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秘まんぢさん

怪しい者ではございません。たぶんw

性別 男性
将来の夢
座右の銘 時死亡、女に不自由。

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イス取りゲーム

18/06/23 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:2件 秘まんぢ 閲覧数:99

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 服部が前田だった頃、おれは山田だった。山下は山下のままだったのは親が離婚しなかったからだ。中学時代、ヤンキー仲間だった服部とおれは新しい姓でよばれることが恥ずかしく落ち着かなかったが、意外や山下もバツが悪そうだった。
 おれも山下だったのだ。
 クラスに山下が急に二人になり、おれとちがい山下はおとなしかった。それがクラス内外でいつも名が挙がるようになって明らかに困惑していたようだ。
 困惑といえば先生たちもそうだった。二人とも同姓同名の「ヤマシタダイスケ」だったから、授業中、怒気を含んだ声で「おい、山下!」と強面の教師がおれを叱ろうとしても、先に山下のほうが反応してビクつくから、
「山下、おまえじゃない」
 いつも前置きしなければならなかった。
「え〜っ、おれじゃないんスかぁ?」
 わざとおれが混ぜっ返すと、
「おまえのほうだ」
 教師がそう応えてクラス中が爆笑。最早おれを叱るどころではなくなり、教師はさっさと授業を再開するしかなかった。

「へえ。面白いじゃねえか」
 何の脈絡もなしに前田さんはいった。部屋にはもうもうと白ヤニが立ち込め、表情まではわからなかったが、とにかく前田さんは、昔おれに同姓同名のクラスメートがいたという話が気に入ったらしい。
「その山下、いま何してんだ。大学行ってんのか?」
「たぶん。出来はよかったスから」
 曖昧ないい方が気に食わなかったのか、前田さんは唐突に机の上に伸ばしていた両足を下ろすや否や、後ろで控えていたおれの髪をつかみ腹を殴り、くの字になった体を起こしてシャツ襟をぐいぐい締めあげた。
「や、やめ、てぐっ」
 やっとの思いで懇願の言葉を吐きだすおれに、
「そいつの戸籍を乗っ取ってこい。そんで明日からおまえがそいつになれ」
 いいか、これはイス取りゲームだ。そう念押しされるも前田さんの豹変ぶりがおそろしかったおれは、てんで意味不明のまま流石はヤクザだと妙に感心していた。

「おまえ何いってんだ?」
 服部は訝しそうにおれの顔をみた。服部は高卒で地元のパン屋に勤める立派なカタギだ。コーヒーはとうに冷めていた。
「要は、山下のヤツは今どこだって聞いてんだよ」
「山下は学生結婚、まぁデキ婚だろうが、婿入りして名前変わったんだぜ」
 知らなかった。「なんて名前だ?」
「前田って聞いたけどな」
 服部の口元がすこしゆるんだ。服部の旧姓だったのだ。
「前田って、まさか、おまえの親戚か?」
「それはない・・・けどな、じつは今おれも前田に戻っちゃってて」
 おれは絶句した。
 山下の前田と服部の前田とアニキの前田。すこし頭が混乱しそうだった。もとより同姓同名ではなくなった山下の戸籍にまだ用途があるのだろうか。おれは眼前の服部改め前田を残し、急ぎファミレスを出た。

 組事務所へ帰る途中の交差点に、人が集まりだしていた。事故だ。見るとクルマが二台、派手にぶつかってドライバーが流血して投げ出されている。何か胸騒ぎがしてケガ人に近づき、その顔をみて仰天した。
「服部っ!」
 思わず抱きとろうとするおれの腕を抑えつつ、お知り合いの方ですかと救急隊員が訊ね、そばで服部の免許証をたしかめた警官が「人違いみたいですね。前田って人ですし」といった。

 おれはわけがわからぬまま、とにかく事務所へと駆けこんだ。ドアを開けてアニキの名を叫ぼうとしたとたん、身体が固まった。
「山下か?」
「山下か?」
 そこには無口でおとなしかった、だが学生結婚なんかしてヤル時はヤルという、あの山下が突っ立っていたのだ。おれはデジャヴを払いのけ、単刀直入に訊いた。
「前田さんはどこだ?」
「前田?ぼくも前田なんだが」
「おまえじゃないほうの前田だよ、ここにずっといた人だ」
 ああ。思いだしたように山下改め前田がいうには、その前田さんならファミレスに出かけたという。「何やらクラスメートに会うんだとか」

 おれは混乱したまま、今きた道をとって返す。全力疾走だ。走りながらも気持ちがざわざわして、まったく意味がわからない。
 はたしてファミレスには前田さんがいた。その後ろ姿にむかって息も絶えだえ「前田さん」と呼びかけた。やおら振りかえる前田さんの顔をみておれは気を失いかけた。
「気安く呼ぶんじゃねえ。しかもおれは山田だぞ」
 そこんとこ、ちゃんと押さえとけ。そういって前田さん改め山田さんは立ち上がり、勘定を払って出て行った。
 おれは呆然自失しながら、おれとそっくり顔の、そしてたぶんおれであるはずの山田さんの姿を、ファミレスの空席にへたり込んで見送っていた。イス取りゲームはとうの昔に始まっていたのだ。
 だとすりゃ、一体おれは誰なんだよ・・・。
 明日、まずは役所に行って自分の戸籍をたしかめようと思う。たぶん山下のままで間違いないと思うのだが。


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このストーリーに関するコメント

18/06/24 文月めぐ

拝読いたしました。
読んでいて混乱してきたのですが、その混乱が面白かったです。
主人公の困惑が伝わってきました。

18/06/24 秘まんぢ

文月さま★早速のコメントありがとうございます!
初投稿、とにかく字が小さくて目がショボつきました。
あなたのおっしゃる混乱をとりのぞくべく、確実にまちがえた箇所をうまく書き直せなかったのがプチ残念です(^@^;w

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