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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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幻のサーカス

13/03/10 コンテスト(テーマ):第二十六回 時空モノガタリ文学賞【 サーカス 】 コメント:12件 そらの珊瑚 閲覧数:2050

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 かつてそこで悲惨な戦争があった。悲惨でない戦争などありえないので、あえてその形容詞は使わずともいいのかもしれない。村人はホセを見る度、その形容詞を思い浮かべた。ホセの左足は膝から下がない。彼が三歳の時に爆弾によって吹き飛ばされてしまった。しかしたった一人だけホセの事を悲惨だと思わない人がいた。ホセの母親である。我が子は生き残ったのだ。それが奇跡でないとしたら何であろう。命に比べたら足がない事など何ということはない。そう思うことで生きる力とした気丈な母親だった。夫は従軍中に敵の玉に当たり命を落としていた。勉強して上の学校へ行く事を母親は強く望んだ。息子に教育を受けさせそれによって将来ホセがより良い人生を歩めると信じて疑わなかった。小学校もろくに行けなかった自分の二の舞にはさせるまい。洗濯婦、行商、カフェの女給、身を粉にして働いた。一方そんな母親がホセは成長と共に疎ましくなった。数学の方程式を解くより星空を眺めて物語を想う時間の方が楽しかった。どうせボクは片足。友達の瞳に憐れみが浮かぶ度コンプレックスは大きくなった。「また、数学のおさらいをさぼったのね。宿題が出来るまで今夜は寝てはいけません」ある晩、サボりぐせのついたホセを、母親は叱責して、再び働きに出かけた。
「ふん、やってられるか」ホセは松葉杖を手にして家を飛び出し、母親からくすねた煙草に火をつけた。。しばらく行くと丘の上に赤や緑、黄色といったきらびやかな原色の灯りが見えた。何だろう。テントのようなものがある。入口らしき所にホセと同じ年格好の少女がいて、ホセを認めると、こっちへおいでというように手で招いた。「サーカス見ていきなさいよ」「えっでもボクお金持ってないし」「いいのよ、そんなの。その足で歩いてきたのね。ご褒美よ」初対面の少女にあからさまに同情されてホセは思わずむっとしたが、未知のサーカスというものを見てみたいという欲求には勝てなかった。テントの中は外で見るより広く感じた。客入りはそう多くない。ホセはステージに近い椅子に座った。隣の男が一掴みのポップコーンをくれた。知っている人だろうか。いや、記憶にない。けれどどこかで会っているような気がした。ステージにライオンが出てくると観客がどよめいた。「がうぅ、がぅ」凶暴な面構えである。黒いシルクハットを被った男が鞭をひとふりするとライオンはまるで猫のように中央の椅子の上で大人しく座った。そして燃え盛る火の輪めがけて突進すると、見事それをくぐってみせた。「うわ、魔法みたいだ」「そうさ、サーカスは魔法の場所さ」知らないけれど知っているような気がする男が言った。頬の涙をペイントしたピエロの玉乗り、自転車に乗るツキノワグマ、インド象の上でアクロバティックな宙返りをする鷲鼻の小人、狭い空間を目にも止まらぬ速さで駆け抜ける幾台ものオートバイ。むせるようなガソリンの匂い。ステージの上に日常を忘れる世界があり、ホセは瞬きをするのも忘れるように、見入っていた。そして最後は空中ブランコ。先ほどの少女だった。白い羽のようなドレスに着替えまるで妖精のように宙を舞っている。下に転落防止の網はなかった。落ちれば死んでしまうだろう。それはホセにも分かる道理だった。まさに命を見せる魔法。ホセはサーカスの虜になり、それから毎晩母が出かけた後こっそりサーカスに通いつめた。すぐに少女と友達になった。ある日の事。
「ホセ、今日が最後よ。明日にはサーカスは別の所へ行くわ」ホセはうなだれた。もうサーカスを見られなくなる、少女に会えなくなる。「お願いだよ、ボクも連れてって」「それ本気?」「ああ。ボク働く。何でもするよ」「だめよ」「どうしてさ」少女は、お母さんが悲しむからと言おうとして黙った。母親から逃れたいホセにとってそれは何の効果もないことだと思ったから。「ボクが片足だから?」「そうよ」少女の一言がホセの心に怒りを生んだ。かっとなったホセはテントにガソリンを撒きマッチで火を付けた。ゴオオォ……。一瞬で炎に包まれる。ホセは無我夢中で少女の手首を掴み逃げ出した。猛獣の咆哮が聞こえる。「ああ、何て事をしてしまったんだ」後悔にさいなまれながらふりむく事さえせず、家にたどりつくとそのままばったり倒れ意識を失った。
「ホセ、ホセ」気づくと朝だった。目をあけると母親の心配気な顔がすぐ傍にある。サーカスの事を訪ねたが全く知らないという。あれは幻だったのか?ホセが手に握っていたのは白いジャスミンのひと枝であった。「あっ」ホセは弾かれたように母親がいつも首から下げているロケットペンダントの蓋を開ける。そこで笑っているのは死んだホセの父。──サーカスで出会った隣の男によく似ていた。
 丘に行ってみればサーカスの痕跡など欠片もなかった。ただ満開のジャスミンがホセに笑いかけていた。


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このストーリーに関するコメント

13/03/10 クナリ

いくつもの事件が起きているのに、最後には不思議なくらいにまとまっている、印象的なお話でした。
童話のような、寓話のような。
ジャスミンの少女の、ホセへのどこか無邪気な思いやりがそう思わせるのかもしれませんね。

13/03/10 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

息も継げないような展開で、一気に読みました。ホセの気持ちも母親の思いも、どちらも凄くよくわかり、感情移入してしまいました。

ホセたち残された家族のことを心配すお父さんが、起こした不思議なのでしょうか? それとも丘の上のジャスミンの精が起こした奇跡なのでしょうか? どちらにせよ、この不思議な体験がホセにとって何かを与えてくれたのではないかと、私は願っています。

13/03/10 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

不思議な「幻のサーカス」ですね。

嘘か、誠か? 
それは亡くなったお父さんが見せた幻影だったのでしょうか?
それとも現実逃避したかったホセが自身がみた妄想だったのか?

珊瑚さん、一流の残酷さの中にある美しさは、
満開のジャスミンの花に極めけりでした。

13/03/10 汐月夜空

珊瑚さん、拝読しました。

不思議なお話でした。
ホセが見たサーカスはただの幻だったんだろうか、と思いを馳せるストーリーでした。
私は現実にあったものだと感じました。魔法だと。
父を見たことも、少女に会ったことも、サーカスで起きた出来事は全部本当のことで。
だけど、ホセが火をつけたこと、それだけは嘘に変えた。
ホセのためのサーカス団、ジャスミンが起こした魔法のステージ。
とても優しいお話でした。

13/03/13 鮎風 遊

サーカスが醸し出すファンタジー、気持ちが爽やかになる物語でした。

締めが良かったです。

13/03/14 そらの珊瑚

クナリさん、ありがとうございます。

ちょっと盛り込み過ぎてまい、字数を減らすのに大変でした。
まとまっているとおっしゃっていただき、安堵しました。

13/03/14 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

このサーカスは亡くなった人のためのもの、という設定で考えたのですが、字数の関係上そこはカットしました。
この経験がホセを少し大人にしてくれればいいですね。

13/03/14 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

読んでくださった方に、そのあたりは想像していただけたら嬉しいです。
イタリア映画「道」の主人公ジェルソミーナはジャスミンの花という意味らしく、このお話の女の子に合うかな、と思って使ってみました。

13/03/14 そらの珊瑚

夜空さん、ありがとうございます。

サーカスのイメージというと、非日常で、まるで魔法の時間がそこに流れているようだと想い、このお話を思いつきました。
ホセが火をつけたことで、日常に戻る。そこには何ひとつ変わらぬ大変な日々があるのだけれど、ホセが強く歩んでいってくれればいいなあと思います。

13/03/14 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

サーカスは子供が小さい時に、ボリショイサーカスを見に行った一度だけなのです。あんまり長くて、途中子供は寝てしまいましたが(笑)

13/03/18 光石七

夢だったのか、現実だったのか、不思議な印象を残すお話でした。
でも、この経験がホセに何か変化をもたらしてくれるといいなと思います。

13/04/02 そらの珊瑚

光石七さん、ありがとうございます。

そうですね、成長途中のホセにとって
これからの明日を作っていくためのなにかが育って行ってくれるといいなあと思います。

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