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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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決め手はゴン太

18/06/23 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:142

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 我が家のゴン太は普段は可愛い柴犬だけど、実はなかなかハイスペックなワンコである。
 時折彼はペット業務を休んで趣味に打ち込む。時にはパンを作り、時には絵を描き、時にはお父さんとゲームをして休日を満喫する。
 どんな犬とも違う我が家のゴン太は、特別で大切な私の家族だ。

「さすがゴン太、頭脳明晰……!」
 私は感心してほうっと息を吐く。ゴン太は肉球についた墨を拭きながら「やめて下さい」と言った。
「お父さんのお手本を元に書いただけですよ。文字が読めるわけじゃありません」
 犬ですから、と謙遜する。なかなか落ちない墨を代わりに拭いてあげる。私達の前には大きな紙に筆で書いた、へなへなとした「ようこそ」の四文字。
「ここまでしなくてもいいのに」
 ゴン太が習字をしたいというので手伝ったけど、書きたい文字とその理由には少し驚いてしまった。
「彼氏が家に来るってだけよ?」
「いいえ、サチさん。そういった方には相応の歓迎をするべきです」
「ゴン太を自慢したいだけなんだけどなぁ」
 呟きはゴン太の耳に届いていない。いつの間にかお父さんに前足をとられて墨に浸されていたからだ。
「ああっ、お父さん、何をするのです」
 せっかく拭いたのに、というゴン太の声も空しくお父さんは前足を半紙に押し付ける。紙には肉球ハンコが加わった。
「うん、この方が可愛い」
 お父さんは満足げに頷いた。
 と、そこでチャイムが鳴った。私は玄関に向かって恋人を迎え入れる。
「圭ちゃん、いらっしゃい」
 出迎えた私の背後で両親が先ほどの「ようこそ」の紙を広げた。圭ちゃんは歓迎ムードに臆する様子を見せる。気が小さいのだ。
「後ずさるなんてひどい」
「ごめん。こんな風に迎えてもらえると思ってなかったから」
 圭ちゃんは眼鏡の位置を正す。
「さ、上がって。とっても美味しいお菓子があるからぜひ食べていってね」とお母さん。
 圭ちゃんは緊張しながら「楽しみです」とソファに座る。私は圭ちゃんのシャツがくたびれているのが気になって手を伸ばした。
「あ、ありが……」
 言葉が途切れた理由を背後に感じ、私はほくそ笑む。
 お手製の立派なアップルパイを運んできたのは、きりりと二足歩行をするゴン太だった。
「いらっしゃいませ、圭さん」
 ゴン太は滑らかにお茶とパイを置く。
「犬の手作りで申し訳ありませんが、味は悪くないと思います」
 彼には自慢の家族に会わせるとしか言っていない。圭ちゃんはゴン太を指さし、口を大きく開いている。その様子に苦笑した時、彼は叫んだ。
「あ、あなたは!」
 勢いよくゴン太に頭を下げる。
「あの時は有難うございました!」
 その言葉にゴン太が戸惑う。
「え……っと、どこかでお会いしたことが?」
「僕です。夕暮れ時に眼鏡を落とし、途方に暮れていた男です」
 眼鏡をずらしてみせた圭ちゃんに、ゴン太は「ああ!」を肉球を合わせた。
 二人の話はこうである。夕暮れ時に転んで川原に眼鏡を落とした圭ちゃん。そこに、買い物帰りのゴン太が行き会った。
『どうかなさいましたか』
『眼鏡を落としてしまって』
『それは大変ご不便でしょう。私が探して参ります』
 圭ちゃんの匂いを頼りに、ゴン太は彼の眼鏡を見つけて渡したという。
「眼鏡を探している間、お腹を空かせた僕にリンゴをくれたご恩を返さなくてはと思っていました」
「大したことはしていません。サチさんの恋人として彼女を大切にしてくれるなら、それ以上のことはありません」
 美味しくパイをいただきながらの回想だった。お父さんとお母さんは「頼もしい」「イケメンだわ」とうっとりしている。
 圭ちゃんはカップを置くと、真剣な瞳を私に向けた。
「ど、どうしたの」
「――サチ、僕と結婚してくれないか」
「この流れでどうしてそうなるの!?」
「ゴン太さんに会って決心がついた。こんなに素敵な犬が家族なら、って」
「ゴン太が決め手!?」
 ショックを受ける私に、圭ちゃんが慌てて訂正をする。
「違うんだ、ごめん。素敵なひとに大事にされているということは、君もその相手を大事にするひとだってことだと思うんだ」
 私の手をぎゅっと握る。
「家族を大事にするサチを、僕はすごく好きだと思うんだよ」
 いつ用意していたのかクラッカーを鳴らす両親。圭ちゃんは素早くゴン太の耳を守ってくれていた。圭ちゃんも、私の家族を大切にしてくれる素敵な人だ。

 そのままパーティの様相を呈してきた中、お母さんが「ついクラッカーを鳴らしちゃったわ。ごめんね、ゴンちゃん」と謝っていた。
 ゴン太はいいえ、と答えて「それよりも」と呟いた。
「ウエディングケーキ……作れるでしょうか」
 まさか作る気なの、ゴン太。
 私は愛犬の作ったケーキの前でドレス姿で笑う未来を夢想して、とびきり愉快な気持ちになった。


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このストーリーに関するコメント

18/06/28 むねすけ

読ませていただきました
ゴン太にまた会えて嬉しいです
人のように振舞うゴン太に驚くかと思いきや、面識があったとは!!
ゴン太の物言い振る舞いも最高ですが、今回もお父さんが一番カワイイです
癒されました

18/07/01 待井小雨

むねすけ様

お読みいただきありがとうございます!
ご好評いただけた物語の続きを書くとなると、むしろ劣化を感じてしまうのではないか、書くべきではないのではないか、と悩みました。
が、「思い付いてしまったのだから書くしかない」と考えて書いてみました。
成人男性が柴犬に感謝する、という図がシュールかな、とこういった話になりました。お父さんは物語に彩りを添える感じです(笑)

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