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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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怒る女

13/04/01 コンテスト(テーマ):第三回 【 自由投稿スペース 】 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:2347

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 笑顔は美しいと一般的に世間ではそう言われる。

 だが、笑顔が似合わない者だっている。笑い顔が妙に下品に見えたり、低能そうに思えたり、歯を見せて笑うとマヌケで興醒めしてしまうような――。
 朱里(じゅり)は、まさにそんな感じがして、笑顔がちっとも似合わない女だった。
 よく『ツンデレ』などという言葉を聴くが、朱里の場合は『ツン』だけで、『デレ』はいらない。 
 朱里は怒った顔が一番美しい。 
 怒りでつり上がる眉、唇を強く結び、キッと睨みつける瞳――怒れば、怒るほどに朱里は妖しく美しくなるのだ。

 始めて、朱里と会った時、彼女は激しく怒っていた。
 地元で人気のあるイタリアンレストラン。そこはいつも満席で予約を入れないと食事ができない店だった。その満員でざわついた店内に、突然、女の怒鳴り声が聴こえた。
「いつまで、待たせるつもりなのよっ!?」
 そう言って、店員を捉まえて怒鳴っていた。
 慌てて、店の支配人が出てきて、何か説明していたが、
「七時に予約入れて、もう八時過ぎてるのに、まだテーブルに着けないなんて! どうなってるのよ? ちゃんと事情を説明しなさい」
 と、かなり怒っている。
 きつく睨みつけて支配人に抗議している、あの女の尖った美しさが僕の胸へ突き刺さったのだ。
《なんて魅力的な女だ!》
 僕の脳裏に『怒る女』の顔が焼きついて、この女のことが昼も夜も忘れられなかった。――こんな僕はドMなのかも知れない。

 意外なほど早く、想い焦がれる『怒る女』と出会うことができた。
 今度も彼女は怒っていた。そこは駅の改札口だったが彼女は転倒していた。膝小僧から血を流し、ハイヒールのカカトが折れて歩けない状態で、
「ヒドイわぁー!」
 大声で叫んでいたのだ。
 改札から出てきた人に突き飛ばされて彼女は転倒したが、相手は謝りもせず逃げて行ってしまったようなのだ。――確かにヒドイ、怒る気持ちもよく分かる。
 しかし、僕にとってチャンスだった。
 転んで座りこんでいる彼女に、ハンカチを渡し、これで患部を押さえていなさいと言うと、彼女を優しく抱き起こした。そのまま、肩に手を貸してタクシー乗り場まで連れて行くと、運転手に一万円渡して、「これで彼女を自宅まで連れて帰ってください」と言った。
 タクシーが発車する間際に彼女が、連絡先を訊いたので携帯の番号を教えた。
 偶然にしろ、こうして彼女と話す切欠ができて嬉しかった。怒っている彼女の顔を思い出す度に胸がキュンとした。――やっぱり僕は真正ドMだ!

 上手くいって携帯にかかってきたらラッキーと思っていたら、二、三日して彼女から連絡が入った。
 僕は嬉しくて舞い上がったが、できるだけ冷静を装い対応する。
「先日はありがとうございます」
「どういたしまして、ケガは大丈夫ですか?」
「はい。傷になりましたが、もう痛くないです」
「それは良かった」
「あのう……お借りしたハンカチをお返ししたいので一度会って貰えませんか?」
 彼女の方から会いたいと言ってきて、僕はもう小躍りしたい気分だった。
 そして、ふたりで会って話している内、彼女が僕に好意を持っていることが分かった。
 朱里は僕より一つ年下で小さな出版社に勤めていると言っていた。昔から短気な性格なので彼氏ができても、すぐにフラれちゃうのと肩をすくめて言った。
 なんてバカな男たちだ。怒っている朱里の美しさは女神レベルだぞ! それを分からないで、『怒る女』を拒否するなんぞ、愚の骨頂だ。

 だけど、僕と付き合うようになって朱里は怒らなくなってしまった。
 あの美しい顔が見れないなんて……。僕は悲しかった。
 代わりに、僕の前であの最悪の笑顔を作るようになった。
 イヤだ、イヤだ! 朱里の笑顔はヘラヘラして下品で不細工だ。そんな顔は絶対に見たくない!

 だから、美しき『怒る女』朱里を見たいがために怒らせようとした。
 つまらないことで上げ足を取ったり、わざと勘に触る言い方でネチネチ嫌味を言ったりして、彼女を怒らせようと僕は必死だった。――だが、何を言われても耐えているのか、怒ってくれないのだ。
 ちょっと、キッとした表情になるが思い直したようにヘラヘラした笑顔になった。
 そんな朱里を見る度に、彼女への愛情が冷めていく、僕が好きなのは怒った時に見せる尖ったナイフのような危険な美しさなのだ。

 最近、僕の機嫌が悪いからと朱里が気を使って、家にきて自慢の料理を作ってくれるというのだ。
 朱里の手作り料理なんて楽しみ、嬉しくてスキップしたい気分だった。そして、白いエプロンをつけた朱里がキッチンに立って料理を作ってくれた。
 料理はオムレツとあさりのボンゴレ、シーザーサラダだった。心を込めて作ってくれた料理はどれも美味しくて大満足だった。
 怒っている彼女と一生幸せに暮らせたら――なんて、矛盾した夢を胸に描いていた。

「ねぇ、どう?」
 ヘラヘラしながら僕に料理の感想を訊いてきた。その最悪の笑顔を見た瞬間、ムカッとして皿をテーブルにひっくり返した。
「こんな、マズイ料理が食えるかっ!」
 その言葉に朱里の表情が固まった。そのまま僕を凝視したまま、静かな声で質問した。
「――そんなに、私のことが嫌いなの?」
「ばかっ!」
 吐き捨てるように投げつけた言葉に、朱里は青ざめ、唇をギュッと結ぶ、瞳だけが異様にギラギラ光っている。
 おおー! これぞ怒りマックスの朱里の顔だ。
「あんたなんか、最低よ!」
 憎悪を込めて睨みつける。
 いいぞ! その顔だ。ゾクゾクしてきた。
「うるさい! このブスがぁー」
 もっと怒れ! もっと美しい顔を見せてくれ。
 思いっきり罵倒してやったら、朱里はいきなりキッチンに走って行った。戻ってきた時、手には包丁が握られていた。
「そんな物持ってきてどうする気だ?」
「あなたのことが好きだったのに、本気で愛していたのに……」
「おまえなんか嫌いだ!」
 ついに朱里の怒りが爆発した。
「許せない! 許せない!」
 ヤバイ! 本気で怒らせ過ぎた。包丁を握ったまま突進してきた。怒りで燃える瞳で――ああ、神々しいほどに美しい。

 僕の胸の包丁が突き刺さっている。

 怒り狂った朱里に殺されるのなら本望だ! その美しい顔を心に刻んで死んでいこう。――だって僕は究極のドMだから。

「ああ……刺しちゃった。ゴメンね。あなたのことが大好きだったのに……。だから、何を言われても怒らないよう、ずーっと我慢してたけど……いつもの短気がでちゃった」

 胸に包丁を刺したまま死んでいる男の傍らで、『怒る女』は泣き崩れた。


                                 ― おわり ―


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このストーリーに関するコメント

13/04/01 泡沫恋歌

写真は無料フリー写真素材[ 足成 ] 様よりお借りしました。
http://www.ashinari.com/


女を怒らせ過ぎると怖ろしい結果になりますよ(*`ノω´)コッソリ

13/04/01 こぐまじゅんこ

泡沫恋歌さま。

拝読しました。
怒らないと愛してもらえないなんて、やっぱり朱里がかわいそうです。

ドMも過ぎ足れば及ばざるがごとし、ですね。

13/04/01 yoshiki

読ませていただきました。

わかります。そういう人いますよ。女も、男も。

でもやっぱり笑顔の素敵な人がいいなあ(^_^;)

とても面白かったです。多少Mっぽい人間より…。

13/04/01 草愛やし美

泡沫恋歌さん、拝読しました。

これは面白い、極限のオチが素晴らしいです。
怒りの顔に魅力を感じる男、そういう人も実在するかもしれません。殺されるほどの怒りなら、さぞや美しかったことでしょう、私も、見たいかも(苦笑)

13/04/02 泡沫恋歌

こぐまじゅんこ、コメントありがとうございます。

怒らないと愛して貰えないなんて・・・矛盾し過ぎて困ります。

ただ、笑ってる顔より、怒ってる顔の方が魅力的な人は確かにいますよ。

13/04/02 泡沫恋歌

(。´・o・`)ぁ...スミマセン!

こぐまじゅんこ ⇒ こぐまじゅんこさま(訂正) 

敬称が抜けてしまい、申し訳ありませんO┓ペコリ

何しろ、書き直しが出来ないもので失礼しました。

13/04/02 泡沫恋歌

yoshikiさま、コメントありがとうございます。

確かに笑顔が可愛い女性は魅力的ですよね。

ずいぶん、昔に読んだ文献で江戸時代のだったかなあ?
夫が自分の妻に、
「おまえは笑い顔が不細工だから、一生、俺の前では絶対に笑うな」
と言った男が居たらしい。

一生、おおっぴらに笑えないなんて・・・それはちょっと衝撃だったので、
それを題材にして、ギャグ? 風に書いてみました。

文字数は2700文字くらい。

13/04/02 泡沫恋歌

草藍さん、コメントありがとうございます。

怒った顔がきれいだからと、怒るようなことばかり言われたら、
ストレス溜まっちゃいますよね?

怒らないように笑顔を作っていたのが裏目に出てたなんて・・・。

朱里はそういう意味で可哀想な女性でした。

13/04/02 そらの珊瑚

恋歌さん、拝読しました。

世の中、いろんな好みの人がいるので、「怒る女」にしか魅力を感じないというのも実際いそうです。
悲劇的な結末ですが、ある意味主人公は愛を全うしたのかも、と思いました。

13/04/03 泡沫恋歌

珊瑚さん、コメントありがとうございます。

この男は究極のドMだったので、そういう意味では愛を全うしたと
思います(笑)

一応、これはギャグです( 〃´艸`)

13/04/04 ドーナツ

拝読しました。

ブラックユーモア風で、こういうの好きです。

私も、イケメンの怒った顔、結構好きだから Mかも(^^
この彼氏、怒った彼女に刺されたから、ハッピーエンドか、、な??
だけど、男と女のこういうすれ違いも、こんな極端じゃないけど、実際にあるなぁとおもうと、この物語のラスト、ニヤリとさせてもらいました。

13/04/05 泡沫恋歌

ドーナツさん、コメントありがとうございます。

これはブラックユーモアですよ。

究極のドMなら、彼女を怒らせて殺されても至福かも知れないと・・・
思って書いたお話です。

ですが、実際、笑い顔の似合わない人はいますよ。
男でヘラヘラ笑うのはNG、やっぱり仕事に熱中している真剣な眼差しが
素敵だと思います(`・ω・´)ハイ!

13/04/21 鮎風 遊

意外性のある話しでおもしろかったです。

だけどこんなことで刺されるなんて、やってられないかな。

13/05/03 泡沫恋歌

鮎風さん、コメントありがとうございます。

まあ、女をあんまり怒らせると怖いよ・・・という話ですわ(笑)

キレやすい女もいますので、言動には重々注意をしてくださいね。

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