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瀬口利幸さん

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退学試験

18/06/23 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 瀬口利幸 閲覧数:71

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その日、僕は、公民館で行われた専門学校の入学式に出席していた。
そして、二時間に及んだ式が終わり、体をほぐしながらロビーに出て
みると、そこでは、色々な部やサークルの勧誘が行われていた。
そんなものにまったく興味がなかった僕は、人ごみの中を素通りしようとした。
その時、ある物が僕の前に差し出された。
それは、一冊の文庫本とチラシ。
「どうぞ」
続けざまに聞こえてきたかわいらしい声に、僕は思わず、差出人の顔を確認していた。
そして、そのまま僕の目は、彼女に釘付けになった。
個人的な意見としては、ずっとそこに立ち止まっていたかった。
しかし、後に続く新入生の波に押し出されるようにして、僕は公民館を後にした。
手にはしっかりと、文庫本とチラシを持って。


帰りの電車の中で、僕は、さっきもらったチラシを眺めていた。
それは、ミステリー同好会の会員を募集するものだった。
それによると、同好会に入会するには資格が必要で、その資格というのは、
三日後に行われる入会式に出席するということだった。
時間は午後六時。
そして、場所は・・・・・書いてなかった。
チラシには、場所は一緒に渡した文庫本に記してあるとだけ。
早速僕は、文庫本を開いてみた。
しかし、それらしい記述はどこにもない。
何の変哲もない、ごく普通の推理小説だった。
ただ一つ変わったところがあるといえば、4ページだけ、ページの角が
折られていることぐらいだった。
折られ方は、意味ありげに大小さまざまで、多分、それがヒントだとは思うのだが・・・・・。
その時の僕には、全く見当もつかなかった。


そして、飽きることのない地球の自転に伴い、時は流れ、とうとう今日という日を迎えた。
入学式の三日後。
そう、ミステリー同好会の入会式が行われる日だ。
僕は、折り曲げられたページの角の意味についてこの三日間、ずっと考えていた。
今こうして、授業を受けている最中も。
しかし、いっこうに答えは見つからない。
僕が怪しいと思ったのはページ数。
当てはまる電話番号があるかどうか試してみたり、語呂合わせをしてみたり、
色々やってみたが、どれも結果は無残なものだった。
そして、今日の授業も後5分で終わりというとき、僕の考えは、苦肉の策へとたどり着いた。


ここは学校の出口。
そこで僕は人を待っていた。
待っていたのは彼女。
そう、僕が導き出した苦肉の策とは、彼女の後をつけるということだった。
そうすれば、確実に入会式会場にたどり着ける。
彼女の意思には反するかもしれないが仕方ない。
そうまでしてでも、僕は、彼女の身近な存在になりたかったのだから。
さいわい、この学校には出入り口は一つしかない。
しばらくして彼女が現れ、僕の尾行が始まった。
彼女は学校を出てすぐに、近くにあるデパートへと入っていった。          
僕も後に続く。
そして、彼女は真っ先にエレベーターに向かった。
僕も後に続・・・・・こうかと思ったが、そこで一瞬迷ってしまった。
一緒に乗れば、尾行がばれるんじゃないかと。
そうしているうちに、エレベーターの扉は閉まってしまった。
乗ったのは彼女一人。
デパートは7階まである。
それらから、階段で追いかけるより、この場で表示を確認したほうが得策だと判断した。
すると、エレベーターは最上階の7階まで、2階と5階以外のすべてで止まった。
これでは、彼女がどこで降りたのかわからない。
僕は適当に見当をつけ、婦人服売り場のある3階へと向かった。
そして、くまなく探してみたが、彼女の姿はどこにもなく、他の階も結果は同じだった。
出口で待っていようかとも思ったが、ここは学校と違って、出口はいくらでもある。
もう出てしまっているかもしれないし。
そこまで考えた僕は、あきらめざるを得なかった。
短かった僕の尾行人生は、こうして静かに幕を下ろした。
そうなると、もうここに居ても仕方ない。
僕は帰宅するためエレベーターを探した。
といっても店内は広い。
ましてや、この店に来るのは初めての僕にとって、頼りになるのは表示板の矢印だけだった。
その指示に従って、僕は歩き出した。
そして、何個目かの矢印を見たとき、僕は何か引っかかるものを感じた。
何だろう。
僕は、エレベーターに乗ってからもずっと考えていた。
しばらくして、エレベーターは1階へと到着。
チーン。
「あ!」
その音で、一休さん方式に答えを導き出した僕は、急いで鞄の中の文庫本を取り出した。


僕は、学校へ戻ってきていた。
といっても、用があるのは学校ではない。
僕は、その横にある喫茶店『こすもす』のドアを開けた。
店内に入ると、すぐに目に入った。
一番奥の席で、文庫本を読んでいる彼女の姿が。
僕が近づいていくと、彼女はゆっくりと顔を上げた。
「矢印だったんですね」
僕は、手にしていた文庫本を彼女の前に差し出しながら、口を開いた。
そう、あの折り曲げられたページの角は、矢印になっていた。
そして、その角が指した文字を最初から並べると、この喫茶店の名前『こすもす』となる。
「よくわかったわね、どうぞ」
僕は彼女に促され、席に着いた。
そして、ウエイトレスに注文を済ませると、彼女が口を開いた。
「そうか、わかっちゃったか」
「え?」
「いいアイデアだと思ったんだけどな」
「どういうことですか?」
「私ね、推理小説書こうかと思って。いいアイデアが浮かんだから」
「ええ」
「それで、悪いんだけど、試させてもらったの」
「これですか?」
僕は、テーブルの上に置いていた文庫本に視線を落とした。
「うん。そうか、わかっちゃったか・・・もし、誰も来なかったら、
学校辞めて、本格的に小説書こうかなって思ってたんだけど・・・」
「えっ ! ・・・」
「・・・駄目かな?」
「そんなことないですよ。最初はぜんぜんわからなかったし、
わかったのだって偶然ですから」
「偶然?」
「ええ・・・」
そこで一瞬考えた。
尾行していたことを、正直に話すべきかどうか。
もし話せば、嫌われるような気がした僕はとっさに・・・・
「昨日学校の帰りに、一人で地下街うろついてたら、迷っちゃったんですよ。
この辺あんまり詳しくないんで」
「ええ」
「で、表示板の矢印見ながら出口探してたら、偶然思いついたんですよ」
その時ちょうど、注文していたコーヒーが運ばれてきた。
「ふーん・・・・デパートじゃなくて?」
「え!?」
「デパートじゃなくて地下街なの?」
僕は動揺を隠すために、コーヒーを口にした。
「ブラックで飲むの?」
彼女にそう言われて気付いた僕は、慌てて砂糖とミルクを入れる。
「だいぶ動揺してるみたいね」
彼女は笑いながら言った。
「すいません・・・・気付いてたんですか?尾行してたこと」
「まあね、エレベーターに乗ったとき、君の顔が見えたから」
「そうですか・・・・でも、よく覚えてましたね僕の顔。入学式の時に
一回会っただけなのに」
「人の顔覚えるの得意なの」
「そうなんですか・・・・でも、表示板の矢印見て思いついたって言うのは本当です。
この店まで尾行してきたわけじゃないんで、それだけは信じてください」
「わかってるわ」
そう言って彼女は、コーヒーを口にした。
僕も同じ行動をとる。
そして、一息ついてから、また話し始めた。
「駄目ですか?」
「え?」
「入会する資格ないですか?僕」
「そんなことないわよ」
彼女は、コーヒーカップを置きながら答えた。
「ちゃんとこうやって、入会式に出席してくれてるじゃない」
「じゃあ・・・・」
「もちろん大歓迎よ。よろしく」
彼女は笑顔で右手を差し出した。
「本当ですか。よろしくお願いします」
そう言って、満面の笑顔で、彼女の右手を握る僕の頭の中には、次の質問が思い浮かんでいた。
恋人になる資格は?


おわり


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