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紅茶愛好家さん

他所でも別名義にて活動中です。 作品書いては毎度家族に読んでもらってます。面白い作品が書きたいなあと試行錯誤中。作風は真面目なのからふざけたのまで色々書こうと思っています。

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ご近所さん回覧板ですよー!

18/06/20 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 紅茶愛好家 閲覧数:116

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 回覧板が戻ってこないのにはいくつか理由があった。
 共働きの夫婦が多いこと、日中は子供だけの家、留守を預かる耳の遠いおばあちゃん、足の不自由なおじいちゃん、そもそも回すことが嫌いな無精者……。種々の理由を差し引いても全周するのに二週間というのは遅すぎる。あまりに戻りが遅くて戻ってきたころには案件が溜まっており次の回覧板をすぐに回さなくてはならない。
 さてどうしたものかと班長浦本一は首をひねる。何か妙案が浮かばないか? 考えに考えた挙句一つの結論に行きついた。「そうだ、そうしよう!」そう手を打ち鳴らすと大急ぎで改造に取り掛かる。これで回覧板がすぐに戻ってくる。そう思うと笑みがこぼれて仕方なかった。



 笹野恵子はパート先から帰ってきたところだった。居間には中学生の息子がいてソファに寝そべりゲームをしている。テーブルの上には回覧板。買い物袋を台所へ置いて電話の横の鉛筆立てから鉛筆を取る。どうせ大したことなどないのだろうと回覧板を開いて目を剥いた。

『この回覧板は三日以内に回さないと爆発します』

 回覧板の裏表紙には見慣れぬ小型装置が付いている。そっと耳を当てると「チッチッチッチ……」と音が聞こえる。恵子は顔面蒼白になり立ち尽くす。
「どしたの?」
 ただならぬ様子に息子が問いかける。
「回覧板回してくるわね」
 そう言うと恵子は鉛筆を持ったまま隣の藤田宅へと急いだ。

「また回ってきたよ回覧板」
 高校生の孫娘が、かじりかけのアイス片手にうっとうし気に回覧板を渡す。
「ありがとう」と君江は回覧板を受け取った。少し重い気がして裏返すと何かついている。中を開けて思わず声が裏返る。
「ば、ば、ば、ば……ばくはつ!?」
「えっ、まじ?」孫娘は興味津々で回覧板を覗き込んだ。
「三日以内に回さないと爆発しますぅ? 不幸の手紙かよ」
「こんなの家に置いておけないわ、早く回して来て頂戴」
「えっ、あたしアイス食べてんじゃん! ばあちゃん行ってきてよ」
「まあ、口答えばっかりして!」
 急いでサインをすると君江は足を引きずりながら隣の山本宅へと急いだ。

 山本宅は留守、仕方なく向かいの鈴村宅へと届ける。鈴村宅は犬がいて君江はそれが少し苦手だった。しかし、そんなことを言っている場合ではない。犬にほえられながらインターホンを押すとすぐに、定年退職した洋一郎が出てきた。ランニングシャツ一枚で片手には団扇を持っている。
「やあ、藤田さん。丁度良かった、スイカがあるんですが要りませんか?」
 要らないとも言えず君江は「ああ、ありがとう」と手短に返事をする。すると洋一郎は笑みを浮かべ、一度引っ込んでスイカを取りに行く。のらりくらりとした態度にイラつきながらもスイカを待つ。本当はスイカよりも回覧板を受け取ってほしい。君江はスイカを受け取ると押し付けるように回覧板を渡し、足早に鈴村宅を後にした。
 その後鈴村宅から池田宅へ、池田宅から横山宅へ。悲鳴や怒号をすり抜けながら回覧板は目くるめくスピードで班内を駆けた。それぞれの家庭の事情を考慮するとやはりたった一日でほとんどを回り終えたというのは上出来すぎる。そのことに矢代健太は腕を組んで感心しながらも困惑していた。唯一残った伊野家が留守なのだ。妻が夫人と仲が良く、夫人に電話をかけると伊野一家は現在熱海旅行の最中だと言う。何と豪勢なことだろう。なすすべがなく困って班長の浦本に相談すると「全員回してくれないと困る」と切り捨てられ今に至る。回覧板とにらめっこ、こうしている今も時は刻一刻と迫っている。
「あなた、送りましょう!」
 意を決したように妻が言った。
「送る?」
「伊野さんに滞在先のホテル聞いて速達で送りましょう!」
「けど……」
「やることはやっておかないと気持ち悪いでしょ?」
「そうか、そうだな。うん、そうしよう!」
「今から郵便局の本局に行きましょう! 少しでも早い方が良いわ」
 こうして爆弾付きの回覧板は熱海へと旅立った。

――三日後、夕方のテレビのニュースにて。
「今朝未明、熱海の老舗旅館の客室で宿泊客の荷物が爆発する騒ぎが起こりました。幸いにもけが人はいなかった模様です。宿泊客は調べに対し『回覧板が爆発した』と証言しているようです。静岡県警は事件性があると見て宿泊客や旅館関係者から事情を聴いている模様です」
 こうして結局、回覧板が班長浦本のもとに戻ることはなかった。


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