メラさん

 主に純文学系を書いていますが、特にジャンルにこだわっているわけではありません。気ままに、マイペースに小説を書いてます。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 知足。悠々自適。日々新た

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祈り

13/03/23 コンテスト(テーマ):第四回 【 自由投稿スペース 】 コメント:3件 メラ 閲覧数:1601

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 祈る時は自然と手が合わさる。どんな国のどんな宗教でもそうだ。右手と左手を合わせ、祈りを捧げる。
 写真でしか見た事のない僕の曾おじいさんは左腕がなかった。遠い南の島で砲弾を受け、どこかに吹き飛んだそうだ。僕の父はおじいさんからそんな戦争の話をたくさん聞かされて育った。
 僕はやはり又聞きだったせいか、父がただ単に話しベタだったのか知らないが、父の話す「祖父の戦争体験」に、子供だった僕はあまり興味がもてなかった。戦争も、砲弾も、僕にはリアリティのない遠い昔話でしかなかった。テレビ・ゲームで指先を通して放たれる銃弾やレーザー・ビームの方が、僕にはよっぽど現実感があった。
 曾おじいさんは祈っただろうか?合わせる事のできない手で、何かを祈った事があるだろうか?戦争の終結?家族の幸福?自身の懇願?死者の冥福?
 この頃、やけにそんな事を考える。手を合わせるたびに、ふと会った事もない曾おじいさんの事を思い出してしまうのだ。
 ただ僕は不思議とこう思う。片腕で捧げる祈りは、ゆとり教育とやらで雑に育った僕の両手の祈りよりも、きっと神様とか仏様という存在に近くて、強く正しい祈りのような気がする。

 あの日、まだ幼かった僕は必死で祈った。食事もとらず、眠りもせずに祈った。爪が食い込み、合わせた手が痛くなるまで懸命に祈ったのだ。薬臭い病院の待合室で、ずっと祈り続けたのだ。
 しかし僕の始めての祈りは、やはり困った時の神頼みでしかなかったのか、何処にも届かなかった。姉さんは一度も意識が戻る事はなく、そのまま死んでしまった。損傷が激しく、幼い僕には顔を見ることも許されなかった。姉さんはまだ十四歳だった。
 初めて祈る事を知った日に、僕は同時に祈りを捨てた。そしてそれまで一度もまともに神とか仏なんて考えた事もないのに、勝手に世界中の神様達を恨んだ。

 でも僕はまた、祈りを捧げるようになった。どこかの宗教とかに入ったのではない。何となく、自然に手が合わさったのだ。
 その願いが届いたのかどうなのかはよく分からないが、一時は危ぶまれた、生まれたばかりで危篤状態に陥った娘の命は無事助かり、そのまますくすくと育っている。僕は自分でも勝手なものだと呆れてしまうのだが、それ以来神社とかお寺とか行って手を合わせる事が好きになった。
 目を閉じて手を合わせていると、心が風のない湖畔の水面のように、静かで、そして凛と張り詰めているのが感じる。でもとても穏かな気持ちで、満たされる。
「僕等を見守ってください。そしてありがとう」
 僕は十四歳で天国に行った姉さんに向かってそう呟く。ありがとう。

 曾おじいさんが南の島で失くした片腕は、現地で土と化してしまったのだろうか。今度家族で一度その島へ行ってみたいものだ。今では観光都市になっているその島は、英語が話せなくても不便がないほど日本人観光客で溢れている。
 人はやがてこの世界から消えていく。生まれて、死んで、世界の人々は入れ替わりながら、受け継がれている。死んだ後に残された人々は彼らを想い、感謝し、祈りを捧げる。そして日常の中に、静かな一時を持つ。目を閉じて、心の中にある水面に耳を澄ませるために。


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このストーリーに関するコメント

13/03/26 草愛やし美

メラさん、拝読しました。

とても深い内容のよい作品ですね。

私は、片手で捧げる祈りなんて考えたこともありませんでした。自分が、両手で祈れる幸せを思いました。最後の文が心に響きました。

13/03/26 泡沫恋歌

メラさん、拝読しました。

これは多少なりともメラさん自身の宗教観が入っているのでしょうか。

祈りというものの本質は人のために祈っていると見せかけで
実は、自分自身の心の安定のために祈っていることも多いと思います。

深く感銘を受けた作品でした。

13/03/31 鮎風 遊

そうですね、残された者はずっと想うのですよね。
そしていつの間にか祈ってるのかも知れませんね。

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