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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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あとがきん

18/06/25 コンテスト(テーマ):第158回 時空モノガタリ文学賞 【 あとがき 】 コメント:2件 戸松有葉 閲覧数:105

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 小説のあとがきには、大別して三つの種類がある。
 一つは、あとがきを最初に読む読者を想定して、極力ネタバレしないようにしつつも、作品のことを語っているもの。
 一つは、先の例と理由被ることもあるが、作品とは関係ない近況報告的な話をする、あるいは、最初からあとがきを書かない。
 そして最後の一つが、ある作家のあとがきだった。
 読者からは賛辞の声が寄せられている。

「作品もそれなりに面白いですが、あとがきの数ページが本命です」
「もうあとがきが本編でいいだろ」
「あとがきは何時刊行されるのですか?」

 決して嫌味を言われているのではない。純粋に読者は楽しんでいるのだ。
 肝心のあとがきの内容は、作家の愚痴である。むろん読者を意識しているから、読んでいて気分を害するような書き方ではなく、ユーモアを交えて書かれてはいる。しかし内容が何かを説明すれば、愚痴以外なにものでもない。
 作家はライトノベルのレーベルでデビューした、ラノベ作家だった。不本意なこともなく――純文学目指していたがそれで作家は無理だからと妥協といった事情はない――、知識も興味もあった分野で、何より得意分野である。
 ただしラノベといっても広い。この作家の書きたいものと、現在刊行できているものとは大きな乖離があった。
 実際に書いているのは、異世界ファンタジーもの。流行というより定着した感のあるもので、そこに捻りを加えることで、個性を出している。だが正直、無料で読めるアマチュア作家のそれと大差ないと思っていた。読者の認識も大方同じようで、だから「それなり」の評価を受けており、「それなり」の評価しか受けていない。
 では、書きたいのに書けないものとは何か。愚痴としてあとがきに記しているものとは何か。

 菌類ラノベのアイデアである。

 この作家は菌類オタクで、どうにか菌類を作品の中心にできないかと考えているのだが、あの手この手で企画を提案するも、二秒でボツを言い渡されてきた。
 ラノベと相性のいいオタクは多い。代表的なものでは、ミリタリーオタク。理由ははっきりしないが、抜群に相性がいい。その他、動物や歴史上人物との組み合わせも定番だ。
 では菌類は? 菌類オタクの作家が菌類ラノベを書いて何が悪いと作家は不満だ。読者に菌類オタクがいないにも程があるとしても。
「またですか先生」
 担当編集者は、普段は些細な相談でも親身に聞くのだが、この話題には辟易していた。
「だから菌類は無理ですって。今の異世界ファンタジーと、菌類ネタあとがきで充分じゃないですか。読者も喜んでいますし、正直売れているんですよ? こんなに恵まれたことは……」
「でもですね、今度のアイデアはいけると思うんです。ずばり擬人化」
 何でも美少女に擬人化してきた日本。菌類が次のターゲットというわけだ。しかし話を聞いてみると、やはりボツという答えしか出てこなかった。
 例えば毒キノコ擬人化キャラであれば、美しいが毒舌というキャラ……ではいけないと作家は言う。毒キノコが美しい・美味しそうというのは迷信だ。そんな迷信を広める手伝いをするわけにはいかない。
 例えば納豆菌の擬人化なら、粘り強い性格とか粘り付くストーカー気質とか、そういうキャラではいけない。それだと納豆ヒロインであって納豆菌ヒロインではなくなる。
 例えば主人公が風邪をひくエピソード。風邪という名の菌はないと、長ったらしい名前をいちいち出さねばならない。そして極めつけは、菌類が殺されて風邪が治っては菌類ラノベとして本末転倒だからと、他の菌類ヒロインの看病虚しく、主人公が風邪で死ぬ。
「まあボツですが、またウケのいいあとがきが書けそうでよかったじゃないですか」
 結局、あとがきが一番面白い作家・作品との評価は変わらないようだった。
 そんな作家の元に朗報が。アニメ化決定である。
 作家本人はアニメ素人なので、打ち合わせには顔を出すものの、口を出すことは特にない。
 あとがきが評判との知識を得ていたアニメスタッフは、アニメでもあとがきをCパートにして作成することにした。その話を聞いた作家は喜ぶ。予期せず訪れた幸運。小説では実現できなかった菌類ネタが、アニメで放映されるのだ。自分が脚本を書けなかったのは悔やまれるが、次の機会があるかもしれない。
 そうして出来上がったアニメは……本編は異世界ファンタジー要素や個性的設定がほぼカットされ、ヒロインたちの萌えが強調――アニメではよくあること――、そして問題のCパートは、菌類がリアルに描かれたグロ映像。
 大炎上を経て、小説のほうも打ち切りに至った。

(了)


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このストーリーに関するコメント

18/06/26 秘まんぢ

一気読みしました!そういえば代々木アニメ学院に友人がいたことを思いだしたくらい、ラノベ業界の内情がコンパクトにまとめられてて流石。さらに昨今のトレンド「苔・菌」の「菌」のほうを持ってくるあたり手練れだなぁと感心。そういえばかつて山田風太郎にも菌系の忍法キャラ、いたかもしれぬのを思いだして歴史は繰り返すのかと呆然。いいものをありがとうございました!

18/06/26 戸松有葉

感想ありがとうございます!

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