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となさん

性別 女性
将来の夢 毎日ハッピーに過ごすこと
座右の銘 Day by day in everyway,Im getting better and better. 毎日毎日、あらゆる面で、僕はどんどん良くなっている。 12番目の天使という小説から。 落ち込んだ時、辛い時、この言葉を思い出して頑張っています。

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正義の軍人

13/07/23 コンテスト(テーマ):第三十五回 時空モノガタリ文学賞【 無慈悲な人 】 コメント:4件 とな 閲覧数:1282

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 俺が迷い込んだのは、どうやら敵国の領土だったらしい。気付いた時には周りを囲まれ、なす術もなく捕らえられた。

***

 俺が捕らえられた町の名前には聞き覚えがあった。三ヶ月前に、俺たちが奇襲攻撃を仕掛けた町だ。この町を攻め落とせばこの戦争が有利になる。そう言われていた、国境にある小さな町。町を見渡すと銃撃戦の跡が生々しく、そこかしこに不自然な穴が開いていた。
 俺はその町のはずれにある、小さな建物に連行された。石造りの建物の中には、鉄格子が嵌められた牢がいくつか並んでいた。俺はその一室に閉じ込められた。細い光が差すその部屋の隅で、俺は膝を抱えて座りこんだ。床はひんやりと冷たく、体温を奪っていく。俺はこの先どうなるのだろう?拷問にあうのか、殺されるのか。どちらにせよ、あまり良い未来が待っているとは思えなかった。

***

「お食事です。」
 どれくらい経ったのだろうか。太陽が西に傾いた頃、十代前半くらいの少女が食事を運んできた。黒くて硬そうなパンと、トマトと鶏肉が入ったスープだった。
「敵の作ったものなんて食えるかよ。」
 お腹は空いていたが精一杯の虚勢を張り、食事を突き返す。少女は色素の薄い瞳で、じっと俺を見詰めた。その瞳が、俺が強がっていることを見透かしているようで、思わず視線をそらした。しばらくの静寂ののち、少女が口を開いた。
「そのパンはね、ユアンが作ったのよ。」
「は?」
 少女を見ると、彼女は無表情のまま、淡々と言葉を続けた。
「彼のお父さんは、この町で一番のパン屋だった。ユアンが後を継ぐことが決まって、とても喜んでいた。ユアンはお父さんのようなパン屋になろうと、毎日必死で修行していたわ。」
「…何が言いたい。」
「貴方たちが、ユアンの父親を殺したのよ。」
 黒いパンに視線を移す。よく見ると、少し形がいびつだった。きっとまだ修行の途中だったのだろう。彼女は言葉を続けた。
「そのスープに入っている野菜はステラさんが育てたの。ステラさんは、双子の子どもたちを亡くしたわ。三ヶ月前、貴方達がこの町を襲撃した時よ。双子たちはまだ幼かったけれど、一生懸命母親の手伝いをする良い子たちだった。」
「…。それが、戦争じゃないか。」
「鳥はカリエドが獲ってきたわ。みんなが止めるのも聞かず、『元気がないみんなに精のつくものを食べさせたいから』と言って、森へ入って行った。彼は仕留めた鳥を持って、血まみれになって帰ってきた。『これを食べて、元気を出せ』笑顔でそう言って、息絶えたわ。」
「…もう、やめろよ。」
「それから、水はキャロが汲んで来た。キャロは両親を亡くしたわ。決して裕福ではなかったけれど、とても幸せそうな家族だった。今、キャロは天涯孤独で生きていくために水汲みの仕事をしているの。生きていくために、両親の敵である貴方の水を―…」
「…やめてくれ!」
 俺は思わず少女に叫んだ。少女は相変わらず、無表情で俺を見つめている。俺はどうしたらいいのか分からず、少女が運んできた食事に視線を移した。この町の人々は、どんな気持ちで俺にこの食事を作ったのだろう?少女はどんな気持ちで、この食事を運んできたのだろう?
 少女はゆっくりと立ち上がり、スカートの埃を払うと、俺のことを見下ろして言った。

「あたしは貴方が―いいえ、貴方達が大嫌いよ。」

***

 少女が去ってから、俺は考えた。俺には、少女たちを嫌いになる理由が、一つでもあっただろうか?俺達こそが“正義”で、少女たちは“悪”。何年も、何十年もそう教えられてきた。だから俺は、何の疑問も抱かずに戦っていた。“悪”を倒すのが“正義”だ。“悪”を倒してこその“正義”だ。だから俺は、兵士はもちろん、女、子ども、老人―なんの躊躇いもなく、銃口を向けた。多くの“悪”を倒した俺は、英雄になるはずだった。

『なぁ、お前は、引き金を引くときに、何を考えている?』
『俺はもう嫌だよ。もう、誰も殺したくない。』

 三ヶ月前、そう言って涙を流した同僚を、俺は鼻で笑っていた。弱虫だと罵り、軍の士気が下がると言って、いたぶった。 “悪”を倒せない者は“正義”ではない、すなわち“悪”だ。俺は何も間違えていないはずだった。

 少女が運んできた食事は、とても塩辛かった。


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このストーリーに関するコメント

13/07/23 光石七

拝読しました。
正義のために戦ったのに、それは相手にとっては無慈悲で、主人公が少女から聞かされた話も無慈悲に主人公の心をえぐる。
構成が素晴らしいと思いました。
おそらく拷問を受けるよりも主人公は大きなダメージを受けたのではないでしょうか。
戦争がいかに愚かか、改めて突きつけるお話だと思います。

13/07/24 とな

光石七様
コメントありがとうございます。
主人公と少女、それぞれの無慈悲な部分を汲み取っていただけて嬉しいです!長年信じてきた正しいことが、他の人々には正しくない。それを少女に気付かされた主人公は、とても苦しい思いをしたと思います。
一日も早く、戦争がなくなるといいですね。

13/07/24 平塚ライジングバード

とな様、拝読しました。

興味深い物語をありがとうございます☆
無慈悲な人のテーマの使い方が絶妙だと思いました。
主人公はこの後、どういう人間になるんでしょうね。色々想像してしまいます。

正義と悪の二元論では語れないものを巧みに表現されていると感じました。
次回作も期待しています♪

13/07/26 とな

平塚ライジングバード様
コメントありがとうございます。

気付かされた主人公は、この後どうなるか。いくつか考えてみたのですが今ひとつしっくりこないので、読み手の皆さんの想像にお任せすることにしました。

次回作、考えていますがまだ不慣れなので上手くまとまりません…笑
のんびりマイペースに書いていくので、投稿出来たらぜひ読んでください!頑張ります!

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