。あの堅物なオヤジと何で結婚したのかって聞いてんのに…。
  だってアレだよ。俺が女だったら絶対嫌だもん、あんな何も言わない何考えてるか分  からない男なんて。」

 「ねー。ほんと何も喋らない人よねぇ。ふふっ、ほんと何で結婚したのかしら。」

 母のさゆりは何でだろうねー?とまるで他人事のように笑って話を聞いていた。東にとってそれは予定調和のようなものを感じた。オヤジがオヤジならお袋はお袋だ。
以前にも同じような話をしたことがある。その時も他人事のように笑い、ただただ何でなんだろうねー?とまるで話にならなかった。
堅物な男とそれを承知であたかも抜けたように振舞うが、それも全て計算した女との間にある揺るぎない信頼関係があったからこそ夫婦という形で表れていたのかもしれない。
そんなことを東は思いながらももう一度聞いた。

 「母さんはオヤジの何処がよかったの?
  いや、オヤジの悪口を言いたいとか聞きたいとかそんなことじゃないんだ。
  ただなんとなくだけど、あんなオヤジと一緒に居て母さんはずっとにこにこしてるで  しょ?楽しかったの?」

 「あんたはそんな昔話聞いて楽しいの?ほんと思ったことはすぐ言う子ね。
  堅物だー!って言ってるお父さんと全然違うわね笑
  もしかしてあんた、御縁のある話でもあるの?だから母さんに結婚とかなんとか聞い  てるわけ?あーもうやだぁ。それならそうと早く言いなさいよ。
  で、誰なわけ?事務の、あの何て言ったかしら。早苗さん?あ、それとも同じ営業の  早希さん?」
どうやら東の、思ったことをすぐ口にするのは母のさゆり譲りなようだ。
早くも缶ビールの1本目が無くなり、まったく話が進まないな。と心の中で笑いながら2本目を取りに行く。
 
 「あ、母さんにも1本もらえるかしら?」
意外だった。さゆりは付き合い程度でしか飲まず、家で、それも自ら進んで飲むような人ではなかった。
 
 「意外だな。母さんが飲むなんて。」

 「あんたの御縁ある話なんて飲まないとマズいじゃない。」
さゆりは本気だったらしい。

 「で、オヤジとのことだけど。質問変えるよ。
  プロポーズってどんなのだったの?あの堅物オヤジのプロポーズ、すごく興味あるか  ら聞きたい。」

 「バカね。そんなキラキラしたものなんて無かったわよ。
  あんたもそうやって堅物堅物言ってるんだから分かるでしょうに。」

 「え?まさか?本当に?!そこはあんなオヤジでも。いや幾ら何でもプロポーズしてな  いって…。あのハゲ。」

 「ハゲよねぇ…笑
  でも本当、プロポーズなんて無かったわよ。なんて言うか、それこそ何も言わなかっ  たけど『俺について来い』って雰囲気は感じたわ。」
普段飲まないからか、酔ってきたのか分からないがさゆりが話を続けた。

 「でもね、それは決して勘違いじゃ無かったの。
  お父さんね、ちゃんと伝えてくれたのよ。」
そう言ってさゆりは仏壇の引き出しから紙を取り出した。

『さゆりへ
 俺はどうも口にして自分の想いを伝えるのが下手くそで、今までそのことで寂しい思い をさせたり迷惑をかけたと思う。申し訳ない。最後までこういった手紙なんぞに逃げて しまったこと許してほしい。
 ただ、俺はお前を、幸四郎を愛している。
 お前さえ良ければだが、お前がこっちに来たときもう一度一緒になってほしい。
 その時にはプロポーズをさせてくれ。』



堅物な男は最後まで我が強く声にせず、しかし力強い思いの詰まったプロポーズを最愛の人へ宛てていた。


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このストーリーに関するコメント

13/07/30 芝原駒

拝読いたしました!
大黒柱のいない食卓での母と息子のやり取りにはぐっとくるものがありますね! よい作品でした。
ただ、文章面でのコメントになって恐縮ですが、括弧の文章の先頭にスペースを付けるという書き表し方は読みにくく感じました。改行した段落でスペースを付ける書き方での統一を御検討ください。また、セリフに「笑」を付けた箇所ですが、本来ならば登場人物がどのように笑うのかについては作者様の表現力の見せ所だと思います。快活に笑うのか、唇を歪ませるのか、口角を引き上げるのか、ぷっと吹き出すのか、先人の作家様による多種多様な表現技法があるので、御検討ください。

13/07/31 涼風豊

>芝原駒様
コメントありがとうございます。
言い訳がましいですが、文字数オーバーになり締められず削って削っての作業を繰り返しての投稿でやっとの思いで締めることができたのですが気が緩んでしまい最後の確認を怠ってしまいました。なんともお恥ずかしい…
笑の表現。ただただ自分の幼稚な浅はかな文章力にぐうの音もでません。しかしそういったアドバイス、まさにその通りで大変嬉しいです。どうもありがとうございます。
これからもよろしくお願いします

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