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間 亮彰さん

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見返心中冬景色

18/06/25 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 間 亮彰 閲覧数:69

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「見返心中冬景色。」
「急に何よ。」
「いや。ここ数年でよく聞くようになったよなぁ。この病名。」
「えぇ。件数は少ないけれど。ほら、すごく不思議な病だし。」
「治療法はあるのかな。」
「ないらしいわね。」
「不治の病か。」
「この病が広がってから離婚件数も増えているみたいだし。」
「何にせよ嫌な話だよなぁ。」
「でも、ほら。すごくロマンチックな病じゃないかしら。」
「何がだよ。」
「だって。」
 妻が微笑む。
「夢の中で愛する人に振り向かれると凍死してしまう病なんて。」
「そうかな。」
「そうよ。ロマンチックよ。」
「それはこの病が男にしか発症しないからそう言えるんじゃないのかな。」
「そんなことないわ。愛で熱せられた心に、凍死という冷たさが寄り添う。最高じゃない。」
「そういうものかなぁ。」
「そういうものよ。」
「まぁ。発症率は限りなくゼロに近いから心配はしていないけどさ。」
「私も発症しないことを祈ってるわ。本当よ。」
「あぁ。ありがとう。」
 ありがとうの代わりにキスを。なんてお洒落なことはできない。ありがとうもキスもすべてを君に。

 夢を見た。
 両側には雪が高く積もりまるで山のようになっている。見上げても壁は続くばかりで空との境界は視界には映らない。
 顔を前へとむける。誰かがいる。しかし後姿だ。誰だ。
 私と誰かの間の距離がなぜかゆっくりと詰まっていく。気が付けば雪が降り始め体がゆっくりと冷え始める。頭の中に浮かぶ単語はもちろん。
 見返心中冬景色。
 これが。これが噂の病なのか。夢の中で愛する人に振り向かれたら凍死するという噂の病。
 後姿が明確に見えるようになると相手が誰なのかが分かった。妻だ。妻がそこにいる。
 振り向かれないように体をひねってしまうか、走って追い越そうとするが体が動かない。その間にも目の前の相手はこちらに向かってゆっくりと振り向き始める。服にしわが寄り、首の皮膚がたゆみ、髪が揺れ、横顔が見え始める。
 振り向かれてしまう。
 振り向かれたら。


「スポーツもしているし、だからかなぁ。そんな夢を見たけれど僕は発症しなかったんだよ。」
「そ。」
「最初は振り向かれたら凍死してしまう。なんて怖がっていたけれど結局、朝起きて何もなかったし。冷や汗一つかいていなかった。」
「へ。」
「もしかしたら、その病自体が嘘なんじゃないかな。」
「は。」
「あのさぁ。さっきからなんだよ。その気のない返事は。」
「別に。」
「別にって。朝からなんだよ。言いたいことがあるならはっきり言ってくれよ。」
「夢の中で振り向いたのはあたしだったのよね。」
「あぁ。そう言ってるだろ。」
「じゃあ。あなたが凍死してないのは、あたしを愛してないからってことになるわよね。」
 一瞬。固まった。
 この病のすごいところがよく分かった。この病は発症しなくとも男を凍死させるようだ。


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