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さとろくさん

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Day Dream

13/07/02 コンテスト(テーマ): 第十一回 【 自由投稿スペース 】  コメント:1件 さとろく 閲覧数:1127

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高垣樹は妹である楓の細い首に手をかけていた。それは、ほとんど無意識だったといってもいい。
これしかないと、そう思ったのだ。
「ごめん楓」
口には出さなかったが、その声は楓に届いているように彼は感じた。何度も何度も心の中で呟きながら、指先に力を込めていく。楓は一切抵抗しなかった。
窓から差し込む光が楓の顔を照らすと、彼女の顔は鬱血しながらも、微笑んでいるように見えた。

ある日、樹の母親は失踪した。
何が理由だったのか、樹にも楓にも、父親にすらわからなかった。
母親が突然居なくなるなんてことは、父親と些細なことから喧嘩になり『実家に帰らせてもらいます』といった古臭いセリフを残し、海外にでも行くのかという大きなキャリーケースを引きながら、一週間程実家へ帰っていた時だけだった。
その時と今とでは大分状況が違う。まず母親はご機嫌だったし、父親との確執など無いようにみえていたからだ。
しかし、母親が帰らなかった日には、どうせ実家にでも帰っているのだろうと、彼らは母親の失踪を軽く考えていた。
だが時間が経つにつれ、連絡一つ寄越さないとは何かよっぽどのことがあったのではないかという不安が、段々と心に広がっていった。
母親の携帯には何度か連絡をしたが、すべて留守電になってしまい、とうとう圏外になってしまった。
これはただの家出じゃない。
そう思い父親が母親の実家に連絡した時、自分達の考えは間違いだということに気付かされた。自分達の考えはあまりに平和ボケしていて、愚かだったと、後悔する事しかできなかった。
みんなを捨てて行かなければならない理由が母にあったのか、もしくは事件に巻き込まれたか、そのどちらかであることは明白だった。
当然一家は後者を心配した。その日のうちに捜索願を提出するために警察署へ向かったが、警察の態度は事務的なものだった『年間十万件程の捜索願が提出されているんだって、だからよほど事件性がなきゃ警察は本格的な捜査なんてしないよ』クラスメイトの誰かが、そう言っていたのを樹は思い出した。
警察から連絡が来るのは、きっと母親が事故でも起こすか、死体になった時なのだろう。じゃあ、一体残された家族はどうすりゃいいんだよ。樹は心の中で悪態をついたが、彼にできる事はなにもなかった。
「大丈夫きっとすぐ帰ってくるよ」
警察署を後にし、皆で車に乗ると、不安そうな二人を見て困ったような笑顔で父親は言った。樹も楓も、様々な不安を抱きながらも、父親の言葉で自分を納得させる事しかできなかった。

それから三年が経ったが、母親は結局帰って来なかった。死んでいるのか、生きているのか、それだけでも知りたかった。
しかし、慣れとは怖いもので、母親が居なくなった直後には、家は重苦しい雰囲気に包まれていたが、それも今はない。皆が、母親の話題をあえて出すような事もなくなっていた。
樹は十七歳、楓は十四歳になっていた。ちょうど母が失踪した時の樹の年齢である。昔から楓は甘えん坊だったが、母親が居なくなってからは、どちらかといえばしっかりとした性格になった。
樹にはそれが少し寂しくもあった。表には出さないが、きっと辛さを背負い込んでいるのだろう。自分に少しくらいは相談してくれてもいいのに、そう思ったりもした。十一歳で突然母親が居なくなってしまった彼女にとっては、同年代の子達が普通はしないようなつらい思いを抱えているはずだ。樹がそうだったように。それを誰にも相談せずに、一人で抱えている。それは楓の強さなのか、弱さなのか。唯一の兄妹なのだから、もっと頼ってくれてもいいのに。今日家に帰ったらそれとなく話をしてみよう。そう思うと自然と足取りが軽くなった。
「ただいま」
樹はそう言いながら家のドアを開けた。返事はなかった。誰も帰っていないのだろうか。靴を脱いだ時、違和感を覚えた。楓のローファーがおいてあったのだ。
「楓ー? 帰ってるのかー?」
少し大きな声で呼んでみるが、返事はない。
西日が差し込んでいるリビングで、楓はソファーに座っていた。どこを見ているのかわからないような、虚ろな目をして。
「楓? どうしたんだ?」
肩に手を起き彼女の虚ろな目を見つめながら、樹は何度か呼びかけた。
ふっと楓の目に光が宿り焦点があったように見えた。そして、樹と目を合わせた瞬間、彼女は咽び泣いていた。子供のようにわんわんと泣く彼女を、樹はそっと抱きしめた。
「落ち着いた?」
樹はそう言いながら、まだ少しだけひっくひっくとしゃくりあげている彼女にホットミルクを渡す。
楓からの返事はなかったが、マグカップはしっかりと受け取っていた。大分落ち着いてきたようには見えるが、一体何があったのだろう。もちろんこんな楓の様子も心配だが、何が彼女をそうさせたのか、それが気になった。
「何があったのか話してくれる?」
返事はなかった。マグカップを見つめながら、楓は少し考えているように見えた。
「俺達は唯一の兄妹だろ?」
楓は一度樹の目を見た後、また泣きだしてしまった。樹はそれを静かに見守っていた。
「学校でね……」
やっと話しはじめた楓の声は心なしか震えていた。
「なにかあったの?」
樹がそう聞くと、楓はまた口をつぐんでしまう。学校で、となるとやはりいじめの類だろうか。
「もしかして、いじめられているのか?」
こちらから言っていいものかどうか躊躇うものだったが、このままでは一向に話が進まないと思い、樹は単刀直入に質問した。
「いじめ……なのかもしれない」
「かもしれないっていうと?」
「あんなのを、いじめの一言で片付けることなんて出来ないよ、だって私……」
肝心な事を言う前に、楓はまた泣き出してしまう。ただ、学校でなにかしらのいじめを受けて、このような状態になってしまったのは確実だった。そして、そのいじめはきっと以前から受けていたのだろう。しかし、今日耐えられない程の何かが起きた。恐らくそういう事なのだと樹は思った。
「何をされたんだ?」
樹がそう尋ねても、楓は彼の視線から逃れるかのように、再び手に持ったマグカップに視線を落とすばかりで、口を一切開かなくなってしまった。
「分かった。これ以上は聞かないよ。何があったのか、話す気になったら俺に相談してくれ。父さんにはこの事は言わないでおくから」
樹がそういうと、楓は首を縦に振り、殆ど中身の残っているマグカップを置いて、彼女の部屋がある二階へと階段を登っていった。

楓との約束通り、樹は父親には一切この事を話さなかった。しかし、彼女が滅入っているのは明白であり、それを心配した父親がある日提案をした。
「引越しをしよう」
朝食を食べている最中の出来事だった。その提案は樹にも楓にも唐突過ぎて、どう答えればいいのか、戸惑った。
「この家は三人で住むには広すぎるだろう。掃除も大変だろうしな」
父親はそう言いながら微笑んだ。母親が帰ってくるかもしれない、そう頭によぎったが、二人共それを発言するほど、子供ではなくなっていた。
「そうだね。いいと思うよ」
樹は同意した。元々父は都内まで車で通勤していたし、樹は電車で私立の学校に通っていた。楓は公立の中学校に通っているため、遠くに引っ越すのならば学校が変わってしまうが、例の一件を思うとそれでいいのではないかと考えたからだ。
「楓はどうだ?」
「二人がいいなら、それでいいよ」
父親が尋ねると、楓は素っ気なくそう言った。やはり、母親の事が引っかかっていたのかもしれない。言わずとも、心の何処かでは母親はまだどこかで元気に暮らしていて、いつか戻ってくるという考えがあったのだろう。それは樹も同じだった。しかし、音信不通で三年も居なくなっていた母親が、突然この家に帰って来るなどという奇跡を待つより、今苦しんでいる楓を救ってやりたいと思う気持ちの方が強かったのだ。

新居のマンションは十二階建ての七階で2LDKだった。
越してからというもの、最初はふさぎ込んでいた楓だったが、徐々に元気になっていった。樹は、楓と同室になったことで、彼女の傷を少しでも癒せているのではないかと考えていた。一方で、父は深夜に酒を飲み、酔っ払って帰ってくることが多くなった。父親に何があったのか、樹には分からなかったが、仕事が忙しいのだろうとか、やはりまだ母の失踪の事を引きずっているのだろうと自身を納得させていた。
それは大きな間違いだったのかもしれない。
ある朝、いつものように朝食をとろうとリビングに向かうと、父親は母親と話していた。話していた、というよりは、母親の幻聴と会話していた。樹にはそうにしか見えなかった。一緒にテーブルについている楓は青白い顔をして、父親を見つめていた。
カーテンが開けられた窓からは清々しい朝日が差し、いつもと一寸変わらないコーヒーの香りが部屋を包んでいたが、父親の周りだけ、別世界のように思えた。
「おはよう」
緊張で掠れた声で樹がそう言うと、父親の視線は樹へと向けられた。彼の表情は穏やかな笑顔だった。
「おはよう。相変わらず朝が弱いな。昔っから起こすのが大変だったんだろ?」
その質問はきっと、父親にしか見えない母親に向けられたものだった。楓はうつむいてしまっているだけだった。
「今日は朝ごはんを食べる気分じゃないんだ。楓、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
樹はそう言うと、楓の肩に手を置いた。楓の体が一瞬強張ったのがわかったが、すぐに席を立ち、ごちそうさまと、か細い声でつぶやいた。
「おいおい、母さんがせっかく作ってくれたのにもったいないな。残した分は父さんが食べてもいいのかい?」
「ごめんね。食べていいよ。今日はやけにご機嫌だね」
「そりゃそうだよ、母さんが帰ってきてくれたんだから。お前たちもちゃんと母さんと話をしなさい。そんなそっけない態度だから、母さんが悲しんでるぞ」
冗談交じりに父がそういうのを聞きながら、楓の手を引き部屋へと向かった。

ベッドに腰掛けた楓はかすかに震えていた。リビングからは、母親と談笑している父親の声がまだ聞こえてくる。
「大丈夫か?」
「何が……?」
「父さんのことだよ」
「樹には聞こえてた?母さんの声」
「いや、俺には聞こえなかったよ」
「母さんの声が聞こえるの」
「どういうこと?」
「分からないよ……」
「それは父さんの会話と噛み合ってるのか?」
「いえ、ただ私に向かって語りかけてくるだけ」
「なんて言ってくるんだ?」
「普通の何気ない会話だよ」
「聞こえてないのは俺だけなのか……」
樹にはそれがいい事なのか悪いことなのかわからなかったが、ただ、少しの疎外感が心の中に生まれたのがわかった。
「どうするの?」
「俺達にはどうもできないよ、父さんにこの事を言うのはよそう」
父に事実を伝えて、それがいい方向に向かうとは樹には思えなかったのだ。もし、父親がいまそれで幸せなら、自分達もそれに付き合うべきだ。
「そんな上手く演技する自信ないよ」
「大丈夫、楓なら出来るよ。二人で頑張ろう」
そう言って楓の頭を撫でると、彼女の目は潤んでいた。

結果的にいえば、樹の判断は間違いだった。父親はそれから日が経つにつれ、いきいきとしていったし、二人も父親のそれに合わせていた。負担があるのは合わせる側だけで、父さんはすっかり元気だし、根本的には間違っているかもしれないが、自分の判断は正しかったと思っていた。
しかし、その間違いが露呈する日が来てしまう。
朝食時の出来事だった。いつもと変わらない朝だと思っていた。しかし、その日は父親と父親の創りだした母親との会話が聞こえて来なかった。父親が淹れたであろうコーヒーの香りを嗅ぎながら、樹はリビングへと向かった。
リビングに入ると、父親は泣きそうな顔をしながら樹を見て、そしてわずかに頬を緩めたと思うと後ろにあった窓を開けた。樹には父が何をしようとしているのか分からなかった。
「なにしてるんだ父さん」
「ごめんな樹」
そして、父親は飛んだ。
樹には止める時間があったはずだったが、体がいうことを聞いてくれなかった。
父親が空を飛んでいる、そう思った直後、父親が地面に激突し、ただの肉塊になってしまった音を聞いた。
ただ、呆然としているしかなかった。考えることが多すぎて何を考えているのかわからなくなってしまっていた。
「どうしたの?」
楓の声で世界がクリアになる。コーヒーの香りも蘇り、サイレンの音と野次馬のざわめきも聞こえてきた。そして樹は彼女の首に手を伸ばすと、指先に力を込めた。
「樹?」
楓の声にわずかに指先が反応する。彼自身どうしてそうしたのかわからなかった。ただ、絶望だけが心を支配していた。咄嗟に無理心中を図ろうとしていたのかもしれない。色白な楓の顔が徐々に鬱血し、赤紫色へと変化していくのを見ながら、父が飛び降りていった窓から指す光と、カーテンを揺らす風が心地よく感じた。
樹の中で何かが弾け、指を離すと、それから子供のように泣きじゃくった。楓は朦朧とした意識の中で彼が落ち着くまで抱きしめ続けた。

樹は、それからのことはほとんど覚えていない。激動の毎日だったはずなのに、樹の心は空虚で、自身が何をしているのか、それすらはっきり覚えていなかった。ただ、この国では遺族は悲しむ暇も与えられてない事だけが分かった。
彼は暫く、父親の遺品を整理する気にもなれず、怠惰な生活を続けていた。しかし、ふと父親の声が聞こえたような気がして、父親の部屋へと入った。もちろんそんな声は実際に聞こえているはずもないし、聞こえていても幻聴なのは彼にもわかっていた。
デスクの上には発見したまま開封もしていなかった遺書が残っている。それは樹へ宛てたものだった。なぜ楓と自分ではなく自分宛にしたのか、それは中を開いたらわかるような気がして、それを手にとった。
『樹へ、これを読んでいるということは、私は死んでいるのかもしれない。私がまともなうちにこれを残しておこうと思う。まず、最初に言いたいのは、お前そうなってしまったのは、誰のせいでもないということだ』
どういうことか樹にはわからなかった。これはただの遺書ではなかったのか。本能は、その先を読まずその遺書をそっと封筒にいれて、このまま部屋を立ち去れと必死に訴えかけていたが、樹はそれを無視した。
『強いて言えば、私の判断が悪かったのかもしれない。大切な者を失う辛さは十分すぎる程に私は分かっていたし、お前そうなってしまった時、私は現実を受け止めるより、お前の世界を守ろうと考えてしまった。それが間違いだったのかもしれない。だから、やり場の無い気持ちになったら、私を責めてくれ』
樹の心臓は爆発しそうなほど高鳴り、手は震えていた。それでも、自分の勘が間違っていてほしいという希望にかけて、読み進めるしかなかった。
『樹、お前を一人にしてしまってすまない。本当は私がまともなうちに解決すべき事だったのだろうが、私にはどうすることも出来なかった。私も同じような症状に苦しんでいたからだ。医者から薬を貰い続けても一向に治る気配はない。だったら、お前には事実を伝えるべきでは無いと思ってしまった。これも言い訳だな。私にはお前の世界を壊す覚悟がなかった、それだけなのかもしれない。
しかし、私が居なくなった後、お前は一人で生きて行かなければならないし、現実と向きあわなければならない。結果的に、必要以上にお前を苦しめることになってしまった。それは申し訳ないと思っている』
次の一文を読んで、樹は吐き気と頭痛が襲いかかり、座りこんだ。
『楓は死んでいる。』

樹はそれを持ってあの家へと向かっていた。幸せだった頃の高垣家がある場所へ。
『楓は、引っ越す直前に首を吊った。理由はわからない。遺書も何もなかったからだ。第一発見者はお前だった。そしてしばらくして、お前は楓が死んだことを忘れているようだった。母さんが失踪した時、私も同じような状態に陥った。だから、こういう選択をしてしまった。許してくれ。無責任かもしれないが、お前は生きてくれ。一人でも強く生きてほしい。すまなかった』
くしゃくしゃになった手紙を開くとそこで終わっていた。電車に揺られながら、茫然自失とした樹の様子に異常さを感じた乗客はそこを避けるように座っていった。
楓が死んでいるはずなんて無い。昨日まで、自分は楓と話していた。触れれば暖かかった。しかし、父親があんな嘘の手紙を書いて一体何の得になるっていうんだ。今までの楓は、俺が見ていた幻覚だったのか……? 樹は父親が死んだ時以上に樹は混乱していた。

その家の前で楓は待っていた。
「兄さん」
そう言った楓は十四歳の少女の姿だった。泣き出しそうな樹を見て、楓は微笑んだ。
「大丈夫。私はここにいるよ」
これも幻覚だ。楓はもうこの世にはいない。現実と向きあわなければならない。
「死んだなんて嘘だったの。実は生きてたの」
そんなのはファンタジーの定番かもしれないが、現実にそんなことは起こり得ないのだ。樹もそれは分かっていた。ただ、それを受け入れて幸せに生きていけるならそれでいいかもしれないと考えてもしまっていた。
『一人でも強く生きてほしい』
父のメッセージが強く頭のなかで響いた。
「なんで何も言ってくれないの?」
拗ねたような声で語りかけてくる楓は、自分が創りだした幻想に過ぎない。本物の楓は灰になり、土の下に眠っているはずだった。
「楓、やめてくれ」
「どうして? 私生きてるよ。ほら、暖かいでしょ?」
そう言って抱きしめてくる楓の体は確かに温かく、死んでいるなんて信じられなかった。だが、受け入れてはいけない。これ以上話していたら、自分は父親と同じ運命を辿る気がしてならなかった。
人はここまで自分の都合のいいように現実をねじ曲げられるものなのか。この異常な状況で樹はふと冷静にそう思った。
「消えてくれ。頼むよ」
かすれた声でそう言うと、楓はふてくされたような顔をしつつ家の中へと入っていった。そこからは父親と母親と楓が楽しそうに会話しているのが聞こえる。
ここは、幸せな過去が置き去りにされた場所だ。今生きているのは樹だけだった。

樹は次に墓地へと足を運んだ。家の中で談笑していたはずの楓もそこにいた。
「兄さん」
再び楓は語りかけてくる。樹はその場に崩れ落ちるしかなかった。本当に楓は死んでいる。目の前のそれは楓じゃない。幻覚だ。でも、こんな精巧な幻覚を幻覚だと割り切ることなんて今すぐには出来ないよ。父さん。
「楓、ありがとう。俺は一人で生きていける」
「本当に? そんな状態で言われても信用出来ないよ」
楓ははにかんだような笑顔でそう言った。その目には涙があふれているように見えた。
「大丈夫だ。一人にさせてくれ」
「もう会えなくていいの?」
「とっくに楓とは会えて無いよ」
「私はここにいるのに」
「君は楓じゃない。俺が創りだした楓だ」
「どっちでもいいじゃない」
「よくないさ、本当の楓はこの下に眠っている。もうずっと会ってないし、会えないんだ」
「それを選ぶんだね」
「ああ」
そう言うと、楓の幻覚は消え、墓地にはただ一人樹だけが残された。
父親と楓の眠っている墓の前に座り込んだ。これから、一人で生きていけるかな?そう聞いても二人の返事はなかった。
冬の空は雲一つなく、肌をさす寒さが心地よかった。見上げると、そこには希望も絶望もなく、ただ澄み渡る空だけが永遠に広がっていた。


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このストーリーに関するコメント

13/07/05 かめかめ

冒頭の、樹が楓の首を絞めているシーンはどうなったのでしょうか?

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