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yoshikiさん

面白い作品を知り、自分でも書いて見たくなって何年も経ちました。よろしくお願いします。 2010年 小説現代S&Sコーナーに初めて送った作品が掲載されました。作品名『幽霊の見える眼鏡』 とにかく面白いものが書いていけるといいなと思っています。 イラストはエアブラシと面相筆で昔描いたものです。

性別 男性
将来の夢 楽隠居
座右の銘 不可思議はつねに美しい、どのような不可思議も美しい、それどころか不可思議のほかに美しいものはない。アンドレブルトン

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幽体離脱

13/06/10 コンテスト(テーマ):第三十三回 時空モノガタリ文学賞【 迷う人 】 コメント:3件 yoshiki 閲覧数:1777

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 ある時、多野啓二がうす眼を開けると薄暗い自分の部屋に寝ていた。眼の前にぼんやりと天井が見える。かなり熟睡していたようだ。還暦をとっくに過ぎている啓二は近頃もの忘れがひどく、歳のせいか疲れも取れにくいし、けだるい疲労感が全身に残っていた。
 啓二は起きようと思ってふと異変に気付いた。いつもと天上の高さが違うのだ……。
 正確にいうと天上と啓二の身体との距離が異常に狭いのだ。そんなはずがない。一晩で天上が低くなるわけなどない。なおさら不思議な事には啓二は掛け布団を掛けていなかった。 真冬に布団も掛けずに寝ていたのだろう?
 次に啓二は身体がやけに軽いのを感じた。まるで宙に浮いているかのように。宙に浮く……? 啓二は下を見て愕然とした。ベッドに自分が寝ているのが見える。寝ぼけているのかと思い、眼を何度かこすっても頬をつねっても状況は変わらなかった。
 身の竦むような恐怖に啓二は見舞われた。ベッドにもう一人の自分が寝ていて、その様子を啓二が上から眺めているのだ。しかし意識があるのは宙に浮いた啓二の方で、ベッドの啓二のほうは昏睡状態と言って良かった。
 悪夢なら早く醒めて欲しいと啓二は思った。気が動転して心臓の鼓動が高まる。しかし彼はなんとか状況分析をしようと懸命に考えた。まさか、これは幽体離脱…… そ、そんな。啓二はあまりの事に大声を出そうと思った。しかし声も出せなかった。暫らくして啓二は少しずつ、ようやく冷静さを取り戻し始めた。
 だが、やっぱりこれは幽体離脱だ。他に考えられない。しかしその状況に慣れてくると、なんだかこの状態もまんざら捨てたものではないと啓二は思い始めた。今までの恐怖心が消えてそれとは真逆な感情が首をもたげ始めていた。
 身体は軽く自由に空中を飛べる。おまけに気分は爽快だ。まるで出来ない事が無いみたいに肯定的なハイな気分が啓二を支配し始めていた。
 思わず啓二は浮かれた気分で窓から外へ飛び出してみた。暫らく空中散歩をすると気分が高揚した。いい気持ちで鳩を追い抜いた。烏を蹴散らした。気分壮快だ。啓二はいつの間にか自分が幽体離脱した事さえ忘れていた。
 彼は無意識に国技館に向かっていた。大好きな大相撲を急に見たくなったのだ。啓二の身体はまさに幽体で人の目には見えなかった。誰にも知られず国技館の客席にいた和服の美人の隣に、ちゃっかりと座り相撲観戦をした。啓二は大相撲を目の前でただで観られたのだ。
 やがて結びの一番を見終わり美人も帰ったので、後を付けようと思ったがさすがにストーカーはやめて、啓二も家に帰る事にした。家に近づくと夕暮れがせまっていた。なんだか物悲しい。
 家の近くまでは帰れたのだが、予想もしない事態がおこった。ああ、自分の居た場所が思い出せないのだ。なんということだ。いや、家どころか自分がどこの誰から幽体離脱したのか思い出せないのだ。啓二が途方にくれていると近くで霊の声がした……。
「もしかして、あんたも自分の身体が判らなくなったの? 実はわしも判らなくなったんだよ」
「えーっ! あなたも霊体なのですか」
「そうだよ。わしはもうこの辺を三日もさまよっておるんじゃ」
 その霊体は啓二が驚いて声をあげると、啓二をじっと見つめてこう言った。
「まあ、急に記憶が戻る事もあるかも知れないから、あんまり焦らんほうがいいぞ」

 ――老人介護施設の上空で二体の霊体が、悩みながら、迷いながら、いつまでも彷徨っていた。
                            
                              


                             おしまい。
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 ※注  このお話はあくまでコメディです。我が家にも高齢の母がいますが、ご高齢者を中傷するような意図はまったくありませんので、ご了解ください。


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このストーリーに関するコメント

13/06/11 yoshiki

すいません。天井を天上に誤字していました。お詫びして訂正いたします
m(__)m

13/06/14 泡沫恋歌

yoshikiさん、拝読しました。

これは幽体徘徊っていうんでしょうか?
確か、死んだら若い頃に戻るというので、この人はまだ死んでいないのかも
知れませんね。

13/06/16 yoshiki

泡沫恋歌さん。コメントありがとうございました。

いや確かに徘徊ですね。生霊みたいなものなので死んではいません(*^_^*)

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