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笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
座右の銘 生きているだけで幸せ

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走馬灯システム

18/07/11 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 笹岡 拓也 閲覧数:125

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「これにて炭田奏多様の走馬灯を終了させていただきます。また炭田様は享年32歳とお若く亡くなられているため、生前親しくされた方1名様と数分程ご歓談できますがご利用なりますか?」

目を覚ますと私は真っ白な部屋で大きなプロジェクターに映し出される私の走馬灯を観せられていた。走馬灯を観ながら喪服を着た男に様々な状況を説明させられる。どうやら私は不慮の事故で亡くなったようだ。
私は突然死を告げられたが、意外とすんなり受け入れることができた。生前、私は死ぬ寸前に見ることができる走馬灯のことを信じていなかったが、このような形で見ることができ感動を覚える。この走馬灯は株式会社走馬灯システムが運営しているとのこと。
「どなたかお会いしたい方はいらっしゃいますか?」
基本的に人間の寿命は80歳前後と言われている。しかし私は32歳の若さで亡くなってしまったため、本来の走馬灯よりも短い。そのため、私には走馬灯システムが用意した特典を受けることができるようだ。ただいざ1人会えると言われると誰にすればいいのか迷う。私の尊敬する父に別れの挨拶、真心込めて育ててくれた母に感謝と考えたがどちらか1人を選ぶのはできない。恩師や親友なども考えたが違う。やっぱり私の人生に欠かせない妻の夏帆に会おう。
「そうだ、大変申し訳ございません。申し遅れました、私は走馬灯システム部長のカザラギと申します。短い間ですがよろしくお願いします」
律儀にカザラギさんは自己紹介をした。とても品のある方で仕事ができるオーラに満ち溢れている。この方なら人生の最後を預けても良いと感じる。
「では今奥様の夏帆様をお呼びさせていただきますので、少々お待ちください」
そう言ってカザラギさんは重そうな扉を開け部屋から出て行く。扉の向こうは一体どうなっているのだろう。開けたらきっとものすごく怒られるんだろうな。そんなことを考えて時間を潰す。しばらくして扉が開かれる。これが夏帆と会う最後の刻だと考えると様々な感情が巡り巡る。ただ最後は笑顔で別れを告げよう。
「あなた。どうしたの?」

扉から入ってきたのはカザラギさん1人。そしてさっきとは違う口調で私に話しかけてくる。一体なんのおふざけなのか。
「カザラギさん。夏帆はどちらに?」
「何言ってるの?どうかしたの?」
未だにふざけてくるカザラギさんに私は苛立ちを覚える。先ほどまで心から信用していたのに、馬鹿にされた気分だ。
「ふざけてるならもういいですよ?」
「いきなり呼ばれてそんな言い方されなきゃならないの?」
私の頭は混乱していた。まったくカザラギさんと会話が合わない。そしてカザラギさんの表情、言動は心を締め付けるような感覚にしてくる。

「ちょっと炭田様。せっかく夏帆さん連れて来たのに、そんな冷たくしたら可哀想ですよ」
急に私が信頼していたカザラギさんの口調に戻る。夏帆を連れて来たって、どこを見渡してもカザラギさんしかいない。しかも先ほどまで場違いな緊迫の演技を見せられてたんだ。
「いやいや、カザラギさん。私はあなたしか見えませんけど?」
「そりゃ私しかいませんよ?」
「え?だってさっき夏帆を連れて来たって言いましたよね?」
「あっ!説明不足でしたか!申し訳ございません!」
カザラギさんは私の表情で状況を汲み取り、謝罪をしてきた。どうやら説明が足りていなかったようだ。
「炭田様は夏帆様本人がこちらにいらっしゃると思われたのですね?申し訳ございません。こちらで用意させていただけるのは、夏帆様の生霊だけとなっております。その生霊は私に乗り移っておりまして....身体は私のような男の姿で見苦しいかと思いますが、心はしっかり夏帆様になられております。ですので先ほどお話されていたのは私ではなく夏帆様なので」
私は昔のことを思い出した。デートの約束をした日をうっかり間違えてしまったことがあった。待ち合わせの時間になっても来ない私に対して夏帆は何度も電話をしてくれた。それでも連絡が取れない私。夏帆は事故に遭ったのではないか?と涙ながらに心配してくれたんだ。しかしただの約束の日を間違えただけと知った夏帆は私と1週間話そうとしなかった。
いつも優しくて穏やかな性格だが、一度怒り出したら中々許してもらえない。さらに今回は一方的に突き放してしまった形になっているため、夏帆は相当怒っているだろう。早く謝らないとせっかく話せる時間を戴いたのにもったいない。

「さっきは悪かった。夏帆だと気づかなくて」
私は正直に謝った。言い訳をする時間はないんだ。しかし夏帆はきょとんとした顔をしていた。
「炭田様、まだ私はカザラギですよ?」
夏帆だと思って話しかけたのに、まだカザラギさんだったようだ。私はとても恥ずかしい気持ちになり、顔が赤くなるのが分かった。
「今からお呼びさせていただくのでお待ちください」
カザラギさんは少しニヤッとしながら重そうな扉を開け出て行く。その表情にムッとした私もいたが我に返る。今この時間を大切にしないといけないんだと。

「何?話って」
またしばらくして扉からカザラギさんが入ってくる。姿はカザラギさんだが、口調や雰囲気は夏帆そのものだった。どうしてさっき気付いてあげれなかったのか?少し後悔する。
「さっきは夏帆だと気付けなかったんだ。本当にごめん」
「うん。いいよ」
私は深々と頭を下げた。正直許してもらえるか分からなかったが、許しの声が聞こえたと同時に私は嬉しくて思い切り顔を上げて、夏帆の手を取った。
「ありがとう!」
興奮気味に伝える。いつもと明らかに違う私に戸惑う夏帆。そんな夏帆を見て私も少し恥ずかしくなり、すぐに手を離す。時間もそんなないだろうし早く本題に移ろう。
「あのさ!」
私が話しかけた時、夏帆も「なんかさ」と話しかけていた。早く本題を言わなきゃと焦ってはいたが夏帆に話を譲ることにした。
「なんかさ2人で改めて話すって久しぶりだね」
付き合ってた時はよく2人でデートをした。しかし結婚して息子の隆史が生まれてからは中々2人の時間を作ることができなかった。家族で過ごすことの幸せはかけがえのないもの。夏帆と2人で話す時間を作ろうとしなかった。
「そうだね。よく映画とか観に行ったなぁ」
「私たちが観た映画ってハズレばっかだったよね」
「でも1人で観なくて良かったでしょ?」
「確かに!」
夏帆とこうして2人きりで話すのは小っ恥ずかしい。それでもドキドキしながら楽しく話す。
「また行こうね!」
映画の話で盛り上がる。もっと話すことがいっぱいあるのに、こんないつでもできる話をしてしまった。それでも楽しくてやめれなかった。ただ夏帆が「また」という言葉で、私は本題を伝えなくてはいけないことを思い出す。
「どうしたの?」
私の曇った表情に気付いた夏帆は心配そうに聞いてくる。胸が張り裂けそうだ。言わなきゃいけないのに言葉が出てこない。それでも私は大きく深呼吸をして、夏帆の目をしっかり見て話し始める。
「夏帆、驚かないで聞いてほしい。もう一緒に映画に行けないし、もうこうして話すことはできないんだ」
夏帆の目に大きな涙が溜まるのが分かった。それでも私は話を続ける。
「事故に遭ったみたいで死んでしまったらしい。ごめん。まだ隆史が小さいのに、夏帆を残して…」
最後は笑顔と思っていたのに、気付くと泣いていた。こんなに愛した人と別れるのに涙を流さないことなんてできやしないんだ。
「嫌だ!私、あなたがいないと」
「夏帆なら大丈夫だよ!絶対」
夏帆はずっと首を横に振りながら泣いていた。
「寂しい思いさせるね。ただいつでも夏帆の側にいるからさ!」
私は無理矢理笑顔を作る。我ながら下手くそな笑顔だと見なくても分かる。
「夏帆。今まで本当にありがとう。隆史をよろしくお願いします」
私は涙で泣き叫ぶ夏帆を抱きしめキスをしようと唇を近づける。

「申し訳ございません。先ほど夏帆様とのご歓談は終了させていただきました」
ふっとカザラギさんに戻っていた。そんなこととは気付かず私はキスを迫る。必死でカザラギさんも抵抗し、私もやっと夏帆でないことに気付く。
どうしてこんなにもタイミングが悪いんだと私は悔しさでいっぱいになる。
「あそこでキスをしてしまえば、きっともっと辛くなる」
カザラギさんの声は枯れていた。夏帆が思いきり泣き叫んでいたからだ。カザラギさんの言う通り、多分夏帆にとって本当に辛い思いをさせることになるならしなくてよかったかもしれないな。
「そろそろお時間です。最後にこちらの窓から炭田様の告別式を覗いてみましょうか」
告別式を覗いてみて、改めて私は死んでしまったと認識した。みんなが泣いている。
「皆様、炭田様のことを本当に大事に思われていたんですね。だからあれだけ哀しみに溢れているんですよ」
夏帆に父さん、母さん、恩師に親友までみんな泣いている。
私はこれだけみんなに大事にされていたんだと知れて嬉しいと感じる。
「あっ!そろそろ夏帆様の挨拶が始まりますよ」

「夫の突然の死を私は受け入れることが正直できませんでした。しかし今日この場に来て、夫と2人きりになる時間がありました。きっと気のせいだと思いますが、夫に「ありがとう」と言われ、「隆史をよろしく」とお願いされた気がしたんです。きっと私の側にいてくれると信じて少しずつ前を向けたらと思ってます」
夏帆はハンカチを目にあてながら、しかし気丈に喪主の挨拶をしていた。私と話したことが夏帆にとって大事なものになったんだと知った時、私は安心して死を受け入れることができた。


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