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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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祈りの先に

18/07/01 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 文月めぐ 閲覧数:111

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 人はなぜ祈るのだろうか。

 今日は流れ星が見れるんだって、とクラスメイトの小原が言った。その日の休憩時間はしし座流星群の話で盛り上がっていたことをよく覚えている。クラスで一番騒がしい小原は「今日は遅くまで起きて、流れ星見るんだ」と自慢げに言い放った。すると他のクラスメイトも「僕も」「私も」と次々と便乗していった。「研一くんも見るでしょ?」と問われれば、わけもわからずうなずくことしかできなかった。
 俺はというと、流れ星が見れるということ自体、初耳だった。どうしてお父さんとお母さんは教えてくれなかったんだろう、と首をひねったものだ。「流れ星」というものは絵本の中に出てきたことがある。星が流れている間に願い事を三回唱えると叶う、という迷信は当時小学一年生だった俺たちにとって、夢のような話だった。
「今夜、流れ星が見れるって小原くんが言ってたんだ」家に帰るとすぐに母親のエプロンを引っ張りながら「俺も見たい!」と懇願した。すると母は困った表情で「それはお父さんにお願いしてごらん」と言った。俺は元気よく返事をして、父親が帰ってくるのを今か今かと待っていた。
「流れ星? 夜更かししてまでどうして見たいんだ」父親は冷たくそう言い放った。俺はどうしてお父さんがこんなに怒っているのか分からなかったが必死になって「小原くんも細谷さんも、みんな見るって言ってるんだ」と父に縋り付いた。「俺だって願い事したいよ」と。
 しかし、最後の言葉が父の怒りを爆発させた。
「星に願い事だと? くだらないことはやめなさい。自分の夢は星なんかに任せるものじゃない。自分の力で叶えるものだ」
 その時は父に怒られた恐怖で泣きじゃくったし、父の言っている意味がわからなかった。どうして流れ星にお願いすることがそんなにいけないの? クラスのみんな、するって言ってたんだよ。俺だけいけないの? そんなことを思っていた。
 その日、父親に「早く寝なさい」と言われた俺は布団にもぐりこむしかなかった。
 それからというもの「自分の夢は自分で叶えるものだ」が父親の口癖になった。
 俺は父の言葉を忠実に守り、神頼みの類を一切信用しなくなった。

 高校時代に付き合っていた彼女の「合格祈願に行こうよ」という言葉には幻滅した。断ったことは言うまでもない。そんな自分の努力次第でどうにかなること、神に祈るのかよ。俺は「ふざけるな」という言葉を彼女に投げつけ、参考書に向き直った。
 その出来事が引き金となって、俺たちの関係はぎくしゃくしていった。俺はより一層勉強に集中して彼女のことを頭から追い出そうとした。しかし彼女の方は俺のことが気になって勉強する気力が失せたようだった。その年、俺は受験に合格し、彼女は不合格だった。俺たちの関係はそこで終わってしまった。
 
「ケン、お前も初詣行くだろ?」
 大学に入って最初にできた友人である翔にそう聞かれ、俺はうんざりしながらも「行かねえよ」と返事をした。
 俺はいつも男三人、女三人のグループで授業を聞いている。大学入学早々、友達のいない俺は学科内で孤立していた。そこで声をかけてくれたのが翔だった。その後は翔の友達を紹介してもらって、今ではすっかりグループになじんでいるのだが。
「え、研一くん、どうして来ないの?」
 学科内で一番の美人であると言われている麗奈に「一緒に行こうよ」と誘われても俺の心は揺らがなかった。
「自分の願いなんて自分で叶えるものだろ」
 さすがにこの年で「父親にそう言われたんだ」と言うのは恥ずかしいと思い、そこだけは伏せたのだが、俺の根底にある考えは幼いころから全く変わっていなかった。
 ふーん、と麗奈はつまらなそうな顔をし、翔は「現実主義者だな」と苦笑いをした。一緒に話を聞いていた林田さんや和久は「じゃあ研一以外の五人で行くか」と相談を始めている。それでもかまわない、と思った。全員で行くのをあきらめるよりほかのメンバーで行ってくれた方が気楽だ。みんなで集合時刻や場所を決めていると、それまで黙っていた宮下さんがぽつりとつぶやいた。
「私も行くのやめようかな」
 宮下さんは麗奈と同じ高校出身で、その頃から仲がいいと聞いている。性格の全然違う二人がどうやって友達になったのかは知らないが、派手な麗奈とおとなしい宮下さんでバランスが取れているように俺には見えた。
「え、彩まで、どうしてどうして」
 麗奈は俺の時と同じように宮下さんに質問を繰り返した。その宮下さんは困ったように俺の顔を見上げながら「中嶋くんの考え、面白いから」とこちらを指さした。俺はその細くて白い指に、何故だか胸が高鳴るのを感じた。

「明日、やっぱり雨かなあ」
 俺はスマホの天気予報に目を落として、ため息をついた。しかも降水確率は百パーセントとなっている。今だって、雨音が途切れることなく続いている。雨粒が窓ガラスを激しく打ち鳴らしているのを聞くと、ため息をつかずにはいられない。
 明日は俺と彩の結婚式だというのに、これではテンションが下がってしまう。仕方がないとはいえ、やっぱり式を挙げるなら晴れの日が良かった。
「ちょっと、気を落とさないでよ」
 そう言って肩を叩く彩。前向きな彼女の姿勢に、俺は何度助けられたことか。これからもこうやって励ましてくれるんだろな、と考えるととても心強い。
「雨の日の結婚式って、実は縁起が良いって言われてるんだって」
「縁起が良い?」
 俺は首をひねった。俺は相も変わらず迷信の類は信じていない。彩もそうだと思っていたのに。
「そうそう、なんでも、神様が祝福の涙を流してくれてるって言われているらしいよ」
「はあ? なんだそれ」
 まさか彩がそんな現実的でない話をするなんて思ってもみなかった。それよりも、きちんと現実を見て、雨の対策をしなければならない。屋外でフラワーシャワーの演出があったのに、これは会場内のスペースでやらざるを得ない。彩と二人で真剣に考えた演出だったからこそショックを隠さずにはいられない。
「じゃあ、子供っぽいけど、てるてる坊主作ってみようか」
 彩はそう言って、せっせとティッシュや輪ゴムなど、必要な材料を集め始めた。おいおい、待ってくれよ。
「やめろよ、そんな自分勝手なことを願うのは。願いをかなえてくれる神様なんて、いるわけないんだから」
 父親はいつも「自分の願いを人任せにするな」と言っていた。「自分勝手なことを願うな」とも言っていた。神に願いを任せるなんてこと、できるわけないし、結婚式に「雨が降らないように」なんて勝手すぎる。
「確かに研一くんの考え方は面白いし、立派だと思う。その考えを否定するつもりはないよ。でもさ、誰かのために祈るって、そんなにいけないことかな」
 彩はティッシュを丸めている手を止め、静かにこちらを見上げている。誰かのために祈る? 俺は、彩が自分自身のために神頼みしているのかと思っていたが。
「だって、一番好きな人との思い出の日になるんだよ。研一くんのために、晴れることを祈っちゃダメなの?」
 研一くんのためならてるてる坊主作って神様にお願いだってしたくなるし、もし雨が降ったとしても、良い方向にとらえたい、と淡々と話している。
 勝てない、と思った。彼女の優しさには。それと同時に彩が俺のことをどれだけ想ってくれているか、痛いほどわかった。
 俺は「ありがとう」と呟き、彼女をふんわりと抱きしめた。この温かさがあれば、俺はこれからも大丈夫だ。雨音がしとしとと穏やかのものに変わった気がした。
 
 人は自分のためじゃなく、誰かの幸せを願って祈るのかもしれない。


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