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小坊主のおたより

13/04/22 コンテスト(テーマ):第二十九回 時空モノガタリ文学賞【 手紙 】 コメント:3件 おでん 閲覧数:1572

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 母上様、お元気でしょうか。 
 ここ数日は星を拝めぬ夜が続いていて、少し寂しゅうございます。
 特に今宵は雨まじりの風が廊下をひっきりなしにたたくので、耳を覆いたくなるようなうるささでございます。一度は身を床に入れたのですが、なかなか寝つくことができず、こんなときは母上様におたよりでもと思い立ち、筆をとった次第です。

 迎えました応永七年。思えば去年はさまざまな出来事がございました。
 幕府と守護大名間の争いもようやく鎮火を迎え、ここ安国寺においても、以前のような日常を取り戻しつつあります。
 ところが最近は、あの男がめきめきとその頭角を現しはじめ、よりいっそう私の頭を悩ませるようになりました。これが、一難が去ってはまた一難ということなのでしょうか。
 
 母上様は、あの男――周建の「屏風の虎」の話をお覚えでしょうか。室町殿の申された無理難題を、彼が知恵(私にはただひねくれているようにしか思えませんが)をもってやり返したあの話です。
 今朝、周建はまた室町殿に呼ばれて出かけていきました。北小路室町へと移られてからのあの方が、周建に入れ込んでいることは誰の目で見ても明らかです。
 前将軍様のお人柄と実績をふまえればふまえるほど、あのような男と御戯れになることに関して私は疑問を感じてなりませんが、人というものは時として、他の人の理解をやすやすとこえる存在であるということを鑑和尚より常日頃から聞かされておりますゆえ、致し方ないことなのだと思うようにしております。
 
 ただ私が許せなかったのは、周建を取り囲む人間たちの自堕落ぶりです。仮にも同じ仏に仕える身として、彼らの言動を一度おもいきり叱りつけたこともありましたが、まるで効果がみられませんでした。
 それが、すべて周建の影響だということは、鑑和尚も口をすっぱくして言われております。ただ、そんな鑑和尚が一番、彼の影響を受けているのも事実でございます。
 その証拠に私は先日、この際あの男を破門されてはいかがと提案しました。すると、周建に大好物の水飴をなめられたことでいつまでも文句をたれていたはずの和尚自身が、しまいにはそれはやり過ぎだと言い出すしまつです。

 私はもう我慢なりませんでした。安国寺と鑑和尚を、これ以上かきまわされたくはなかったのです。
 そして今日、周建が室町殿のもとへ出かけたのをいいことに、私は仮病を使って修行を休み、彼の部屋へと忍びこみました。なにか、彼を破門においこむ決定的なものが見つかればと考えたのです。ふだんは真面目な私ですから、誰からも仮病を疑われることはありませんでした。

 周建の部屋は、その性格とは裏腹にきちんと整理整頓がなされていました。そしてすぐに、私は見つけてしまったのです。
 
 それは、机の上にぽつんとおいてありました。
 それは、周建が母親にあてたおたよりで、まだ書きかけのようでした。
 
 いけないこととは思いつつ、私はそれを手に取って、綴られた文字を目でおいました。内容は、離ればなれになった母を想う、七つの子供がいかにも書きそうなものでした。
 瞬間、私は自分の手が震えているのに気づきました。ただのおたよりであるはずなのに、私はその数枚の紙を、水面に写る月をすくうようにして扱っていたのです。いくら内容が平凡とはいえ、これはあの、周建が書いたものに違いないのですから。
 
 そして私は悟りました。あの自由気ままな小坊主が、どうして人に愛されるのかを。
 そして私は悟りました。あの小坊主とは、同じ道にいるようで、まるで異なる道を歩んでいるのだということを。

 明日、周建は寺に戻って参ります。きっとまた、土産話の一つや二つ、持ち帰ってくることでしょう。こうして目を閉じれば、寺の坊主たちが彼を取り囲みもてはやす姿や、少し離れたところからそんな様子を微笑ましく見守る鑑和尚の顔が、ありありとまぶたの裏に浮かびあがります。
 
 
 ああ、母上様。
 私は今、母上様にお会いしとうございます。
 そして叱ってやってください。修行をずる休みしたばかりでなく、盗人同然の行為をはたらいた私を、うんとお叱りください。あなた様のお叱りが、仏の道を踏み外してしまいました今の私には、一番の薬だと思えてなりません。

 決して叶わぬ願いを。甘えを。どうかお許しください。
 また、おたよりいたします。(了)


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このストーリーに関するコメント

13/04/22 青海野 灰

一休さんですね。あえて彼を脇役に置き、名前も出ない生真面目な小坊主の嫉妬と懊悩を描いた趣向が面白かったです。
この主人公にも史実的な背景があるのでしょうか?
推敲を重ねられたであろう非常に丁寧な文体に好感を持てます。

13/04/23 光石七

拝読しました。
とても面白かったです。
実際にこんな小坊主もいたかもしれないなあ、と納得してしまいました。

13/04/26 おでん

青海野 灰さま

初めはモデルになるような人物を捜したのですが見つからず、
結局、自分でつくったキャラを主人公にしました。
お読みいただき、ありがとうございました。


光石七さま

楽しめていただけたようでなによりです。
こんな小坊主きっといたと思います。そして私はこんな小坊主が一休さんより好きです。
お読みいただき、ありがとうございました。

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