1. トップページ
  2. 思い出サイクル

汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

性別 男性
将来の夢 物書き
座右の銘 日々前進

投稿済みの作品

0

思い出サイクル

13/01/13 コンテスト(テーマ):【 携帯電話 】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:1361

この作品を評価する

「うん、綺麗になった」
 ぱんぱんと手を叩いてほこりを払い、先ほどまでゴミ溜めだった部屋を見回して一言。ちり一つ無いとは言わないけれど、誰が見ても汚いとは言えないレベルまで掃除された部屋の中は、分厚かったカーテンをレースに変えたこともあって、別の部屋に生まれ変わったように明るい。
 12月も終わりだというのに汗ばんだ服と喉の渇きに気付いた僕は、ティータイムを取ることにした。台所で用意したホットミルクとラスクを勉強机に置いて、換気のために消していたストーブをつけてから、柔らかい座椅子へと腰を下ろす。明るい部屋の中は空気が柔らかく、いつもよりもリラックスできるようだった。
 ティータイムを終えるころには部屋の中は大分暖かくなっていた。僕は心地よい眠気に満たされた意識を今一度引き締めて、唯一掃除していなかった袋の中身を机の上に落とした。
 ゴトリ、ゴト、ゴト。出てきたのは型も年代も違う三つの携帯電話だ。僕と共に生きてきた『思い出』たち。機種変更をするときに、どうしても捨てることが出来なかった僕の未練の塊。
 それらを事務的な作業でコンセントに繋いでから、古い順に中を覗いていく。
 これは、高校に進学してから僕が生まれて初めて手にした携帯。当時は某アニメにちなんで初号機とか呼んでいたそれは、黄緑色の卵型で、今見るといかにも不格好で正直いけてない。ただ、他の二つの携帯に比べて傷が少ないところを見ると、僕がどれほどの愛情を持ってこのいけてない携帯を使っていたのかが分かる。
 今なら分かる。あの頃の僕は、ただひたすらに誰かと繋がっていたかった。暇を見つけては誰かにメールを送り、夜に寂しくなっては親友に電話をした。それでも足りなくなって、最後にはソーシャルゲームの匿名の交友関係に随分とはまって、パケット放題とはいえ本来の通信料が30万を超えた請求書を見た親に怒られていたっけ。
 でも、そのくせに当時の彼女との無くしたくなかったはずのメールは件数オーバーで端から順に消えていって、今見直してみたら少しも彼女の面影を感じることが出来ないものしか残っていなかった。写メの方には残ってるのかなと思って確認してみても、そもそも人が映っている写メがなかった。当時の僕は恥ずかしがり屋だったから、きっと『風景の方が人よりもきれいだし』とか言って強がってたんだろうな。馬鹿だね。今ではこんな画質の風景なんて何の意味もないのに。
 画素の向上は思い出の劣化を引き起こすんだな、と苦笑いをしながら手にしていた携帯と充電器をリサイクルの袋へ投げ入れる。手にした次の携帯は、ライムグリーンの薄型スクウェア。カメラの画素は800万画素。当時にしては高いところを見ると、大学生になった僕は写真が撮りたかったのかな。
 ただ、確認した中身は拍子抜けせざるを得ないものだった。というのも暗証番号を忘れていて、本当に残したかったデータが見れなくなっていたからだ。なんだか悔しくて考えられるすべての数字を打ったけれど、頑なに開かないファイル。しばらく苦々しく思いながら眺めていたけれど、冬眠前のリスか、僕は。と袋へと投げ入れる。大切な思い出なら、小細工せずにとっておけよ。
 最後に手に取ったのは、今使っているスマホの一個前。画素は1200万画素。プリムレッドのスクウェアタイプ。液晶を回すとカメラが使える優れもの。
 表面を擦ると大きな傷が一つ。そうだった。一回だけ、この携帯を怒りに任せて地面に叩きつけたことがあったんだ。雨の中、走り去っていく彼女を追うことも出来ず、滲むように心を黒く染めていく嫉妬や後悔の念を捨てるように。懸命に、ただ懸命に。……何をドラマみたいなことをしていたんだろうね。僕なんてモブも良いところだろうにさ。
 動くか少し心配しながら電源を押すと、予想よりもあっさりと電源が立ち上がった。キー操作で写真とメールを確認する。幸せそうな2人が居た。結局叶うことはなかったけど、本気で将来を誓い合っていた2人がそこに居た。
 懐かしかった。彼女のことは忘れていない。写真がそれを物語っているかのように綺麗だった。今と同じ1200万画素の思い出。でも、これももう捨てなきゃ。あの時。君が去っていったあの時。追いついて縋り付くことも出来なかったどころか、彼女との思い出を叩きつけてしまったこの僕に、これを保存する資格なんてないから。
 最後の携帯を静かに袋に納めてからそれを肩にかけ、ストーブを消して車のキーを持って部屋を出る。善は急げ。未練が決心を鈍らせる前に全てを終わらせる。
 リサイクルした携帯はレアメタルをとりのぞかれ、次代の携帯へと生まれ変わるらしい。
 そこに僕は居ないけれど、生まれ変わった先で使われる携帯には、誰かの幸せな思い出が込められるに違いない。
 その方がきっと、皆にとって幸せだ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン