おでんさん

よろしくお願いします。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

3

LPG

13/02/07 コンテスト(テーマ):第一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:3件 おでん 閲覧数:1690

この作品を評価する

 もうかれこれ、ずっと馬車の中にいる。地盤の不安定な洞窟内では、車輪がはねてよく揺れた。それになんだか湿っぽくで、すごく陰気だ。同じ馬車仲間である戦士さんと踊り子さんは、ポーカーをして遊んでいる。外では他の仲間が戦っているというのに、のんきなものだ。でもわたしは、そんな彼らにも苦言を呈(てい)することが許されていなかった。この世界では強さが全てだ。補欠の中でもさらに補欠であるわたしに、仲間たちはとても冷ややかだった。

 もともとは、どこにでもいる道具屋のおやじだった。生まれ育った村に小さな店をたて、妻のサユリと二人できりもりしていた。生活はたしかに苦しかったが、それでも毎日を楽しく明るく暮らしていた。
 ある日、やたらと感じのいい青年が店にやってきて、これから悪の魔王を倒しにいくのだと言った。ちょっと近所に薬草を買ってくるというような口調だったから驚いた。魔王とその討伐隊の存在はもちろん知っていたが、わたしのような田舎者にとっては、あまり関係のない世界だった。
 ところが青年は、あろうことかわたしをその旅に連れて行きたいと口にした。あなたが必要だ、共に戦い世界に平和を取り戻しましょうと続けられた時、思わず身が震える。こんなにもわたしを必要としてくれる者がいたことが、素直に嬉しかったのだ。
 その日の晩、サユリに魔王退治のことを話した。彼女は静かに涙を流し、あなたが決めたことなら仕方がない、今は世界平和とやらが憎いけど、誇りに思えるように努力しますと言った。そんな妻を、わたしはわんわん泣きながらめいいっぱい抱きしめた。
 後日、出発の朝、腫れた目をこすりながら村をでようとすると、サユリに呼び止められた。はい、と手渡されたのは手作りの弁当だった。手に伝わるぬくもりを感じていると、彼女はまじめな口調で言った。
 私は運命というものを信じます。きっとこの世には神様がいて、私たち一人一人の運命を決めているのだと思います。神様は、あなたに世界平和をなしとげる運命をさずけました。そんなあなたを、妻として誇りに思います。
 弁当はその日のうちに食べたかった。でも、戦闘で傷ついた勇者さんに食べられてしまった。仕方がない。これも世界平和のためだ。弱い私は、そう自分に言い聞かせた。

 勇者さんが珍しく馬車の中に入ってきて言った。
 今日、洞窟の奥にいた怪し気な老人からすごい情報を入手したぞ。悪の魔王の攻略法だ。
 そんなことを、どうして補欠のわたしなんかに話すのだろうと不思議に思っていると、勇者さんは興奮そのままに続けた。
 悪の魔王には、まずお前一人で立ち向かうんだ。
 指名されたわたしは、声を失った。
 大丈夫、殺されはしない。戦わずに、ある呪文を唱えてすぐ馬車の中に戻ればいいんだ。その呪文はなぜかお前のみが口にすることを許されていて《トンマノヌケサク》という。チャンスは一度きりだが、それを唱えると魔王の体力も減らせるそうだ。
 その日から仲間が急激に優しくなった。馬車の中にいる間は、戦士さんや踊り子さんと一緒に、色々な話をして時間を過ごせるようになった。宴もしょっちゅう開かれ、魔王を倒した後のことを話し合っては、各々が各々の想像の中に生きた。
 夜、みんなが寝静まった頃、わたしは馬車の外に出て、星を見上げながら妻のサユリを想った。そして彼女の発した「運命」という言葉に、船が波の上を漂うみたいに気持ちをゆだねるようになった。漂っている間は多くのことを考えずにすんだ。ときには、世界平和のことさえも。

 いよいよ最終決戦のときがきた。仲間たちはここにたどり着くまでの間、たくさんの傷を受けていた。悪の魔王はその異形からして、この世のありとあらゆる不幸を背負っているようだった。
 こわかったが、無傷のわたしが逃げるわけにはいかなかった。大丈夫。《トンマノヌケサク》と唱えてすぐに馬車へ引き返せばいいのだ。意を決し、馬車の中に控える仲間たちの期待を背で受けて、わたしは敵の前に立つ。
 瞬間、何者かによって操られているような感覚に陥った。そして気がつけば《トンマノヌケサク》の代わりに《サユリアイシテル》と魔王に向かって叫んでいた。発した言葉は意に反していたが、わたしの気持ちとは一致していた。もちろん魔王がダメージを受けた様子はなく、逃げそびれたわたしは逆に大打撃を受けてしまった。

 なるほど、これが「運命」というやつか。
 死にゆく間際、わたしは妻の言葉を再びおもいだしていた。妻の名を呼び愛してると叫ぶことが、神に与えた運命だったのだ。
 残された時間はもう少ない。
 薄れる意識の中で、わたしは妻に向かって話をしていた。
 
 わたしは、わたし自身の手で世界を救うことはできなかった。
 でも、救われたものは確かにあったよ、と。(了)


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/02/08 草愛やし美

おでんさん、拝読しました。

何だかとっても不思議な話ですね。

運命とは、何なのでしょうか? 答えのないないことなのかもしれませんが、救いはあったという最後の文が意味するものを考えています。ある意味、哲学的な話ですね。タイトルのLPGの意味するものも、私にはわからなくて、とても気になっています。

13/02/09 おでん

草藍さん、コメントありがとうございます。

・LPGはRPG(ロールプレイングゲーム)をいじった造語です。LはLOVEからいただきました。これはちょっと強引でした。
・主人公の運命とは、世界平和よりも妻への愛を叫ぶことでした。ただし本来、彼らゲームキャラの運命は、制作者やプレイヤーによって定められるものです。プレイヤーの気まぐれにより主人公は正しい呪文を唱えられませんでしたが、その気まぐれは、偶然にも彼の意志と一致しました。その点が、最後の最後で救われたのかなと。

説明する形になってしまい申し訳ございませんでした。
内容に興味を持っていただき、ありがとうございました。

13/02/09 草愛やし美

おでんさん、ご丁寧な返信をありがとうございます。

なるほど、ゲームの設定だったんですね、よくわかりました。

こちらこそ、相当年喰ってまして(汗)、ゲーム世代でないため、お聞きすることになって申し訳ありませんでした。若い方は、理解されていると思いますよ。

ログイン