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イノウエヒロトさん

好きな本の作者さんは時雨沢恵一さんと高橋源一郎さんです。 よろしくお願いします。

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異世界へ憧れた男

13/07/11 コンテスト(テーマ): 第十二回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 イノウエヒロト 閲覧数:1116

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「飛行機の中でその話をするとどうなるか」
 
 青島正は好奇心に駆られた。以前出張へ向かう時、飛行機の中で読んだ本に青島は虜にされていた。
 
 青島は、出張の多いサラリーマンだった。そして移動中や出張先ではよく本を読んでいた。青島の読む本はミステリー系の本が多く、よく異次元やパラレルワールド、そして宇宙の果てや深海の謎などの本にいつも没頭していった。
 青島は過去に五芒星の中に特殊な文字で書いた紙を持ち、自らの身体で異次元へと行こうとして実践してみたが結局何も起こらなかった。そして期待はずれな結果に不満が残った青島は苛立っていたままの状態だった。
 
 そんな折、青島はいつも出張前に立ち寄っている大型古本屋で、ある一冊の本に目が止まった。その本はかなり古く、出版している会社さえ青島は聞いたこともなかった。
「皆殺しの夜」と題されたスプラッター小説本の様だった。
 
 青島はスプラッター類には特に関心を引かなかった。血を見たり、想像するのが嫌だったし、何より生々しい残酷な表現は青島にとって大変苦痛を感じさせた。
 しかし何故かこの本は青島の目に留まり続け、そのタイトルと本の外観は行き場のない刺激を求めていた青島の脳裏に焼き付き、どこにいてもあの本の事が気になって仕方がなかった。

 そして翌月、出張が決まり、飛行機の中で読む本を探そうといつもの古本屋に立ち寄った時、あの本がまだ棚に収まっているのが青島の視界に入った。既に誰かに買われていたと思っていた青島はついに我慢ができず、その危険な誘惑のする本に恐る恐る手を伸ばしたのだった。

 その本は、家族に裏切られ、恋人にも捨てられた男が孤独の中追い詰められ、ついに発狂。彼の住むアパートの住人を手当たり次第皆殺しにした後、失踪するという内容だった。

青島はあまりの生々しい表現のあまり何度も吐き出しそうになった。しかしその一方で行き場を失っていた青島の欲求は満たされていったのだった。

 そして、何よりも本の最後に一行の警告は青島を最も魅了した。

 「警告 この本を朗読することにより起こりうる一切の不備について弊社は責任を負い兼ねます」


 そして青島の中でそれはひらめいた。

 それはあまりにも一瞬だった。それと同時に多数の乗客を巻き込んでしまうかもしれないという危険性と、背徳感と、そして好奇心が青島の中に生まれ、それは次第に大きくなり、ついには激しい葛藤を起こした。
 そしてあまりにも危険な誘惑に撃ち勝てなかった青島は、何も起こらなければ問題ないし、何か起きればすぐにやめればいいという身勝手なルールを決めた後、空港で荷物を預け、青島はその本と共に帰還先へと向かう飛行機へと乗り込んだ。


 そこはいつもの機内だった。いつものように2列の通路があり、いつもの様にシートはサラリーマン達に覆われ、いつもの様にスチュワーデスがが安全の手引きをジェスチャーした後、いつもの様に問題なく飛行機は離陸した。
 青島はそんな退屈な日常が大嫌いだった。

 そして機体が上空で安定すると左の通路側に座っていた青島は内ポケットから本を取り出すと、男が狂い始めだしたシーンからボソボソと小さな声で語り出した。
 その光景を隣の席の男が不審に思ったがすぐに機内オーディオに耳を傾けると、静かに目を瞑ったのだった。

 しばらく経って、青島がそのシーンをつぶやき始めた。
 「深夜に男は大家の部屋に押しかけると、出てきた中年の男の顔を包丁で切り裂き、うずくまっているその大家の血に染まった首に深々と突き刺した。」

 ガタガタガタガタッ!

 揺れてもいない飛行機の中で青島の上のトランクから不自然な物音がした。

 青島は自分の中で何かが満たされ始めたのを感じた。

 「次に男は大家の部屋から合鍵とゴルフバットを奪うと母子の寝る部屋に忍び込み、母親の頭を叩き潰すと寝ぼけて起き上がった小学生ぐらいの子供の腹や胸に向け、何度も何度もフルスイングを叩き込んだ。」

 乗客たちの中でどよめきが起きた。どうやら機内オーディオが突然止まったらしい。
 青島の口元はだらしなく開いていて、大きな笑みを浮かべていた。

 「それから明かりのついた隣の部屋へ入り込むと先程の、物音で目を覚ましていた若い女が怯えて座っていた。男は女の顔を思い切り蹴飛ばすと馬乗りになり強く首を締め始めた。鼻血は出ていたが美しかった女の顔がどんどんとうっ血しどす黒く変わっていき、やがて醜く朽ち果てていく過程を見届けると男は歓喜のあまり動かなくなった女に向けて射精した。」

 突然、機体が上下に激しく揺れたかと思うと青島の視界は真っ黒に閉ざされてしまった。
 
 次に青島の視界が開けた時、青島は飛行機の中にいたが、もうそこに日常は存在していなかった。

 機内全体には不協和音な音楽が流れ、機内に点在している数人のサラリーマンは頭から血を流して倒れていた。中には首が変な方向に曲がっているものもいた。そして何名かは天を仰ぎながら奇声をあげていた。
 胸を露出していた女性のスチュワーデスがよだれと小便を垂らしながら通路を歩いていた。それを、青島の隣にいたはずのサラリーマンが押し倒しては奇声をあげながら首を締め始めていた。

 完全に狂った世界だった。
 
 青島が読むのをやめるにはあまりにも手遅れだった。しかし、青島は恐れるどころか、青島の望んでいた異世界へと繋がったことが嬉しかったのか、青島は達成感で満たされて幸せに浸っていたのだった。
 
 そしてしばらく経って、青島はある違和感を覚えた。それは先程一瞬だけ大きく揺れていた飛行機が今は揺れ一つなく運行されていたことだった。
 青島は周囲に巻き込まれないように意識しつつ、遥か先にあるコックピットへと向かった。その途中、むせ返る血の匂いと、人を喰らっている男が目に入り、胃が逆流しそうになった。

 青島はやっとのことでコックピットへとたどり着くと、厳重に閉ざされたドアをノックした。
 「どうぞ」
 中年の男の声がした。青島はドアを開けようとしたが、開かなかった。
 「ドアが開かないんです」
 「ああそうかい、それじゃあ今開けるからそこで待っててくれ」
 異常な光景の中、緊張感のないやり取りが行われた。窓に映る外は真っ暗で何も見えなかった。依然、少し向こうでは人々は人肉を喰らい合い、狂った人々が騒いでいた。
 永遠かと思われるほどの時間を青島は感じた。

 突然、前触れもなくガチャリと鍵が開いた。それと同時に青島の中に言いようのない嫌な胸騒ぎが起き始めていた。青島の呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が激しくなる。

 そして、とても重たく感じる扉を、青島は渾身の力をこめてゆっくりと開けた。

そこには。




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