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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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きざはし

13/07/02 コンテスト(テーマ):第三十五回 時空モノガタリ文学賞【 無慈悲な人 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1227

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列車に乗るため並んでいたら、おっさんが横入りしてきた。
ムっとした。すかさずポケットから弾を出し、発射!!
狙いたがわず。おっさんの背中に「こいつサイアク」の文字が張り付いた。

このインクは偶然の産物である。
もともと書いてすぐ消せるボールペンを開発していたのだ。が、どういうわけか、一度書いた文字を剥がしてどこにでも貼り付けることができるインクができた。商品化の目処が立たないまま、こうして私が試験を行っているわけだ。
試験というのは逃げ口上だ。認めないわけにはいかない。
これは私のライフワークだ。
喧騒の中に埋もれてしまう市民の悪意。それに対し異議を申し立て、当人に忘れられないよう警告を贈る。世の中のために。

翌日も新しい被告に遭遇した。
その若者は優先席に座っておきながら老人が目の前に立っても席を譲らない。立ち上がる気配さえ見せない。私は照準を合わせインクの塊を指で弾く。
命中。
彼の胸の辺りに「こいつは席譲らないメ〜ン」と言う文字が浮かび上がる。
老人が目を白黒させる。周囲の人は彼を見て笑い出す。
ただひとり彼だけが平然としている。彼自信は鏡を見ねば文字が見えないのだから。

駅へ到着し、彼が席を立った。周囲のざわめきがピタリと止む。
彼は右足を引きずりながら扉へ向かう。右足はまったく動かない。老人が彼に手を差し伸べる。
「大丈夫です。ありがとうございます」
彼は微笑み、自力で扉へと向かう。
誰もが彼の胸の「こいつは席譲らないメ〜ン」と言う文字を見ている。ただ彼一人が、その文字を知らない。
私は彼に駆け寄ると、自分のジャケットを彼に着せ掛けた。
「え!?」
彼が驚いて振り返る。
「すみません!どうか、しばらくこのままで!」
私の言葉に彼は疑問を押し包んでくれた。

列車が過ぎ去ると一部始終を彼に告白した。彼は自身のシャツを引っぱって文字を見つめる。
私は罵倒されるのを待った。
「すごいな。全然きづかなかった。これは凄い!」
彼は怒っていないのだろうか?
「もちろん怒ってます。けどそれ以上に、このインクは凄い。ぜひ活用してください!僕、応援します」
微笑む彼の言葉に私は涙が止まらなかった。

数日後、彼と待ち合わせた。
「先日の件を質にとるわけではないのですが。実はお願いがあります。あれを、ある政治家にぶつけて欲しいんです。内容はこう」
彼は笑顔のまま恐ろしい情報を語る。政治家Y氏が隣国と共謀して日本に核爆弾を発射すると言う。それを暴露しろと。
「本当なの?」
「ええ。あなたなら一滴の血も流さず、それを止めることができる。僕を狙い撃ちしたように。無力な障碍者を貶めることができるんだ。権力者を咎めることなんて簡単でしょう?」
彼の言葉に、私は目を伏せた。

その日、私は記者団に紛れY氏に近づいた。
「Yさん!核爆弾について一言!」
怒号が飛び交う中、彼が用意した空気銃を握る。失敗は許されない。
「Yさん!今日の会談で核開発への援助を進める意向があるというのは本当ですか!!」
Y氏がふいに立ち止まり記者団の方へ振り向く。今だ。私は狙いを定め弾を撃つ。弾はY氏を貫通した。
え!貫通!?
Y氏は胸を押さえ崩れ落ちる。周囲の記者が叫ぶ。
「血だ!」
「暗殺か!?」
「救急車を!いや、警察!」
一部の記者たちが私を拘束する。

暗殺?
私は人々のマナー違反を告発したかっただけ。それが的外れだった、それだけなのに。
まだ、息があるのでは?鼓動があるのでは?
誰かがY氏の胸に耳をつけ心臓マッサージと人工呼吸を開始したが、Y氏は意識を取り戻さなかった。

今日、私は絞首刑になる。
裁判は私に不利な情報ばかりだった。私的制裁を綴った日記が見つかったのだ。私はただインクを飛ばしただけ。誰も傷つけていないのに。

……本当にそうだろうか?私の言葉は人を傷つけていたのでは?
あの青年がのように。彼は酷く傷ついただろう。そして彼の復讐が私を殺す。
最後の時。官吏が私に聞く。
「言い残すことはありますか?」
私は目を開き、しっかり官吏を見て言う。
「誰かに腹が立つ時、それは自省すべき時です。どうか忘れないで」
私は、13段の階段に足をかけた。


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