1. トップページ
  2. 星空映画館

そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

投稿済みの作品

4

星空映画館

13/02/16 コンテスト(テーマ):【 映画館 】 コメント:7件 そらの珊瑚 閲覧数:1695

この作品を評価する

西の空が暮れていく。あかあかと。こくこくと。しみじみと。優しく反復される形容詞。
三々五々、森の広場に村人たちが集まってくる。対になった月桂樹の梢に結ばれた白い布は今夜ここでスクリーンになる。
 ラウリシルバ村に外部とつながる道はない。ここへ行くためには、陸ではなく、特別製の空の道を使うしかなかった。マダムとその助手ルカ。二人は火龍に乗って、辺境の村々に映画を届ける仕事をしている。
「ルカ!」
 少女が駆けてくる。ほんのり頬を赤く染め、ブルネットの髪に白い花を挿して。
「アリウナ! 元気だった?」
「うん」
 一年ぶりに会う少女がルカにはなぜかまぶしく感じられた。
 ラウリシルバ村は自給自足の村であったが、樹々の葉の繊維から糸を紡ぎ、はた織りをする六本指の民でもあった。外部から人がやってこない環境で婚姻を繰り返すことで、その血は脈々と受け継がれている。普通の人より一本多い指によって紡がれる布は、外の世界では羽衣と呼ばれ、高い値がつく。抜け目のないマダムは、映画の代償にもらう布によって、莫大な財産を稼いでいたのだが、そのことはルカには固く口止めしてあった。
「どうせこの村の人にとって金なんて必要のないものさ。金はね、その価値を一番知っている者のところに置くのが最良なんだ。厄介なことに金は争いのもとになる。知らない方がいい事も世の中にはあるのさ」
それがマダムの言い分であった。
「それにねえ、こうしてここに来るんだって、結構な費用がかかるんだよ」
火龍は、大食らいであったし、大理石で作られた家で冷却しておかないと、不用意に火を吹きちらかして、あたりを焼いてしまう。それにしても、とルカは思う。何年も僕は無給なんだぞ、と。それに甘んじているのは訳があった。ルカには生まれつき小指がなかった。おまけに捨て子であったのだ。アリウナに初めて会った時、もしかしたら、この世の中のどこかに、自分と同じ四本指の血族が住む村があるのではないか、と。それまで【星空映画館】で働いてみるのも悪くないだろう、と。それにしても、だ。かれこれ一七年、一緒にいるのに、マダムは年を取らない。これは一体どういうからくりなんだろう。
「アリウナ、今年の映画は海の映画だよ、」
「海? 見たことないけど、知ってるわ。ここ、昔は海の底だったんだから」
「なんでそんなことがわかるんだい」
「ラウリシルバの白い大地をなめてみればわかるよ。しょっぱいの。塩だから」
「人間は海からやってきたって誰かが言ってたなあ」
「あんたたち、ずいぶん小難しい話をしているんだね。海、いってみればそれはルーツだよ」
「あっマダム。こんにちは。母さんがこれをマダムに渡して、って」
アリウナが手渡したものは、白く輝く反物であった。
「これは、極上物だねえ、蝶の羽のように薄くて軽い。なのに手に吸い付くような肌触りじゃないか」
マダムはそれを手に取り、うっとりとしながら、これは砂漠の民の王様に売りつけようと算段していた。最近、石油が出たとかで、羽振りがいいらしい。こっちの言い値で買うだろう。マダムはほくそえんだ。これでまた若返りの秘薬が買える。
「また、何か儲け話でも思いついたんですか? マダム」
「人聞きの悪い。もうちょっと小声でお言いよ」
「すみません、実はアリウナのお母さんが病気らしいんです。熱が下がらないとかで。なんとかなりませんか?」
「なんとかって、あたしゃ、医者じゃないんだから」
ルカはマダムが薬の類を買いあさっていることを知っていた。お金と健康は同じくらい大切だというのが彼女の持論であったのだ。
「確か、魔女印の解熱剤をお持ちでしたよね」
「あんたって子はまったく抜け目ないね」
「あれを譲ってあげていただけないでしょうか」
「冗談じゃない。あれがいくらか知ってんのか? 目ん玉飛び出るくらい高かったんだからね」
「お願いします」
「うちは慈善事業じゃないんだけどね」
「そこをなんとか」
「そうまでいうなら、おまえがその代金をお払いよ。そうだね、むこう十年無給で働くっていうのはどう?」
「それで結構です。ルーツ探しは難航しそうですし」
どのみちうまく言いくるめられて、給料なんか払う気などマダムにはないことを知っていた。どのみち、捨て子だったルカを拾って育ててくれたマダムは、母親みたいなものだ。
「母さん」
「へっ?」
「いや、アリウナの母さん、良くなるといいですね」
おやまあ。子供だと思っていたルカがアリウナに恋してるとは。
「なに、にやにやしてるんですか?」
「若いっていいねえ」
「?」
「はいはい、お仕事だよ」
 いつのまにか暗くなった空で星々が瞬き始めた。それを合図に【星空映画館】がスタートした。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/02/16 そらの珊瑚

画像はGATAG FreePhoto2.0より、l.bailey_beverleyさまの作品をお借りしました。

13/02/16 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

幻想的な未知の世界のお話ですね。星空で開かれる映画館、どんな映画でしょう? 海なんて見たこともない村の人たちが、目を輝かせて見ているシーンなど、想像しながら楽しく読みました。

マダムって、素敵なキャラですね。ルカとの関係は、身体的に障害があった捨て子という設定ですから、ある意味血の繋がった親子より深いのかもしれませんね。

13/02/16 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

野外映画って見た事はないけれど、スクリーンと映写機だけあれば何処でも上映できて素敵だろうな〜と思ってこのお話を描きました。
村人がわくわくしながらそれを観ているのを、一番嬉しく思っているのは、実は拝金主義のマダムなのです。

13/02/17 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

私は「マダム」がお気に入りです。
悪人なのになぜか憎めないマダムはチャーミングな女性? 
ルカとマダムのお話はまだまだ続けていけそうです。

こういうファンタジーも素敵ですね。

13/02/18 鮎風 遊

ファンタジー、
しかし、こんな世界がありそうな気になりました。

なにか絵が付けば、いい絵本になりますね。

13/02/24 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

私もマダムのキャラクターは気に入っています。(善人ではないのだけど、どこか憎めないところ、など)これからも機会があればこのふたりのモノガタリを描いてみたいと思っています。

13/02/24 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

コミック化、激しく望みます!!(笑)

ログイン
アドセンス