1. トップページ
  2. ばかで鈍感なばか

クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

投稿済みの作品

2

ばかで鈍感なばか

13/01/21 コンテスト(テーマ):【 映画館 】 コメント:5件 クナリ 閲覧数:1585

この作品を評価する

ある秋の日、私は従兄のユウト兄さんと街の映画館へ来ていた。
この辺りでは一番大きな複合施設の中に入っていて、前評判の高いラブロマンスが上映されることもあって、ほとんど満席だった。
それでもスクリーン正面、やや高めの位置にあるシートに空きを見つけて、並んで座る。
ユウト兄さんは高校の教師をやっていて、今年で二十七歳になる。高二の私とは大分離れているけど、幼い頃からずっと仲良しのまま、今に至る。
昔から大人びた処のあったユウト兄さんは、実は私の初恋の相手だったりするのだが、それは内緒だ。
今私が好きな相手は別の幼馴染で、同級生のある男子だった。
「ユミ、もう始まるぞ。飲み物とかいらないのか」
ユウト兄さんがそう訊いてくれたけど、シートの並びの中央辺りに座ったため、トイレに立つ時に人の前を通らない様、水分は我慢することにした。
「うん、いい」
そして、私達が今日ここでこうしているのは、他でもない。私が今片思いしている、そのある男子のお節介だった。

先日のこと。
放課後の空き教室へ、話があるからと私はそいつに呼び出された。
その男子は、名前をカケイというのだけど、私に、好きな人が出来たと告げて来た。平静を装いながら、
「へえ、あんたがね。誰を?」
と訊く。彼と一番仲のいい女子は自分だという自負があったので、まさかと思い足が震えた。
けれど、カケイの口から出たのは私と同じアルバイト先の先輩の名前だった。
ケーキ屋で働く私をからかいに来た際にその人と知り合いになり、町中で偶然会ったりしてるうちにいつしか好きになっていた、とか言っていたと思うけど、よく覚えていない。足の震えが止まり、代わりに目の前が暗くなった様に感じた。耳もよく聞こえない。
そんな私に、カケイは能天気に訊いて来た。
「お前には言っておこうと思ってさ。ところでユミ、お前は、好きな奴とかいないの」
かっ、と、頭に血が上る音が響く。
水の中に沈んで行く様な感覚に包まれていたのが一転、全身が激しい熱に覆われた。
「いるわよ。ばかで、鈍感で、おまけにばかなのよ、その人」
震える声で伝え、、私はその場から逃げる様に駆けだした。
泣いてたまるか、と思った。
別に何も悪いことなどしていないはずなのに、ひどく情けない気分だった。


どうもカケイは、私がいまだにユウト兄さんを好きでいると思ったらしい。
ユウト兄さんとカケイも、私を交えて昔からの知り合いなので、カケイが「たまには三人で映画でも見ましょうよ」と言い出し、本人は当日に急病の振りをして欠席した。
私にチャンスを与えたつもりの様だ。
私があの日の教室から半べそで逃げ出したのは、子供の頃から続く従兄への恋の報われなさのためだ、と受け取ったのだと思われる。
なぜあんなばかを好きになったのか、自分に呆れてくる。シートの中で、私は頭を抱えた。
「ユミ、俺、カケイに『ユミからばかで鈍感だと思われてますよ』って言われたぞ。あいつ想像を絶する鈍感だな」
冷静な従兄は、全てお見通しだった。私の失恋も。
「また違う相手探すもん。私は、落ち着いちゃってるユウト兄さんと違って青春真っ只中なんだから」
ユウト兄さんは心外だという風に苦笑しながら、
「お前、教師なんて恋もしないと思ってるんだろう」
「してるの?」
「もう一年近くも経つけどな、失恋したよ」
知らなかった。
確かに、先生の恋愛というのはあまりぴんと来ない。
そう言えば、カケイの想い人であるアルバイトの先輩は、確か兄さんの勤める高校を卒業したと聞いたことを思い出した。
私は先輩の名前をユウト兄さんに伝え、「知ってる生徒だったりする?」と訊いた。
兄さんは記憶をたどるように少し黙ってから、

「ああ」

とだけ答えた。
「どんな感じの生徒だった?」
兄さんがゆっくりと息を吸い、そのまま少し呼吸を止めた。
その時ちょうど、上映が始まり、場内の証明が落ちた。
スクリーンへ向き直った私の耳に、兄さんの声が小さく届く。
「恋くらい、するさ」
それは私の質問への答えというより、独り言の様だった。
それきり、二人とも黙った。
予告編が流れる中、私はあのばかの能天気な笑顔を思い浮かべた。
私の気持ちを知ったら、今まで幼馴染の気持ちをないがしろにして来たと思って、あいつはきっと自分の鈍感さに傷つくだろう。それは嫌だった。
絶対に悟られるものか。むしろあいつの幸せに一役買って、私も一緒に笑ってやる。

あの日の教室では我慢出来たのに、今日の涙は、堪えることが出来なかった。
でも目元をぬぐう様子を見せたら、ユウト兄さんに泣いているのがばれると思い、流れるままに任せた。
ありふれた、他愛もない、人から見れば何の価値も無い失恋だったと思う。
そんな私を皮肉る様に、スクリーンの中で、ドラマチックな恋が始まった。





コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/01/22 こう

拝読しました。
こんな風に続きを想像したりしています。
ちょっと悪っぽくてみんなから敬遠されている女子Aが、ユミに、
「ユウトだろうがカケイだろうが、どっちか決めてさっさと盗ってきな!
ラブなんて所詮度胸試しさ…」なんて。それでユミは一歩踏み出せると
思います。

いろいろ思いをめぐらされる作品ですね。 こう

13/01/22 草愛やし美

クナリさん、拝読しました、あのユミさんの続々編ですね。

なるほど、ばかで鈍感なばかさんがあの人ですね。恋ってなかなかうまくいかないものです。食い違いが多々あって、でもその中をかいくぐっていくのもまた若さの楽しみだと思います。こんなコメント書く私は、年いったのだなあと、内心淋しく感じてしまいました(苦笑)
若いっていいですよね〜。これからこの話は、どう続いていくのかしら?楽しみしています。

13/01/22 クナリ

こうさん>
ありがとうございますッ。
こういう、登場人物たちの日常の一部を切り取ったような文章の場合、彼らの人生の他のシーンを思い浮かべていただけるというのは何気にだいぶうれしいことだったりします。


草藍さん>
ありがとうございます。
ばっちり調子に乗って続きとか書いております。
そうなのです、伝わらずに食い違う想いこそが青春(って言葉自体なんだかむずがゆいですが…)の真髄だと思っております。
一応この次くらいで、この人たちのお話は(超尻切れとんぼで)終了する予定です。
無事投稿できたらいずれ眺めてやってくださいッ。

13/01/22 泡沫恋歌

クナリさん、拝読しました。

なかなか恋のパズルのパーツが揃いませんね。
意中の人のハートにラブのパズルを嵌め込めたら
みんな上手くいくのにね(笑)

そんな恋の切なさが巧みに描けていると思いました。

13/01/24 クナリ

泡沫恋歌さん>
お褒めの言葉うれしいです、ありがとうございます。
普段ホラーとかミステリを好んで読んでいるので、切ない人間関係を書くのはおそらく苦手な自分なのですが、楽しんでいただければうれしいです。
>意中の人のハートにラブのパズルを嵌め込めたら
>みんな上手くいくのにね
……このフレーズいいですね。
歌詞みたいです。

ログイン