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早良龍平さん

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将来の夢
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墓荒らしと猫

18/07/09 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 早良龍平 閲覧数:78

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 月が浮上し、その高さが頂に達したと思われるとき、人里離れた共同墓地では墓荒らしが黙々、土に鋼鉄のシャベルを突き立てていた。
 墓荒らしの背後、少し離れたところから作業を見守るモノ、月光に照り光る翡翠の瞳はひとつの黒の猫である。
 猫は四肢を地につけ、背の筋を伸ばして座っていたが、墓荒らしを見るのに飽きたのだろう、細く長い尾をゆらりと浮かせ、少し面をさげてちろちろと、真赤な舌で前肢の爪を舐め始めた。空気にそっと触れるように、高い声音で鳴いた。
 墓荒らしが肩を震わせ、辺りを見回し、また作業に戻る。
 猫は頭上、月の浮かぶ空を見上げる。丸い月が気に入らないか、すぐに顔をそらした。
 墓荒らしがシャベルを放る。硬い音が鳴るが、聞く人間は墓荒らししかいない。
 土中、墓荒らしの見下ろす先には赤と金の染みのついた棺桶が沈む。
 猫が目を瞑り、ゆっくりと体をくねらせて、伸びをする。
 そして、あまりに緩慢な動作で墓荒らしが棺桶を開き、墓を暴いたその瞬間には、墓荒らしの首筋へと、鋭い牙を突き立てていた。
 夜の共同墓地に人間の悲鳴が立ちあがる。
 墓荒らしはしがみついた猫を剥ぎ取ろうと苦心し、それを諦め、握りこんだ拳を猫の小さな頭部に打ちおろす。
 猫はその口元で、とめどなく溢れ、零れる血液を舐めまわし、飲み込むのに忙しかった。
 やがて月は、用意された頂上の座から堕ちていく。
 墓荒らしは地に膝をつき、猫は未だ、墓荒らしの血を啜っていた。
 ごくりと、大きく鳴った嚥下の音。それを最後にして、辺りは静寂に包まれる。
 猫は倒れ伏した墓荒らしから離れ、暴かれた棺桶を見下ろす。
 棺桶の中には、腐食し、肉のこびりついた白骨が横たわっていた。
 猫がそっと、棺桶の中へと降り立った。
 尻尾で撫で、包むようにしながら、猫は一歩一歩、慎重な歩みで人間の頭蓋を半周する。その隣に横たえ、丸くなる。
 猫の薄目で見つめるのは、人間の、細く荒れたあばらの上で組まれる両の手。
 十の指に柔らかな肉感はなく、動き出して、意味を生み出しようもない……。
 猫は、翡翠の瞳を閉じた。
 ゆっくりと、重力に負けて猫の形が崩れだす。黒い毛の生えた皮膚がずり落ち、その下に張り巡らされた毛細血管、真赤な筋肉の類が剥がれ、液状化して、棺桶にしみ込んでいく。
 そうして、猫が人に並んで骨となったとき、一夜の事は終わるのだ。
 共同墓地の平らな大地は巨大な月の眼差しを一心に受け止め、地下の閉じた棺桶たちは沈黙を貫き通す。
 ある棺桶の埋まる地上に、醜い形相の人形が、たった一つだけで転がっている。


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