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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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Looking for somebody

13/06/20 コンテスト(テーマ):第三十四回 時空モノガタリ文学賞【 探偵 】 コメント:12件 光石七 閲覧数:2630

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『ぬこ様の肉球にかけて、俺は真実を暴く!』
テレビから聞こえるドラマの主人公の台詞。今話題の深夜ドラマ『ぬこ厨探偵 猫川唯斗』だ。
「そうそう難事件に遭遇するかよ。この決め台詞、意味不明。どうせ犯人はあの医者だろ? 知識を利用して、犯行時刻を遅らせたんだ」
ぶつぶつ文句を言いながらも、何故か毎週見てしまう。
「お前も好きだな。明日は早いんだから、さっさと寝ろよ」
所長が私に声をかけ、二階に上がった。そうだった、明日は始発に乗るんだった。
 ドラマの探偵とは違い、実際の探偵は決して華やかな仕事ではない。特にうちは人探しを専門にしているので、聞き込みを中心とする情報取集が主な仕事となる。所長と私の二人しかいないから、これで結構忙しい。
 明日私はT県に行かなければならない。探してほしいと頼まれた男性がそこで暮らしているという情報を得た。初恋相手だそうだ。本人が療養中で、息子が代理で事務所に来た。生きているうちにもう一度会って話したいのだという。そう珍しい依頼でもないが、対象者本人と接触するのはやはり緊張する。
 ドラマの続きが気になるが、録画することにした。寝坊してはいけない。一階の事務所から二階の住居スペースへ移動し、所長の隣で床に就いた。

 翌朝、始発電車でT県に向かった。最初の手がかりは名前と若い頃の写真だけだったが、現住所までたどり着けた。住宅街だ。慎重に番地と表札を確認する。ここだ。チャイムを鳴らす。年配の男性が出てきた。写真の面影がある。自分の身分を名乗り、依頼された人物であることを確認した。用件を伝える。
「そうですか、志津江さんが……。わかりました。私も会いたいし、都合がいい日を連絡してほしいと伝えてください。志津江さんは体が大変でしょうから、私が会いに行きます」
男性は快く返答してくれた。このことを依頼者に連絡すれば私はもうノータッチだが、無事に再会できそうだ。

 事務所に戻ったのは夕方だった。所長に結果を報告する。
「ご苦労さん。大きなトラブルもなく事が運んでよかった」
「そうですね。あ、これ領収書です」
財布からレシートを出した。
「最近は忘れないな。昔はうっかりして自腹になることもあったのに。成長したなあ」
所長が苦笑いをしながら受け取る。
「そりゃ5年もやってれば」
「もうそんなになるか? 俺も年取るはずだ。……やっぱり羨ましいか?」
所長が静かな声で聞いてくる。久しぶりの質問だが、私は変わらない答えを返した。
「羨ましいですよ。依頼者も対象者も」

 実は私は記憶喪失だ。自分がどこの誰なのかわからない。今使っている名前も仮のものだ。5年半前、林の中で倒れているところを所長がみつけて病院に運んでくれた。病院で目覚めた私はそれまでのことを何も覚えていなかった。身元がわかるような物も持っておらず、とりあえず所長が面倒を見ることになった。全国紙に写真を載せてもらったりしたが、有力な情報はなく、親族や友人が名乗り出ることもなかった。
「俺、人探しの仕事やってんだ。よかったら手伝わないか? 人助けの中でお前を知ってる奴に出会うかもしれないし、見覚えのある場所に行くこともあるかもしれない」
所長の好意に甘えて探偵助手になったものの、いまだに昔のことは思い出せない。どこでどんな家族と暮らしていたのか、どんな友人がいたのか。私が調べてほしいくらいだが、何も手がかりがないのだ。難航する以前に調査のしようがない。
 対象者が依頼者に会うことを拒否する場合もある。残念ながらすでに故人となってしまっているケースもある。しかし、私はそれすら羨ましい。たとえ今会えずとも同じ地球上に生きていることはわかるし、亡くなってしまっていても依頼者にはその人との思い出がある。そういう縁を持った人がいることがどれほど幸せだろうか。私が会いたい人は誰なのか、私を探している人はいるのか。ずっと靄に包まれている。

「所長も羨ましいですか?」
私は所長に尋ねた。
「まあな。やっぱり生きているうちに会って伝えておかないとな」
所長はずっと前に奥さんを事故で亡くしている。仕事を言い訳に奥さんを大事にしてやらなかったと、今も悔いている。もっと愛と感謝の言葉を告げておけばよかったと後悔している。だから会いたい人たちの縁を取り持つ仕事をしているのだろう。自分と同じ思いをする人が少しでも減るように。

 調査報告書を仕上げ、録画しておいた昨日のドラマの続きを見た。犯人は私の予想通りだったが、トリックは見当外れだった。事件が解決し、主人公が猫に囲まれている絵でエンディングとなる。案外こいつも寂しい奴なのかもしれない。
 誰もが誰かを探している。次はどんな案件だろうか。


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このストーリーに関するコメント

13/06/20 かめかめ

探偵に頼んででも会いたい人がいるって、私もうらやましいと思います。

ぬこ厨の決め台詞、すばらしいと思います。

13/06/20 yoshiki

読ませていただきました。

色々なミステリ―的な要素をうまくまとめてあると思いました。

「ぬこ様の肉球にかけて」は受けました。(^v^)

13/06/20 しーぷ

猫はかわゆいです

今作も面白かったです。あの探偵を、こんなとこで使ってくるとは…

では、では

13/06/20 四島トイ

拝読しました。素人の感想をお許しください。
探偵、というテーマを上手く活かした話だと思いました。文章も歯切れがよく、読みやすかったです。
以下、気になった点です。
@『明日私はT県に……』以降の文です。読みようによっては、依頼主が療養中であるようにも、捜索対象の男性が療養中であるようにも解せます。書き方の順を変えるか、表現方法を変えることを御検討ください。
A捜索時間が気になります。T県までどれほどの距離かわかりませんが、始発で向かい、名前と写真のみで自宅を突き止め、事情説明をこなし、相手との約束を取り付けて、夕方には事務所に戻っている。かなり優秀であることはわかりますが、ここまで早いと小説的現実味も薄れてしまうように思いました。
B前段と後段でテーマががらりと変わりますね。後段の雰囲気が良いので、一息に説明せず、前段でも何かしら匂わせる部分があれば、というのが一読者の感想です。
以上、拙いコメントではありますが御容赦ください。

13/06/20 光石七

>かめかめさん
コメントありがとうございます。
そこまでして会いたい人、それほどの縁ってすごいと思うんですよね。
ぬこ厨の台詞、気に入っていただけてうれしいです。

>yoshikiさん
ありがとうございます。
盛り込んだ割には単調で、わかりづらい表現もあったかと。
やはり冒頭の台詞に食いつきますか(笑)

>CPUさん
ぬこ厨探偵では書けなかったので、登場だけさせてみました(苦笑)
コメントありがとうございます。

>四島トイさん
具体的なご意見、ありがとうございます。参考になります。

@ご指摘の通りだと思います。言葉足らずでした。
A現住所がわかったのは当日ではなく、前々から役所に問い合わせたりして情報を得ていたという設定でした。当日の仕事は直接対象者とコンタクトを取ることだけです。
 わかりにくかったですね、すみません。
B確かに大きなテーマは後段なので、構成をもう一工夫すべきでした。
 記憶がないが故の淡々とした感じにこだわり過ぎたかもしれません。

自分でも投稿後に誤字脱字、わかりにくい箇所に気付きました。
もっと寝かせてから最終確認、投稿すべきだと反省した次第です。
読み手の気持ちになって客観的に、という視点が足りないようです。
四島さんのようなご指摘は本当にありがたいです。

13/06/21 こぐまじゅんこ

拝読しました。

誰もが誰かを探している。

なるほどなぁ・・・と思いました。目の前にいる人を大切にしたいなぁと思いました。楽しく読ませていただきました。

13/06/21 泡沫恋歌

光石七さま、拝読しました。

『ぬこ様の肉球にかけて、俺は真実を暴く!』

この決めセリフに胸キュンになった、私もぬこ廚です(笑)

ちなみに猫の肉球アップ写真をファイルに持ってます(*`ノω´)コッソリ

主人公が記憶喪失というのが意外ですね。

私、島田荘司の「御手洗潔シリーズ」好きです。

13/06/21 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

探偵稼業、人探しから、主人公のこの境遇は、意表をついていました。
おお、そう来たか!という思いです。本人にとって辛いことだと思いますが、作品としては、大変面白く仕上がっていましたので、楽しみながら、一気に読みました、ありがとうございました。

13/06/21 光石七

>こぐまじゅんこさん
人探しをする探偵自身が実は心に傷を持つ迷い人だったら、という思いつきから話を作ってみました。
楽しんでいただけてうれしいです。
コメントありがとうございます。

>泡沫恋歌さん
ぬこ厨宣言、ありがとうございます(笑)
記憶喪失はもっと前半から小出しにしたほうが良かったかもしれませんね。
御手洗潔シリーズ、読んだことはないのですが面白そうです。

>草藍さん
もったいないコメントをありがとうございます。
もう少しうまくまとめられたらよかったのですが……
少しでも面白いと思っていただけたなら、うれしいです。

13/06/26 光石七

>凪沙薫さん
コメントありがとうございます。
ぬこ厨探偵は某サイトの雑談掲示板に決め台詞だけ書き込んだものでして、CPUさんはそれを覚えていらっしゃったんです。
事件もトリックも考え付かないので、物語にならないという……
どなたか書いてほしいくらいです(苦笑)
本作ではあえて主人公にも所長にも名前を付けませんでしたが、話を思いつけば続きを書きたいと思います。

13/07/11 汐月夜空

誰もが誰かを探している。この文が素敵だなあと思いました。
続き物の最初の一話のような雰囲気が好きです。勝手に『実は主人公と所長は親子、あるいは恩師と生徒』で『最終作でその秘密が紐とかれて感涙する日が……』とか一人で思ってました笑
それは置いといて、私も誰かを探す日々を送り続けることにします。

13/07/12 光石七

>汐月夜空さん
ありがとうございます。
ぜひ、その設定で続きをお願いします(笑)
私も探し人がはっきりしないまま彷徨っていたりします……

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