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不伝さん

好き:ミステリ,ねこ

性別 男性
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無自覚なペンパル

13/04/28 コンテスト(テーマ):第二十九回 時空モノガタリ文学賞【 手紙 】 コメント:1件 不伝 閲覧数:1417

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 Nちゃんへ
 彩子です。テスト勉強が忙しくて、なかなか返事ができなくてごめんね。Nちゃんはテストどうでしたか? 私は手応えあり! なんて、いつも言ってるんだけど(笑) そういえば、この文通も始めてかれこれ2ヶ月になるね。最初に手紙を貰った日は雪が降ってたっけ。……ねえ、Nちゃん。2ヶ月経って、私気づいたことがあるんだ。Nちゃんって……

 いつものように手紙を自分の下駄箱に入れる。文通相手が渚なのではないかと彩子が気づいたのは、校門前が葉桜の新緑に覆われた五月中旬の頃だった。
 小学校一年のとき隣の席になったことがきっかけで仲良くなり、毎日登下校を共にしていた同級生。中学二年に上がった今もまだ一番の親友だと思っているその横山渚という生徒とはしかし、彩子はもう半年近く口を利いていない。
 理由はわかっていた。一年生の冬に起こった、ある事故のせいだ。
 二人で歩いていた夕方の帰り道。彩子は横道から迫っていた車に気づかないまま、野良猫を追いかけて交差点の真ん中に飛び出し――しかし、膝をすり剥いただけで済んだ。渚が寸前のところで腕を引いてくれたおかげだった。目前まで来たスポーツカーの赤色と恐怖と、渚の鞄から振り落ちたうさぎのキーホルダーがタイヤに轢かれていく光景を、彩子は今でも鮮明に思い出せる。
「あのときのこと、許してくれたのかな」
 彩子は階段を上って自分のクラスに足を踏み入れた。皆、好き勝手に談笑していて、席に着く彩子には見向きもしない。ふた月前までであればあり得なかったことだ。不登校気味だったことから登校する度に奇異の視線を向けられていた彩子には、この変化は嬉しいものだった。
 しかし、もっと嬉しいことが放課後に待ち受けていることを彩子は知っている。
 手紙。
 事故以来元気を失い、毎日家で塞ぎ込むだけだった彩子に投じられた、Nと名乗る人物からの手紙。中身は月並みな励ましの文句と世間話。初めは自宅ポストに届けられたそれに対し返事を出して、それで終わりにしようと思っていた。ところが、それは気づけば彩子の下駄箱を介した文通にまで発展していた。そして彩子にとっては生きがいにまで昇華していた。
 Nちゃんはきっと、渚に違いない――

 終業のチャイムと同時に、彩子は教室を出た。
 登校時に彩子が手紙を出すと、いつもなら下校時には返信がある。早く読みたい一心だった。早くNの声が聴きたかった。
 階段を駆け下り、何度も躓きながら下駄箱を目指す。彩子が誰ともぶつからなかったのは、放課後まもないだけあって廊下に人影が無いからであった。
「わっ」
 だから、自分の下駄箱の前で衝突してしまった。思わぬ人影に。
「あ……彩子さん」
 自分の名前を呼んだその人物を、彩子は知っていた。
 奈月。渚の妹。
 彼女の手に握られていた封筒を見て、彩子は小さく笑った。瞳が潤んでいくのが自分でもわかる。彩子は嬉しくて、悲しかった。
「それ、渚に頼まれたんでしょ?」
「え?」
「放課後までにここに置いといてって、頼まれたんでしょ? ありがとう!」
 彩子は奈月の手から手紙を奪った。
 可愛らしい封筒だ。全体が山吹の花で飾られており、渚の大好きなうさぎのシールで閉じられている。彩子はこの手紙を大事に取っておこうと心に決めた。恐らくこれが、最後になるから。
「違うんです!」
 靴を履きかえ、その場を去ろうとした彩子を、奈月は絞り出すような声で引きとめた。
「彩子さん違うんです。その手紙は……」
「本当にありがとね!」
 彩子は走り出した。手紙を大事に抱えて。

 奈月は自宅に帰り、この二ヶ月のことをひどく悔いていた。
 朝、彩子の下駄箱で受け取った手紙を胸に抱える。まだ読んでいない。どんなことが書かれてあっても、今日ですべて終わりにするつもりだったからだ。
 悩んだ末、奈月は結局それを開けないまま、仏壇の前に置いた。
 交通事故で亡くなった姉に手紙を供えるのは、これで十七回目になる。
「渚お姉ちゃん。彩子さんはまだ、お姉ちゃんがそっちに行っちゃったことを受け止めることができていません。毎日元気に学校に通えるようになれば、いずれは心を取り戻してくれると思って始めた文通だったけど……ごめんなさい。でも彩子さんが本当に元気になったら、必ずここに連れてきます」
 奈月は手紙を手に取った。やはり責任を持って最後まで目を通さなくてはいけない。涙を拭って封を開ける。

 ……ねえ、Nちゃん。2ヶ月経って、私気づいたことがあるんだ。Nちゃんって……もしかして、天国にいるのかな? ねえ……渚。私、あれ以来、記憶があやふやで……でも、私のせいで……私を助けたせいで……ごめん。償えるものじゃないと思うけど、ごめん。渚。それと、天国の渚からのメッセージを今までありがとう。奈月ちゃん。


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このストーリーに関するコメント

13/05/01 名無

彩子を庇った渚も、渚の死を受け入れられない彩子も、自分も悲しいのに彩子を励まそうとする奈月もみんなすごく優しくて、より切なさが際立っているように感じました。これから現実に立ち向かっていく彩子を応援したいです。

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