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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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将来の夢 積極的安楽死法案
座右の銘 常識を疑え

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遺書と遺言

18/06/25 コンテスト(テーマ):第158回 時空モノガタリ文学賞 【 あとがき 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:70

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 編集者はとても忙しい。どの業界でも同じだが、使える人間というのは一部だ。そんな人間が、読者からの問い合わせにいちいち応じていては仕事にならない。だから普段は、電話など繋がりはしないのだが……。
 困り果てたという表情で、幾人かが相談に訪れた。
「すみません、私たちでは応じかねて」
 このままでは警察沙汰になりかねないという。
 事情を簡易に聞くと、担当作家の最新刊のあとがきに、作者の遺書と遺言が書かれていると主張しており、それに関連して、あとがきをチェックもせず出版した出版社批判を展開しているらしい。
 出版社が話を真面目に聞かないなら警察に頼るとしており、先の警察沙汰云々とはそのことだ。たとえ警察が相手にしなかったとしても、警察が確認のため連絡してくるかもしれない。それは色々と厄介だ。
「ふう、わかったよ。クレーマー認定できるよう誘導できればいいんだが」
 ただ、それをやって追い返すと、インターネット全盛のこの時代、情報拡散させられるかもしれない。「あとがきが遺書と遺言」が話題になろうと、発信者が笑い者になろうと、いずれにしても拡散する危険はある。作家という職業は敵が多いので、便乗する人間に心当たりがあり過ぎる。拡散してしまった場合、いい宣伝になるのか、回収騒ぎにまでなってしまうのか、まるで予想できない。
 やはり穏便に済ませるのが一番だ。
「はい、お電話代わりました。担当編集をやっております」
「あなたが担当ですか。いつも素晴らしい小説をありがとうございます」
 おや、意外な言葉から入られた、と思うも、気を引き締める。
「弊社の者から問い合わせ内容は聞いております。お客様の懸念されているようなことはございません、安心してください」
「僕は先生の愛読者です、誰よりもメッセージを理解しています。編集は本当にチェックしているのですか」
「しています」
 というより、小説は一緒に作っている。作家一人の作品ではないのが現実だ。
 ただ、あとがきに関しては、干渉をさほどしない方針ではあった。加えて、作家によってはあとがきをギリギリで入れてくるので満足にチェックできない。
「先生のメッセージもきちんと理解されています?」
「はい、もちろんです」
 作品にメッセージを込めるというのは、商業出版では愚の骨頂との常識が定着している。あくまでも売れるもの――求められているものを書くのであって、伝えたいものがあるなら同人で勝手にやっていろというのが、長年の常識だ。むろん、熱意は作品の向上に活きるため、最初から持つなとしているわけではない。職業作家をやるなら、最終的に商品としてどうかを考えて折れろ、ということだ。
 しかしながら本件の作家は、メッセージ性があることを、出版社側読者側共通で認めている。それは何故か。先のような常識があることは、読者の間でも常識であるため、逆手に取る格好で、「この作家はメッセージ性がある特異な存在だ」をウリにしているからだ。
 つまりは、やはりメッセージ性などありはしない。作家の考えなど一切反映されていない。
 といったことを自称愛読者に伝えるわけにもいかないから、困る。
 やはりここは、自称愛読者に「てめぇが一番読めてないんだよ」を遠回しに理解させるか、熱が冷めるまで誤魔化し誤魔化しで乗り切るしかない。
「えーと、あとがきにいつもは書かれない関係者への謝辞が書かれていたことが、自殺をほのめかしているとのことでしたね」
「はい。先生は以前、謝辞は当然のことで、身内のことを読者にわざわざ読ませる必要はないとしていました。それが突然書き出すなんて、死ぬ前に意を言葉にしたいということではありませんか」
「謝辞述べる必要はないですが、書いてはいけないという考えを先生はお持ちではないですよ」
「どうして先生の考えわかるのですか。エスパーですか」
 それはこっちの台詞だ、という言葉を飲み込み、
「そうですね、先生の考えは先生しかわかりません。ところで遺言というのは?」
「未完のシリーズがあるじゃないですか、それを最後まで絶対に出すと強調している。自殺するのに。これは誰かに作品を託すということです。誰にか、先生のメッセージを正しく理解している人です」
 なるほど、では少なくともお前ではないな。次に言ってくることはだいたい予想が付いた。
「僕にやらせてください!」
「先生が不審死遂げたら真っ先にあなたの犯行疑うよう警察に言いますね」

(了)


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