1. トップページ
  2. 持たない人

佐々木 貴咲さん

長編が書きたいけど、なかなか書けない。なのでこっちで練習中。

性別 男性
将来の夢 人に影響を与える物語を書くこと
座右の銘 日進月歩

投稿済みの作品

0

持たない人

13/06/30 コンテスト(テーマ):第三十三回 時空モノガタリ文学賞【 迷う人 】 コメント:0件 佐々木 貴咲 閲覧数:1027

この作品を評価する

「え!? まだ免許持ってないの? 信じられない、なんで?」

 社会人の私が運転免許を持ってないことを言うと、大抵はこのような言葉が返ってくる。そんな時はいつも、何度繰り返したかわからない、もはや定型文にもなった台詞を私は口にする。

「必要ないから」

 ただそれだけの言葉を、そんな彼らに返すのだった。

 ♪

 『普通』免許、持っているのが『普通』だそうだ。最近は取らない人も増えてきたようだが、現代のような車社会の中ではまだまだ少数派だ。

 持っていることが『普通』で、持たない人をあからさまに『異常』扱いする人も中にはいる。彼ら曰く、持っていて0点、運転して+、持っていなかったらー100点らしい。そんな人たちに免許を持っていないことを告げると、態度が変わる。急に強気になったり、馬鹿にしてネタにする人もいる。

 私の出会った人のほとんどが早く取った方がいいよ、と言う。就職できないよ、持ってないと不便だよ、などなど。色々な言葉をかけてくれる。でも、私は就職できたし、持ってないことで特に不便を感じたことはない。持っていなくて感じたデメリットと言えば、そんな助言をしてくれる人々の存在かなと思う。

 さすがに私も免許を取ることに関して、迷ったことはある。社会人になりたての頃だ。

 歓迎会という名目で毎週のように開かれる飲み会。その中で毎回のように「こいつ免許持ってないんですよ」と色々な人に言いふらす上司。そして毎回のように「早く取った方がいいよ、後悔するよ」と世話を焼いてくれる先輩社員。本来大好きなはずのお酒がその時はとても不味く感じたのを、今でも覚えている。

 学生だった当時はもう少し優しい言葉だったが、社会人になってからの言葉はきつく、私を迷わせてしまった。免許を取るべきなんだろうか……そんな迷いが私の心を占領してしまったのである。

 冷静になって考えてみると、業務では絶対に必要がないし、交通の便が良い所に住んでいたので特に不便は感じていない。見栄のため、そのために30万のお金を払う。そのことに何の意味も感じられなかった。でも当時の私はそんな冷静に考えている余裕はなかった。


 そんな私を救ってくれたのが、その時に付き合っていた彼女である。
 ある日、私は彼女に免許のことを相談した。すると彼女は

「すみ君らしくないなぁ。そんな人の事たちなんか無視しちゃいなさい。重要なのはあなたがどうしたいかなんだよ? あなたの人生じゃん、決して彼らのものじゃないよ」

 とけらけら笑った。そして続ける。

「運転なら、このお姉さんに任せなさい。どこにでも連れて行ってあげるよ。あ、でも車は買ってね。すみ君の稼ぎに期待してるよ」

 と言いながら彼女は、私の頭をくしゃくしゃ撫でるのだった。

 敵わないなぁ、私は心の中で呟いた。そういえば、出会った人の中で彼女だけはそういうことを一言も口にしなかったな。

 彼女と付き合い始めるときに、私は免許を持っていないことを告げた。
「ふーん免許ないの。で、それが? 別にすみ君はすみ君じゃん。免許持ってないくらいで何か変わるわけでもあるまいし。あ、でも浮気とかしたら首根っこ捻るから。覚悟しといてね」

 そう言って、彼女はけらけらと楽しそうに笑うだけだった。



 迷っている人にとって、本当に欲しいのは肯定の言葉。多分だけど迷っている人の中では、自分の答えっていうものがもうあるんだと思う。迷うのは、周りの言葉に惑わされているせいなんだろうね。

 だから、ただ自分を肯定してくれる人がいればそれでいいのだ。素の自分を認めてくれる人がいればそれでいい。

 私は彼女からそれを学んだ。 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス

新着作品