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R・ヒラサワさん

性別 男性
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ハロウィンの夜

18/06/25 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 R・ヒラサワ 閲覧数:57

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「すると、君もその男性が仮装をしていると思ったって事なのかな?」
「ええ、そうです」
「一目で分かる程のあぶら汗をかいていたというのに?」
「ですから、それも最近のメイクだったら簡単に出来る事なんで……」
「ハロウィンなんて、厄介なものが流行ってしまったものだな。年々参加する人数が増えてるそうだし、コスチュームやメイクもどんどんリアルになってきてるそうじゃないか」
ベテランの刑事は目撃者と名乗る連中に聞き込みを続けてきたが、あまり有力な情報が得られなかった。そんな中で唯一、途中から男性の事をずっと見ていたという青年が現れたので、話を聞くことにした。
「男性の腹にナイフが刺さっていて、おまけに出血まであったのに、事件的な疑いを持たなかったのかな?」
「ハロウィンの夜だったからです」
「うーむ。君の言っている事は分からないでもないが、全てをそれで片付けられてしまうと困るんだよなあ」
「確かに、おっしゃる通りだと思います」
刑事は気持ちを落ち着かす為、タバコを一服吸った。
「それで、その後救急隊が来たのかね?」
「二人来ました。ちゃんと救命措置をとっていたと思います。心臓マッサージみたいなことをやってたんで」
「それからどうなった?」
「待機していた救急車まで男性を運んで、そのまま乗せました」
「運んだのは担架で?」
「いいえ。ストレッチャーです」
「ストレッチャーだって? 君たちはそんなものまで持っているのか!」
「ちょっと待って下さい、刑事さん。僕はその人たちの仲間じゃないし、手の込んだ仮装なんてしてませんから」
「仮装? いやいや、君が仮装してない事ぐらい見れば分かるさ。普通のスーツ姿なんだから、会社帰りのサラリーマンだろう?」
「違います。仮装ですよ、仮装! 僕は普段の仕事が現場ばかりだから、いつも作業服なんです。通勤だって普段着だから、頑張ってスーツ着て来たのに……」
「悪い、悪い。君のも立派な仮装だよ。だって、そのネクタイがよく合ってるし。確かにスーツ姿ってカッコいいもんな。ちょっと窮屈な時もあるけど、気持ちが引き締まるし。それに……ほら、君はちゃんと私を上手く騙せたじゃないか。本物のサラリーマンかと思ったよ」
「そ、そうですよね」
「そうだよ! そ、それで、その後救急車はどうなったんだい?」
「そのまま発車しました」
「君は救急隊が本物じゃない事に気が付いてたのかい?」
「いいえ。刺された男性は、最初は仮装だと思ってましたけど、あんまり苦しそうなんで心配になりました。そしたら丁度いいタイミングで救急隊の人が来たんで、誰かが本物の救急車を呼んだのだと思いました」
「結局、発車した救急車はどうなった?」
「救急隊の仮装の人達はしばらく偽の救急車で付近をまわったみたいです。その後刺された男性に、上手くみんなを騙せたって握手を求めたら、どうも様子が変だったんで、今度は本物の救急車を呼んだそうです」
「それで、男性の具合は?」
「意識は無かった様ですが、死んではいなかったみたいです」
「確かにそうだったんだがね、結局刺された男性は搬送先の病院で一時間後に死亡したそうなんだ。
「そうだったんですか……。もっと早く本物の救急車に運ばれていれば、助かったかもしれなかったんですよね」
「ああ。間違いなく助かっただろうな」
「ねえ、刑事さん。僕は何かの罪に問われるんですか」
「罪? まあ、少なくとも君は大丈夫だ。直接何かをした訳じゃないし。だけど、救急隊の仮装をした連中は、知らなかったとは言え重症の患者を車で連れ回して救命措置を遅らせたんだ。何かの罪には値するさ。結局、その男性は死んでしまっているんだし」
「僕がもっと早く気付いていれば……」
「まあ、あの異常な状況の中だから、仕方がない。事故だよ事故」
「事故ですか……」
「そう落ち込む事はないよ。長い時間すまなかったね。君も気を付けて帰るんだよ」
そう言って目撃者の青年を見送った後、もう一本タバコを吸った。
ハロウィンの夜、ここに来るのは今年で三度目だった。事件の関係者に、刑事の仮装をして色々話を聞くのも悪くないものだ。


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