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若早称平さん

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月に吠える

18/06/24 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:1件 若早称平 閲覧数:110

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 吸血鬼は自分の寝床である棺桶に座り、グラスに半分残ったワインを一気に飲み干した。
『君は三度の奇跡を起こしたことになる。一つ目はその見てくれでガールフレンドができたこと。二つ目にその子が人間だということ。三つ目にその子が俺すらも認める美少女だということだ』
「可愛い人間のガールフレンドができた、で一つにまとめられないですか? あと頭に直接語りかけるのやめてもらえません? せっかく久々に会って話してるんですから」
『それは悪かった。して、狼男よ。相談というのはなんだ? まさかそんな自慢話をするためにこの俺を呼び出したわけではなかろう』
「実は例の彼女に告白をしようと思ってるんです」
『ほう、すればいいじゃないか。君の話が本当なら成功する確率は高いと思うぞ』
「だから頭に直接語りかけないでくださいって!」
 憤った狼男が立ち上がり、その拍子にワイングラスが倒れた。慌てて服の袖でこぼれたワインを拭く狼男の姿を吸血鬼はニヤニヤしながら見ていた。視線に気付いた狼男は吸血鬼の意地の悪さに眉をひそめる。以前に会った時はこんなに性格が悪くなかった。このわずか五十年余りでなにが変わってしまったのだろう? 
「掃除しながらでいい、続きを話したまえ」
 吸血鬼は手酌でワインを注ぎ、そのままグラスを空けた。狼男は吸血鬼に相談することに不安を抱き始めていたが、他に頼れるツテもないので仕方なく話し始めた。
「彼女読書家なんです。特に日本の近代文学、さらに言えば夏目漱石が好きなんです」
「ほう、感心なことだな。まだ若そうに見えるが」
「自分も彼女の影響で読み始めたんですが、もう面白いのなんのって……」
 興奮気味に話し始める狼男を吸血鬼はさっと手をかざして制した。『 本題を』冷ややかな視線と共に頭に直接語りかけられ、狼男は恥ずかしそうに頭をかいた。
「すみません。えーと、それで、あっそうそう、やはり漱石といえば有名な決め台詞があるじゃないですか?」
「今夜は月が綺麗ですね、だったかな?」
「そうです! それです!」身を乗り出す狼男に吸血鬼がたじろいだ。
「でもお前が月を見たら……」
「そうなんです。自分あの体質のせいで満月を見たことがないんです」
「なるほどな」と呟いて吸血鬼は腕を組んだ。吸血鬼は以前に狼男が満月を見て変身した姿を見たことがある。化け物そのものといったあの姿を見られてしまえばなんの言い逃れもできない。彼女との幸せな日々は水泡に帰してしまうことだろう。しかし、
「別にお前自身が月を見る必要はないだろう? 見たふりをして言えばいいではないか。もしくは満月に近い夜を選べば良い」
 狼男は嘲笑混じりの溜め息をつく。
「あなたはわかってないです」
「何をだ?」
「ロマンを」
 吸血鬼は隠すことなく舌打ちをした。粗野を擬人化したような男にロマンを語られたのが気に食わなかった。言ったあとのしたり顔もだ。
「まぁ話はわかった。なにか策を考えておこう」
 吸血鬼はそう言ってグラスにワインを注ぐ。血のように赤いワインを見つめながら吸血鬼はにやりと笑った。

 身の丈に合わない洒落たレストランで食事を終え、狼男と女が外に出た。狼男は見上げることができないが夜空には大きな満月が浮かんでいる。月明かりに照らされる川べりの道を二人は手を繋いで歩いた。
『狼男よ、月を見てみろ』
 ふいに吸血鬼の声が聞こえた。頭に直接語りかけられたその言葉通り恐る恐る月を見上げる。見上げて、目を見開いた。真っ暗な夜空には月の代わりに巨大な目玉が浮かんでいる。それと目が合う。「バックベアード……」女に気付かれないように呟いた。吸血鬼は西洋の妖怪を月の代わりに用意していた。『女には催眠術がかけてある。あれを満月だと信じて疑わないだろう』吸血鬼の声がした。
 そう言われても狼男としては複雑だ。目玉の化け物に向って月が綺麗と言わなくてはならない。ましてや向こうもこちらを見ているのだから気恥ずかしさもある。
『あの、できれば自分にもその催眠術をかけてくれませんかね?』
 狼男は心の中で吸血鬼に願う。『特別サービスだぞ』という吸血鬼の声が聞こえた。二人は川にかかる大きな橋の上に満月が浮かぶ告白に絶好の位置で立ち止まった。
「見てごらん」
 狼男が夜空を指差す。
「今夜は月が……」
 その台詞を最後まで言い切れずに狼男の一張羅のスーツは無惨にも破れ散った。人間離れした肉体が隆起し、体毛に覆われる。終わった、狼男はそう思い遠吠えをした。
 その様子を見ていた吸血鬼はなるほど、と呟いた。彼は思い込みだけで変身してしまうのか。これは悪いことをしたと反省する吸血鬼だったが、狼男の変身を目の当たりにした女の目は輝いていた。
「私、あなたみたいなワイルドな人がタイプなの! 是非私とお付き合いしてください!」


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このストーリーに関するコメント

18/06/25 文月めぐ

拝読いたしました。
吸血鬼と狼男の掛け合いのテンポが良く、心地よかったです。
エンディングにははらはらしましたが、見事に喜劇でした。

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