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satukiさん

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人である証明

13/06/30 コンテスト(テーマ):第三十四回 時空モノガタリ文学賞【 探偵 】 コメント:0件 satuki 閲覧数:1100

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僕には殺人歴がある。人を殺したことがある。圧倒的なまでに弱い年頃の女の子と、二十代の女学生と、三十代のキャリアウーマンを絞殺した。
皆見事なまでにあっさり死に、周りの人間は見事なまでに僕に騙された。ただ一人の女性を除いて。
彼女は言った。
「人である証明に執着しようとするあなたは滑稽だわ。そんなことしなくても、どうしようもなく私は人であり、あなたも人なのだから。」
僕は言った。
「どうしてそう言い切れるんですか?」
微笑みながら、艶のある髪を触って彼女は言った。
「人を好きになれるから。」
ああ、なるほど。
ハンドルを握って回想していると、後ろからクラクションが鳴った。
車をゆっくり発進させると、その音は鳴り止んだ。前を向くと、前方車両ははるか前にあった。どうやら物思いにふけっている間に、尾行していた車は消え去ったようだ。
人を好きになれるから。彼女はそう言った。
どの生物も子孫繁栄を無意識下で意識していて、究極になってくると、愛情を挟まなくなってくる。
しかし人間は違う。感情があり、意識下では好意を寄せている相手としか交尾をしない。気に入らない相手とだと、絶頂すらも向かえなくなってしまう。
だから人間だ。人を好きになれるということは、人である証明である。
車を駐車場に止めて、彼女の住む家の扉を開けた。
「いらっしゃい。」
何の曇りもない微笑みで、彼女は出迎えてくれた。殺人者だったのに。人を手にかけた人間なのに。
「ご用は何かしら?」
彼女のそばで専門書を読む息子さんのそばに行くと、少年は花が咲いたように笑った。
「キャッチボールするかい?」
こくんと頷く様は、張り子の虎のように見えたけれど、愛着のわく動作だった。
外でキャッチボールを始めると、しばらくしてから彼女も外に顔を出した。
「ねぇ。君はお母さんのことは好きかい?」
ボールに声を乗せるように投げると、少年は上手にミットでキャッチした。
「好きだよ。」
言葉少なげに少年は答えた。
この子も人間だ。そう思えた。
彼女は服装を気にしているのか、妙にソワソワし始めていた。髪の毛のクセを気にしたり、鏡で化粧が崩れていないかチェックしている様は、まるで恋をしている女の子そのものだった。
「僕も好きだよ。」
この気持ちを言葉にした。
「お母さんはどうなのかな?」
少年はミットを母親に渡して、家の中に入っていった。
ぎこちなくミットを手にする彼女が微笑ましかった。
「キャッチボール、するかい?」
赤みのさした頬を隠そうともせずに、彼女はボールをぎこちなく構えた。
女投げで、緩やかに曲線を描く軌道の球を放った彼女は、遅れ気味に言葉を紡いだ。
「私が好きなの?」
「好きだよ。」
「ボールを投げてから言ってよ。」
「僕は人間だ。そのことに気が付けたのは、あなたのおかげだ。」
ミットの中のボールをいじりながら、沸騰する頭を無理やり動かしていた。
「私はあなたでなくても、あなたと同じ思想を持っている人には、同じことを言うと思うわ。」
「それが僕は嬉しかった。」
「ボールを投げて。」
甘い声で彼女は言う。
彼女にも取れるような緩やかにボールを投げ返すと、ぎこちなくそれをキャッチした。
「確かに受け取ったわ。あなたの気持ち。ねぇ、家に入らない?キャッチボールはもう少し暖かいところでする方がいいと思うの。」
僕は視線を彼女の家の窓の方に向けた。少年が母親の後ろ姿を見ていた。
「確かに、真冬にキャッチボールをするのは少し手が痛いですね。」
彼女に招かれるように家の中に入っていこうとすると、彼女はそっと僕の腕に自分の腕をからめてきた。。
「あの子が人に懐くなんて久しぶりに見たわ。」
「よりにもよって人殺しに懐くとは思わなかったけど。」
「それとこれとは話が違うわ。人を殺しても、人に好かれる人はいる。人を殺したから嫌いになるような人間は、初めからその人のことを好きにはならないと思うわ。」
「そうなのかな。」
「そうよ。」


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