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ひろPさん

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18/07/09 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 ひろP 閲覧数:77

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 「おいっ、このバカ」
 そう、誰かが呼び止めた気がした。
 「『気がした』じゃねェよ。呼んだんだよ、呼んだ。おいっ、聞いているか、バカ」
 幼女の声だ。
 でも、振り返っても、誰もいない。
 「当たり前だろ。いないのは、お前の方なんだから」
 意味が、分からない。
 「頭悪いな。死んでこの世にいないのは、お前の方。幽霊のお前には、現世の人間が見えないんだよ」
 死んだ?
 僕が?
 いつ?
 「知らねェーよ。三日前かもしれないし、三百年前かもしれないし」
 じゃあ……。
 「今後もずっとひとりの、『永遠の孤独』ってやつだ」
 やったアッ!
 「でも、不思議なんだよな。現世で自分に気づいてほしい人がいない割に、現世に未練もありやがる。どゆこと?」
  知らねェーよ。
 「あ?」
 『僕は今、記憶がない』んだぜ。
 「もっと悲壮感、持てよ」
 知るか。
 僕は何も知らない。ただ、「世界はいつも逆立ちしている」という感覚だけは、ずっとあった気がする。
 本当は空のことなのに、えんえんと海の話をしている感じ。本当はミカンのことなのに、えんえんとマグロの話をしている感じ。本当はプリンのことなのに、えんえんとプリンにのっけるクリームの話をしている感じ。
 「マグロで頭、引っ張たいてやろうか」
 このとおりでミぃ、カンべんして。
 「しかし、たしかに」と声は言った。「世界は逆しまだ。どうしてお前が幽霊で、わたしが生きているんだ?」
 知るか。世界はなるようにしかならない。プリンは食べたら、なくなる。
 「そういう老荘的な発想が、世界の圧政を放置しているんじゃない?」
 あんた、誰?
 「プリンミカン」
 じゃあ、プリンちゃん? ミカンちゃん?
 「プリ男。ミカ夫」
 あんた、誰?
 「マグロウミ」
 じゃあ、マグロ太郎? ウミ吉?
 「ウミちゃん」とウミちゃんは言った。
 海はア〜、広いなア〜、大きなア〜♪の、ウミ?
 「行ってみたいな よその国。産みも膿もあるよ」
 マグロと言えば、クロマグロの漁獲規制による業者や食卓への影響が懸念されます。
 「幽霊の割に詳しいな」
 そういうのを「詳しい」って、一言で終わらせてほしくないなあ。詳しくなるには、詳しくなるだけの必然性があるんだから。
 「『カレー好きならカレー博士に、ガンダム好きならガンダム博士になる』ってこと? ふつうじゃない?」
 「ふつう」だから、何だ。
 「当たり前だから、価値がない」って、言うのか。
 そういう、「ふつう」や「当たり前」の有り難さを置き去りにしちゃいけない――と思うんだ。
 だって、僕とウミちゃんがこうして会話しているのは、異常なことだろ? 異常なことが日常的に起きる世界なんだから、もっと「ふつう」や「当たり前」を大切にしようよ。
 「回転寿司で当たり前に食べられていたマグロが食べられなくなるのが、そんなにさみしいか」 
 そもそも、幽霊だから食べられないしっ!
 「今時の回転寿司なら、クリームののかったプリンなら、食べられよう」
 だから、幽霊なんだって!
 「何だ、つまらん」
 知るか。気づいたら、幽霊だったんだから。
 「死ぬのが悪い」
 ムチャクチャだ。
 「ムチャなものか。お前がちゃんとしていれば、よいのだろう?」
 どういうこと?
 「一緒に回転寿司、行こう」
 どうして「ちゃんとしていること」が、「回転寿司に行くこと」になる?
 「さっさと、生き返れよ」
 ムチャな。
 「そういう『できない』『できない』って、話ばっかり。先生、怒るよ」
 でも、根性で物理法則は変えられないでしょ? 日常世界において、ニュートン力学は正しい訳だし。
 「ニュートン力学を分かったところで、重力は操れないけどな。地球に住む人々は、魂を重力に引かれて飛ぶことができない」
 ガンダム博士かっ!
 「全然、ガンダム博士じゃない、ハロ」
 ネタが薄いな。
 「薄いか、薄くないか、確かめに行こうぜ、回転寿司」
 そのネタじゃない。
 「どのネタ? マグロじゃなければ、カツオでもいいぜ」
 だから、寿司ネタじゃない。
 「そうだなあ、ひまわりのタネなら、食べられるな」
 タネでもない。
 「物事を否定するってのは、簡単なことだ」とウミちゃんは言った。「そうやって、大雑把に否定ばっかりしていって、大切なものも、ついうっかり含めて否定して、捨ててないか? 西欧と言っても、一筋縄じゃないだろ? アメリカだけに限っても、人種や宗教、貧富、様々な側面がある。回転寿司だって、マグロやカツオばかりじゃない。ラーメンだってある」
 知ってる。
 「じゃあなぜ、『知ってる』くせに、『ない』『ない』ばかり言いやがる。寿司屋に謝れ」
 ゴメンナサイ。
 「心がこもってない」
 体はないのに心はあるの?
 「バカか。そりゃあるだろ。幽霊ってのは、そういう設定なんだから」
 設定? じゃあ、本当は幽霊っていうのは、いないの?
 「『うん』って言ったら、どうするつもり? その質問、『野球グラウンドで蕎麦屋の出前、頼んでいる』みたいなもんだよ。誰もこの小説に『本当は』なんて、学術的見解を求めていないよ」
 そうなの?
 「気づくの遅っ。そういう鈍くささが、お前を死に追いやったんじゃねーの?」
 鈍くさいのは、悪?
 「善の定義がないからなあ。善は、実践のなかにしか見い出せないし」
 悪も実践のなかにしか見い出せない?
 「あの空の青さに、善も悪もないだろ?」
 「空がずっと青い」ように、「僕はずっとここでひとり」なの?
 「さっき、喜んでいたじゃねェーか」
 バカどもの干渉がなくなるのは、最高だけどな。
 「記憶ないのに、そういうことは言えるんだ?」
 具体的なエピソードは思い出せないけど、不愉快だった感覚だけは体が覚えている。
 「体?」
 メンドくさいな。魂でいいよ。
 「バカどもの干渉がないならば、生き返ってもいい?」
 う〜ん、「生きることそのものが、バカどもの干渉を受けること」だから、そういう問いって、成り立たないんじゃない?
 「仮定法って、習わなかった? だから何、本気で問いの意味を考えてんだよ。『今スイカ食べたら、おいしいですか』と聞かれて、『今冬だから食べられません』って、こたえているようなものだよ。辛気臭えな。もっと、おちゃらけて行こーぜ。GO、GO、囲碁」
 GO、GO、孫。
 「その意気、その意気」
 GO、GO、アナゴ。
 「やっぱり回転寿司、行きたいんじゃねェーか」
 ソンナコト、アリマセン。
 「そんなことあるだろう。貴様はその手に世界を欲しがっている」
 だから、ガンダム博士かっ。
 あーあ、もうすぐ、ウミちゃんの声も聞こえなくなるんだろ?
 「たぶん、な」
 あーあ、さっさと早く、消滅しねェーかなあ、僕。
 「先に言ったように、未練ある限り無理だ。何が未練だ? 『最後に回転寿司に行きたかった』程度の未練なら、付き合ってやるが」
 分かんねェーよ。
 未練なんかあんのか、僕。
 「ああ、消滅していない時点で確実にある」
 未練探しの旅、しなくちゃ、ダメ?
 「誰かが決めることじゃない」
 だって、僕が死んだのが、三日前なのか、三百年前なのか、三千年前なのかも分からないんだろう? そりゃ未練なのが、マグロなのか、カツオなのか、アナゴなのか、ミカンなのか、プリンなのか、ガンダムなのか、はたまたそれ以外のものなのか分からなくもなる。
 ……まあ、きっと、ミカンなんだろうな。ミレンとミカンはよく似ているし。


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