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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 童話作家。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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無人島で最初にやること

18/06/20 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:81

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リンブルグ領主館で少し話しができないかと、領主のユキヤに誘われた。彼は、僕の親友である。いつでも何か手伝いたいと思っていたので、頼られて嬉しいくらいだ。
領主館の居間に案内された。
「あれぇ、お父さんだぁ!」
 先客がいた。僕の息子のウォルターだ。小さな体は、草色のソファに埋もれそうになっている。あたたかいココアの甘やかな香りが、少し湿り気味の空気にさらさらと溶けていく。息子と向き合っていたユキヤが、笑顔で立ち上がった。ユキヤの視線が、暖炉の横の柱時計に向けられる。
「夜になるまで、ここにいてほしい」さらに彼は、ウォルターに聞こえないように僕の耳に囁く。
「この時期の夕立に紛れて、それは恐ろしい幽霊が出る」
「あぁ、君は幽霊が苦手だからなぁ」
「死ぬほど怖いだろ?」
「僕たちは、そのためのお呼ばれかい?」
「だって、怖いじゃないか!」
 誰にでも苦手なものはある。
地獄にずぶずぶと沈んでいく太陽と降り出した不気味な雨。幽霊が闊歩する刻限になった。ユキヤは、飲んでいたココアを苦そうに飲んでいる。頼られている者としては、気分が良くなる話題を提供すべきだろう。リンブルグの将来についてなら、いくらでも話題がありそうだ。だが、おとなしくクッキーを齧っていたウォルターに先を越された。
「無人島があるんだって。ほら、リンブルグとユースチス・レイの間に、ちょっと海あるけど、そこにあるんだって」
「うん。あるね」
 すぐにユキヤが反応した。
「それでね、もし無人島に連れて行かれたら、どうする?」
 ウォルターは、僕とユキヤを交互に見る。邪気のない笑顔。彼は、まだ六歳だ。
「さて、どうだろう?」
ぼんやりと考え始めた僕に、ウォルターは元気よく言った。
「ボク、火をつくる! 木の板に、えんぴつみたいな棒でクルクルやるの!」
「山のてっぺんに上って、『助けてくれーっ!』ってやる。ユキヤは?」
「肥沃な平地が野菜に適している。でも、リンブルグの土地じゃないんだ」
 『三人三様』という文字が、僕の頭の中で踊る。ふと思い出した。とても大切なこと。
「火を作るにしても、地質調査をするにしても、おなかがすいたらどうするんだい?」
 僕は、リンブルグ村で料理店をやっている。『火』『野菜』と来るなら、次は『料理する』だろう? 職業柄そう思ったのと、ちゃんと考えてみても空腹では動けないものだ。
「あぁ、うん。ピートに、ごはん作ってもらう」
 あっさり答えたユキヤ。
「えっ? 僕が? もしかして『三人一緒に遭難する』という想定なのかい?」
「そう」
「それぞれ一人で遭難かと。それに、僕がごはん係だなんて、ずいぶんと勝手に──!」
 続けようとしたら、
「ボク、火つくるんだってばーーーっ!」子ライオンが吠えた。
「「勝手に作っててくれ!」」僕とユキヤが、同時に叫び返した。
 三人とも、ご機嫌斜めになってしまった。少し落ち込んでいたウォルターが、しばらくして僕の袖を引いた。
「ねぇ、お父さん。一人じゃさみしいから、三人で火つくんない?」
 僕は、溜息を吐く。ちょっと説明してあげることにした。
「あのね、ウォルター。火をつくるんじゃなくて、無人島から脱出すること考えない?」
「帰るの? それ、つまんなくなぁい?」
「遠足じゃないんだよ。助かること考えようよ」 
 一方ユキヤは、無人島を買い取れないだろうかと、ぶつぶつ独り言。この二人と遭難したら、無人島に上陸した時点で生き残れる気がしない。ウォルターが楽しそうに言った。
「こんど無人島でソウナンしようよ、この三人で! ボクは火をつくって、お父さんは助けよんで、ユキヤさんは野菜つくるの!」「そりゃあ、楽しいだろうなぁ」とユキヤ。
「ピートは、どう思う?」
 二人の視線が、僕に注がれる。
「僕は──」
 慎重に答えた僕のセリフは、柱時計の音にかき消された。三人とも黙って、その重々しい音が終わるのを待った。鐘が打ち終わると、ユキヤはサッと立ち上がり、「ありがとう、助かったよ」と僕に握手を求めた。ウォルターも「おもしろかったぁ」と笑顔で言う。
「夕食、食べていく?」
 ユキヤに誘われた。そういえば、この領主館には我々以外には誰もいないようで──。
「奥方と喧嘩した?」
「うん。使用人全員引き連れて家出されてる」
 あぁ、やっぱり。
「だから、楽しく無人島ごっこをしよう」
 この古風で美しい領主館で、子連れの中年男2人が、楽しく無人島ごっこ? 
「ちゃんと生き残れるから大丈夫」
 柱時計の音にかき消された僕のセリフは、彼に届いていた。
「ここ領主館だもの。あ、ごはん作ってね〜!」
「おい、そのためのお招きかい?」
「それもある」
 ユキヤは、腹が立つほど楽しそうに笑った。


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