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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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ママチョコ

13/02/08 コンテスト(テーマ):第二十三回 時空モノガタリ文学賞【 バレンタインデー 】 コメント:7件 そらの珊瑚 閲覧数:1726

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 7:00AMにセットしておいた目覚まし時計が鳴る。そのたんびに思う。えっもう朝か? って。僕の夜はなんでいつもこう早くいっちまうんだろう。もしかして誰かが盗んでいるのかもしれない。誰かって? 夜の王様みたいなやつ。そんでもって僕から奪った夜で、どんちゃんざわぎでもしているんだろう。
 そんなくだならないことを考えていたらもう5分経っちゃったよ。
「けいちゃーん、起きてるぅ?」
 いつもの母さんの声だ。リビングが吹き抜けだから、音が筒抜けなのさ、まったくこの家ときたら。
 僕がテーブルにつくと、焼きたてのトーストが出てくる。あとはハムエッグとココア。変わり映えしないいつものメニュウってわけ。既に出勤していない父さんが食べていった納豆の臭いが漂っている。「嫌いなんだよなあ、この臭い」父さんの朝食はいつもご飯と決まっているのだ。でも家族だからって、嫌いな臭いまで共有するってどうなんだ?
「けいちゃん、今年はどんなチョコ食べたい? 去年はトリュフチョコにしたから、ガトーショコラでも焼いてみようかなあ。ネットでね、すごく簡単にできるレシピみつけっちゃったし、それとも……」
「いらない」
 まだ続く予定の言葉をぶっつりと切られた母さんは、その意味がわからないとでもいうように口をあけたまま、ポカンとしている。
「い、ら、な、い、から!」
中二にもなって、バレンタインデーにもらうチョコが母親からの一枚だって、かなりの屈辱じゃないだろうか。それならいっそゼロ枚のほうがよっぽどましさ。
 小学校からの腐れ縁の高橋が「今年もママチョコだけだったりして?」とからかう声が聞こえてくるようだ。悔しいことに、あいつはなぜか女子にもてやがる。僕はトーストを口にくわえて、家を飛び出した。玄関の横の犬小屋から、秋田犬のシロタがとび出してきて、じゃれつく。ああ〜どいつもこいつもうっとおしいな。
 カラン、カラン。腹立ち紛れに道に落ちていた空き缶を蹴ったら、思いのほか大きな音が出た。
 
 その日の昼休みのこと。学校に父から緊急だという電話があった。
「あのなあ、かあさんが救急車で市民病院に運ばれたらしい。おれはこれから行くからおまえも学校終わったら病院に来てくれ。じゃあな」
「ちょっと、それ、どういうこと……」
 父さんは慌てているようで唐突に電話は切れた。
 午後の授業はまったく頭に入ってこなかった。いったい何があったのだろうか。救急車ってことは、命にかかわる何かがあったのだろうか。僕は六時間めの終業チャイムとともにダッシュで学校を飛び出し、病院に向かった。
 母さんは頭に白い包帯を巻いて、ベッドに寝ていた。
「あら、けいちゃん。来てくれたの?」
 拍子抜けするほど、母さんの声は元気だった。
 「どうしたんだよ、それ」
「ごめんね。シロタを散歩させてたら、急に走り出すもんだから、引きずられちゃって、転んだ拍子に頭うっちゃって……」
「気ィ失って倒れてるところを近所の人が見つけてくれて救急車呼んでくれたんだよ。まったく人さわがせだよ」
 父さんは、寿命が縮んだよ、と笑って付け加えた。
「ほんと、ごめんねえ。かあさん、ドジで」
 シロタは、『僕がちゃんと飼うから』って言って小学二年生の時に飼い始めた犬だった。今はもうめんどくさくて、僕はめったに散歩にいかなくなって、その役目はかあさんに押し付けていた。
「それでね、シロタがそのままどっか行っちゃったらしくて」
「うん、捜してみるよ」
「一応大事をとって今日は病院に泊まるみたい。検査結果に異常なければ明日帰れると思うから」
 
 シロタは捜すまでもなく、僕が家に帰ると玄関の前に座っていた。自分がしでかしたことを知っているのか、僕の顔を上目遣いにうかがっている。
「おまえのせいだぞ!」
 思わず振り上げた拳におびえたように、くうん、と鳴いた。
 わかっていた。誰のせいでもないことは。なぜだか涙があふれてくる。シロタが僕のほっぺをなめる。いつだってシロタは僕の友達だった。それにしても、おまえでっかくなっちまったな。おまえも時間を誰かに盗まれちまったのか?
「あとで散歩いくか」
「わん!」
 シロタは尻尾をぐるぐる振り始めた。
 
 翌日は、なぜか目覚まし時計が鳴る前に、目が覚めた。リビングは静かだった。とうさんは出かけたらしい。テーブルの上には焦げすぎたトーストと、マグカップに冷えかかったコーヒー。
 あんなこと言わなきゃよかったな。ほんとのことを言えば、母さんの作るバレンタインのチョコ、どこかで楽しみにしていたくせに、さ。


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このストーリーに関するコメント

13/02/08 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

うんわかる、中二だものなあ、照れるよね。シロタの表情に笑顔になりました。

どこかにありそうな日常を、さらりと書いているのに、胸が温かくなり、ほんわかするお話です。こういうのって、奇をてらったものでないからかえって難しいのに、うまいなあと、思いました。

13/02/09 笹峰霧子

ママチョコって、大きくなった子供にとってはうれしくないんでしょうね。
心の奥では母親のそうした愛情を求めていても普段は気がつかなくて、なくなってみると一番大切なものだったと思っちゃうんですよね。

13/02/09 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

割とありふれた家族の日常を優しい目線で描かれていて
心をキュンとするような感動を覚えました。

いいね!
行間に込められた詩的なセンスが美しいです。
さすが、珊瑚ワールドです。

13/02/12 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

子供でもない、大人でもない、微妙なお年頃の男の子ってこんなかんじかなあ、などと想像しながら描きました。
そういっていただき、よかったです。

13/02/12 そらの珊瑚

霧子さん、ありがとうございます。

こうやってすこしづつ、親離れ、子離れしていくのでしょうか。
ちょっとさみしい気がしますが。

13/02/12 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

子供が成長すると、家族の在り方も微妙に変わってきますよね。
そんなところを描けていたら良いのですが。
ただ、犬って年をとっても変わらない存在(変われない存在かな)なので
シロタの前では容易く少年の頃に戻れるのでした。

13/02/18 鮎風 遊

ほんぼのと、また軽いタッチでいいですね。

ちょっと反抗期の少年がうまく描かれてました。
だいたい「いらない」と言いますよね。

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