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リアルコバさん

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ラーメン

13/06/10 コンテスト(テーマ):第三十二回 時空モノガタリ文学賞【 ラーメン 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:1134

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 まるで違う国に来たような気がした。木造駅舎だった駅は巨大なビルになり、駅前のタクシー乗り場の小屋も跡形もなく、そもそも此処があの街だなんて信じられない。
(やっぱり無理だよな)唖然として空を見上げた。


 22歳で日本を離れたんだ。あてなんか無かったけれど、なんだか嫌になって、言葉は通じないけど、アメリカって国の方が信じられる気がしてたんだ。清掃のバイトとか苦しかったけど、あの国には同じように生きるのに必死な奴が沢山いて、中には悪い奴もいて騙されたこともあったけど、騙す方も必死でさ、なんか相にあってたんだよね。
10年たって小さな店を任されたんだ。いい親父さんでね。「娘と結婚してしまえ、そしたらグリーンカード早いから」そう言われる前に娘とは出来ていたから、願ったり叶ったりで結婚したよ。すぐに子供も出来てさ、もう一つ店を出して俺が親父に収まったよ。日本食も出せるレストランをね。

 気がついたら30年以上過ぎてた。娘がこないだ結婚してさ、そしたらなんだか日本が恋しくなってね。店は若い奴に任せられるし、女房は先に出来た孫に夢中だし、ちょっとね、帰ってみようかなって。実家はさ、兄貴や弟たちが皆んないるから、俺が居なくても平気でさ、「あらどうしたのって」田舎だし何も変わってなくて、たいして面白くなかったよ。大学行く時と同じ、電車に乗るときせいせいしたよ。だから4年暮らしたこの街が一番楽しみでね。やってきたら違う街になってて、まいったね。

 ラーメンってさ、向こうにはないんだよね。あるにはあるんだろうけど食べたことはないね。駅から記憶をたどりながら商店街を歩いたら、やたらとラーメン屋が多くてさ、驚いたよ。そう云えば昔もタクシー乗り場の横の中華屋で、ふやけきったようなラーメン食べてたな。けっして旨いもんじゃなかった気がするけど、今のは香りがいいんだね、食べてみたよ。
 券売機でさ、赤とか白ってなんだろうと思ったよ。店員に聞きたくても満員でさ、ラーメン屋ってこんなに混むものなんだね。白を頼んだんだ。俺が知ってるラーメンはさ、真っ黒な醤油ベースの汁でナルトとシナチクとほうれん草が乗ってたやつなんだけど、凄いね今は。でっかい叉焼と海苔、ネギがのってて、スープが旨いのなんのって、豚骨で出汁とるんだね。知らなかったよ。これ向こうで出したら受けるだろうね、porksoupnoodle とか言ってさ。とにかく旨くて全部飲み干したよ。

 商店街はところどころ面影が残っててさ、ほとんど変わっちゃったけど角の欅の木だったり、豆腐屋なんかは昔のままだね。俺が住んでたのはさらに先のタバコ屋の角を曲がった奥なんだけど、もうないだろうな、あのアパート。

「ラーメンでいいよね」あのアパートで暮らして1年くらいしてから彼女が出来てさ、あんまり料理とか得意じゃなかったけど、よく作ってくれたね、インスタントラーメン。そうだよ、あの頃は駅前の中華屋よりあの鍋で作るインスタントラーメンの方が旨かったね。
「できたよ〜」鍋のままコタツの上に出てきてお碗によそいながら食べたっけ。味噌味だったかな、飯のおかずに最高だったね。大学に行かなくなってから彼女も本格的に住み着いちゃっつてさ、「あんたも働きなさいよ」ってうるさかったね。テレビでは大物政治家が逮捕されたニュースばかりやってたっけ。そのころだよ、アメリカって国が偉く思えたのはさ。「俺アメリカ行くわ」驚いてたね、鳩が豆鉄砲喰らったような顔して言ったよ。「馬鹿言ってないで、ラーメンでいいよね」

 タバコ屋は店の形は変わったけど同じ名前であったよ。そうここだ。路地を左に曲がったらさ、驚いたよ。あの時のまんま、あの住宅街が出てきてさ、振り返るとピカピカの新しい商店街なのに、薄暗い路地はあの時のまんまなのよ。あったよ。あのアパート。懐かしいね。ここに居たんだね、俺は。

 103号室だった俺はドアの前まで行こうとしたけど、その手前でやめたよ。階段の下に花壇があってさ、小さな花がたくさんあって、それは鉢だったりなんかのプラスチックだったりに植わってるんだけど、そのひとつがさ、あの鍋だったんだ。アルマイトの花柄の鍋ね。
「じゃ俺行くわ」「本当に行くの」「家賃払えば住んでていいって大家さんに言ってたから」「うんじゃぁね」子供だったんだね、結婚とか愛とかそんなんじゃなかったし、でも彼女が買ってきたあの鍋がさ、ラーメンばっかり作ってた鍋が、花を咲かせてるんだよね。まいったよ。

 帰ろう。アメリカに、そしてラーメンをメニューに加えよう。そう思ったんだ。


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