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紫聖羅さん

濾過しても、フィルターを通り抜けられない、そんなものです。 2000文字以内に収めることに苦労します。

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最後のお願い

18/06/30 コンテスト(テーマ):第158回 時空モノガタリ文学賞 【 あとがき 】 コメント:2件 紫聖羅 閲覧数:80

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 僕の尊敬する先生は、執筆した本の最後に「作者あとがき」というものを付けていました。僕もそれを真似て、「あとがき」を書いてみたいと思います。
 僕がこの本を書こうと思ったのも、先生の真似でした。
「なりたいものになるには、まず真似から始めればいい」
 そう先生はおっしゃってくれました。
 先生の仕事は本を書くことです。僕はこの世界で一番、先生を尊敬しておりました。先生のような人になりたかったのです。
 僕が書いたこの本は、エッセイ本と呼ぶらしいです。もし読んでくださる人がいるのであれば、僕は先生のような人に少し近づけた気持ちになれるので、大変幸福なことです。
「自分が生きた証を残しなさい」
 先生はそのように僕に言いました。だから僕は先生に習い、本を書くことにしたのです。
 本文で、僕がこれまでどのように生き、そして何をしたのかを書きましたので、このあとがきでは、先生について書いていきたいと思います。

 先生と出会ったのは新宿の裏路地でした。
 僕は産みの親の顔を知りません。その後育ての親に拾われましたが、僕の特徴のせいで捨てられました。
 産みの親も育ての親も恨んではいません。むしろ、少しの間でも一緒に暮らせたことを、幸せに思います。本文で僕の生き方を記したので、ご理解いただけると思いますが、僕を早いうちに捨てたことは賢明なことでしょう。
 どうにも僕は他人に近づいてはいけない気がして、新宿の片隅でひっそりと膝を抱えていたのです。そこに、先生は現れました。
 先生は僕が他の人と違うことをすぐに見抜いていましたが、気にしている様子はありませんでした。
「自分は小説家だが、少し名が知れているから、君を養うくらいなんてことはないよ」
 と優しく微笑んでいました。
 先生の名は「高橋紫音(たかはししおん)」と言います。ご存知の方も多いかと思います。ちなみに先生は男性です。名前のせいでしょうか。世間では性別不詳となっているようですね。
 先生の朝食は決まって和食でした。そして必ずコーヒーを飲んでいました。顔に似合わず辛いものが大嫌いで、カレーも甘口しか食べられません。お寿司は、あれです、さび抜きってやつです。身長は185cm、体重は54kg、独身です。先生のプロフィールを検索しても、名前と年齢(38歳)しか出てきませんから、ファンの方がこれを読んだら喜んでいただけるでしょうか。お顔も整っているのに、どうして素顔を隠していたのでしょう。写真をお見せできないのが残念です。

 もちろん今更先生のプロフィールを公開したところで、罪滅ぼしになるとは思っていません。ファンの方々は僕を恨むでしょう。
 本文のラストで述べた通り、僕が先生を殺したのですから。
 僕が唯一持つこの欲求は、人間で言うところの三大欲求に近いのでしょうが、しばしば理性を失ってしまうので、それ以上かもしれません。僕は三大欲求を持ち合わせていないので、比較ができません。
 この世で一番尊敬する先生を吸血してみたい欲求はずっとありました。どうしても耐えられなくなったあの日、それでも致死量の血を吸うことまでは考えていませんでした。ですが、尊敬する先生の血は、あまりに甘美なものでした。

 実は僕がこの本を書いてからすでに500年以上の月日が経過しています。500年後のあとがきとは、随分と「あと」になったものです。どうやら僕は簡単には死ねないようです。
 今ではこの日本の人口も随分と減ってしまいました。いや、この国にまだ人は存在しているのでしょうか。
 あれ以来、先生ほど甘美な人に出会ったことはありません。

 僕はこれでも、人間が好きです。何の説得力もありませんが、人間の血ではなく、人間が好きなのです。人間が好きなら、人間の近くにいない方がいい、分かっていたはずでした。でも僕は、人間のように利口ではなく、愚かでした。できることなら、僕も人間になりたかった。先生の真似をしてみても、僕ではやはり駄目でした。先生は「人間も愚かだよ」と言っていましたが、それは本当でしょうか。もう、確かめようがありません。
 「好き」と「愛情」は同じものでしょうか。もう少しで、人間の「愛情」を理解できそうな気がしていました。まだ、先生と暮らしていた頃は。今ではもう、「好き」と言えば理解できそうな気がするから、口にしているだけなのです。
 先生を吸血したあの日、僕は生まれて初めて泣きました。あの涙の意味は、何だったのでしょう。もう答えを知ることはできません。
 先生を失ったことは、僕の大きな過ちでした。

 もし、これを手にとって読んでいただけた方がいるのなら、どうか僕を見つけて、そして、僕を殺してください。簡単には殺せなくても、どうか僕を、殺してください。


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このストーリーに関するコメント

18/06/30 文月めぐ

拝読いたしました。
独自性があり、驚かされるストーリーでした。
「僕」の願いが叶うことを願わずにはいられません。

18/07/01 紫聖羅

文月めぐ様

コメントありがとうございます。
大変嬉しいお言葉に、とても感動しております。
何より、最後までお読みいただきありがとうございました。

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