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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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あとがき便り

18/07/02 コンテスト(テーマ):第158回 時空モノガタリ文学賞 【 あとがき 】 コメント:1件 文月めぐ 閲覧数:137

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「デザート担当の人は、鍋に水と寒天を入れて火をつけてください。かき混ぜながら寒天を溶かして、弱火で煮てください」
 先生の指示を聞いて、早速動き出す。六人の班員がいる中で、一人がご飯を炊き、三人でハンバーグを作り、二人がデザートを担当する。この班の中で由香理ちゃんと私がデザートであるあんみつを作る担当になった。
「寒天が溶ける前に砂糖を入れちゃダメなんだって」
 お母さんが言ってた、と付け加えると「さよちゃんのお母さんの情報なら信頼できるね」と由香理ちゃんがうなずいた。
 私と由香理ちゃんは中学校で初めて出会った。お互いクラスに友達がおらず、なんとなく話すようになったのだが、今ではすっかり打ち解けている。
 沸騰させたまま煮たところで今度は砂糖を加える。
 私の母は料理研究家。今までも何冊か料理関係の本を出版している。本が好きな由香理ちゃんは私の母の本も見てくれたみたいで、私たちの話題の中でも本と料理はよく登場する。そんな由香理ちゃんの影響もあって、最近は私も本を読むようになった。自分で探すのは苦手だから、由香理ちゃんのおすすめを読むばかりだが。
「固まるのが待ち遠しいね」
 由香理ちゃんの言葉にうなずく。この待っている間のわくわく感がたまらないのだ。私たちは二人で何度も冷蔵庫の前を往復しながら笑い合った。

 由香理ちゃんの引っ越しは突然だった。お父さんの転勤に伴い九州に行かなければならなくなった、ということだ。十四歳の私たちは一人暮らしなんてできない。親の都合に合わせるしかないのだ。
「落ち着いたらぜったい手紙書くから」
 今ではすっかりスマホが普及しているけど、その当時、子供は携帯電話なんて持っていなかった。だから離れてしまえば連絡手段はあまり残されていない。関東に住んでいる私が直接会いに行くことは難しいから、手紙という方法があるだけでうれしかった。
 私たちは約束を交わして、離れ離れになった。
 
「寒天のデザート?」
「今、寒天って若い女性から注目されているんですよ。ダイエットに最適、ということで。スーパーで簡単に手に入りますし。つるつるとした食感は夏に向けての出版にもってこいです」
 熱心に説明され、その提案に乗ることにした。「寒天」と聞いて中学時代の調理実習と由香理ちゃんのことを思い出した。由香理ちゃんとの文通は高校生になっても続いていたのだが、大学受験を前に途絶えてしまった。大人になって働いている今、もはや彼女がどこにいるのかまったくわからない。
 しかし、本の好きな彼女のことである。もしかしたら私の本を書店で見つけてくれるかもしれない。そんな考えに至ったのは締めきり直前だった。
「あとがきですか?」
 私の提案に首をひねる担当の下村さん。「構いませんが……」との言葉に私は飛び上がって喜んだ。
 中学生の頃、由香理ちゃんにどうやって面白い本を見つけているのか、と尋ねたことがある。その時の彼女の解答は「あとがきを先に読んでみるんだ」という衝撃的なものだった。あとがき、とはあとに読むから「あとがき」なのではないか、という常識的な考えから逸脱している。そんな突拍子もない考えをする彼女を、当時は称賛したものだ。
 私の名前を見つけ、手に取る由香理ちゃん。真っ先に読んでくれるのはあとがきではないだろうか。そんなあとがきに、彼女へのメッセージを込めたい。こんなところで下村さんと話している場合ではない。私は一刻も早く家に帰って心に残るようなあとがきを完成させなければならない。

 *
 
 「松村沙代子」という名前がふと目に入り、心臓が高鳴った。中学の時の友人と同じ名前だ。どうせ同姓同名の他人だろう、と自らに言い聞かせることで気持ちを落ち着ける。タイトルは『ひんやり寒天スイーツ』とある。目次を見ると、「寒天入りあんみつ」や「コーヒーゼリー」など、夏に食べたくなるようなスイーツの名前が並んでいる。本を読むときのいつもの癖で「あとがき」を探すと、迷わずその最後のページを開いた。短くまとめられたその文章は、まるで私に向けて書かれているかのように感じた。

 *

《私が初めて寒天の魅力に気づいたのは中学時代、調理実習で「あんみつ」を作った時でした。簡単に扱える上に、低カロリー、透明感のある見た目、つるつるとした食感。子供の私にとって、これ以上素敵なデザートはありませんでした。固まるのを待つ時間、あの時のわくわくした気持ちは今でも思い出せます。そんな中学時代を懐古しながらメニューを作りました。
 この本を手に取ってくださった方が、作りながら、食べながら、幸せな時間を過ごせますように。》


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このストーリーに関するコメント

18/07/02 秘まんぢ

いい話です「まるで私に向けて書かれているかのように感じた」という由香里ちゃんの今をインサートしたのが素敵!あとがきも作りすぎてなくって、よく見かけてそうな短文なのだけれど、ストレートでいい。じっさい本を上梓するときの著者はだれでもこういうキモチなんでしょうね。

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