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汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

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屈辱の初出勤

13/05/19 コンテスト(テーマ):第三十回 時空モノガタリ文学賞【新人】 コメント:3件 汐月夜空 閲覧数:1455

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「失礼いたしますわ」
(ああ! もう腹が立つ! 屈辱! 屈辱!! 屈辱!!!)
 ミイは心の中で怒りを燃やしながら、目の前の客(断じてお客様とは呼ばない)のグラスになにやら名の知れたシャンパンを注ぐ。
 その顔には笑み。それも、揺らぐことのない極上の笑みが張り付いている、はずだ。
 しかし、それでも。
「チェンジで」
 ミイにとって本日三人目となる客から無慈悲な鉄槌が落とされるのだった。


 始まりは『確認』のつもりだった。
 自分の美しさに溢れるほどの自信を持っていたミイは、その評価を再確認するためだけにキャバクラ『ギリシア』への入店を決心した。
 腰まで垂れる艶やかな黄金色の巻き髪、美しい鼻筋に裏付けられる見たものを酔わせるほどの美貌、身長168cmという高身長にBWHは94-66-97のグラマラスな体型、その圧倒的なキャパシティは人間離れしているとミイは自覚していた。
 実際、ギリシアの他のキャストはミイの容姿を見て口々に言ったものだ。
 曰く「やめてよーミイちゃん。私のお仕事なくなっちゃうわー」
 曰く「うわわわ、綺麗です、綺麗ですよミイさん♪」
 曰く「ちょっと! 触らせてもらえませんか。その玉のようなお肌を」
 などなど。その表現はべた褒めに近く、ミイは内心鼻を高くしたものだった。
 そうよね。私があなたたちに負けるわけがないわよね。と見下してすらいた。
 実際に彼女たちは身長も体型もとても小さかったので、その気持ちがなくても見下す形にはなっていたのだけれど。
 とにかく、楽勝ムードになっていたわけだ。
 実際に仕事に入るまでは。


「……失礼いたしました」
 もはや怒りを隠すこともせず、不機嫌な顔でお辞儀をし、ミイは一瞬立ち上がろうとして思いとどまり、キッとナイフのように鋭い視線を客に向けた。
「な、なんだよ」
 突然の視線に客の方は驚いたようだが、そんなことを気にすることが出来るような精神状態ではなかった。
「理由を」
 心が屈辱で燃え上がりそうだった。それでも、聞かずにはいられなかった。
「理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか? なぜ、私はダメでサキは良いのでしょう」
 サキとは私のことを綺麗だと言った同僚だった。
 小さくて、舌足らずで、化粧も下手で、お酒もうまく作れない。尊敬することすら難しい先輩だが、キャストでは一番のやり手で、ここ、ギリシアの売り上げにもっとも貢献している子だと聞いたことがある。
 正直、私とは雲泥の差があると思っている。これはちょろいと思っていた。
 それなのに。
 私に鉄槌を下した客のすべてが、次にサキを指名する。
 あの、語尾に音符をつけるような不思議ちゃんを指名する。
 そんなことが納得できるか。
 そんな思いからされた質問に、客は予想外の答えを返した。
「そりゃあ、サキちゃんは『萌える』からねえ」
「は?」
 聞き慣れない単語だった。
 萌える? それって草木が生えることじゃなかったかしら。
「分からない? 簡単に言えば、かわいいってことだよ」
「かわいい? 今もお酒をこぼして慌てているあの子が?」
 ミイは遠目に見えるサキの行為を指さして尋ねた。
 すると、客は鼻の下を伸ばして「サキちゃん……」とか呟いて、こちらの質問に答えることもせず視線をガッチリと固定している。
 なるほど。私のことはもう眼中にもないと。
「……綺麗な私じゃ駄目、ということね」
 嘆息混じりにミイがそう呟くと、客は視線はそのままに「いや、そもそも」と口を挟んできた。
「そもそも、ミイちゃんは綺麗でもないよね。」
「は?」
 今、なんと?
「時代遅れの綺麗、っていうかさ。確かにそのグラマラスな身体は見る分には圧倒されるものがあるけど、心は惹かれないね。今の子はもっと痩せてるし、もともと体格もミイちゃんみたいにがっしりしていない。そして、何よりも大事なのは」
 そこで一旦区切って、客はミイの目をじっと見て、言った。
「ミイちゃん、僕たちのことを馬鹿にしてるでしょ。そういうのって一挙一動から伝わるものなんだよ。特にミイちゃんみたいな自称美人の人からは特にね。だからミイちゃんは美人じゃない。百歩譲って身体が綺麗でも、心が綺麗じゃないんだよ」
「お待たせしましたー♪」
「おっ、サキちゃん。待ってましたー!」
 盛り上がる二人。ミイは自分の中にふつふつと怒りが湧いてくるのを感じた。
 そうですか。私は綺麗じゃないですか。
 分かりましたよ。待ってなさいよ! 絶対その言葉、撤回させてやるんだから!


 そう心に決めた彼女の愛称はミイ。
 源治名は美畏那子と書いて、ミイナコと読む。
 かつての真名は美の女神ヴィーナス。
 もっとも、彼女がこの下界でそう名乗るだけの自信を取り戻すのはまだ先の話である。 


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このストーリーに関するコメント

13/05/21 草愛やし美

汐月夜空さん、拝読しました。
凄い、衝撃のラスト、オチを読んでこの時代錯誤さが、理解できました。

確かに、物の基準は、時の流れによって、どんどん評価が変わるものです。でも、彼女が、それを「確認」するために選んだ場所が、キャバクラだったというのは、面白い設定に、とても楽しめました。発想がユニークで、えっという驚きが、読み終わった今も続いています。

13/06/09 汐月夜空

凪沙薫さん、コメントありがとうございます。

この作品のコンセプトはまさに時代の流れ。
特に美に対する見方は時代や場所によって異なります。そんなところから、美の女神として称えられているビーナスさんも、今の時代では美しくないのかも? という思いから書きだしました。
無理に張り合ってるのは、なんとなく負けず嫌いのイメージがあったからです。確かにキャバクラでなくてもいいとは思いますがね笑

>ちなみに、今は小学生や中学生に将来の夢を書かせると
キャバ嬢が上がったりするそうですね
ええ!? そうなんですか!? 時代の流れとは恐ろしいものですね。
親とか反対したりしないんでしょうか。良い面ばかりを伝えるメディアの影響が大きそうですが、悪い面を知らずにそう書いてるとしたら怖い世の中ですね。

13/06/09 汐月夜空

草藍さん、コメントありがとうございます。

時代錯誤さと言われて、改めて読んでみたらすごくわざとらしい時代設定ですね笑
ちゃんと資料を活用しないとステレオタイプのお話になってしまってだめですね。
でも、なぜこんな書き方なのか、という意図まで読み取っていただけたようで嬉しいです。

文章力ではまだまだですが、発想では他の人に負けたくないなあ、なんて思いながら書いてます。これからもがんばります。

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