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紅茶愛好家さん

他所でも別名義にて活動中です。 作品書いては毎度家族に読んでもらってます。面白い作品が書きたいなあと試行錯誤中。作風は真面目なのからふざけたのまで色々書こうと思っています。

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現代帽子論

18/06/19 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:4件 紅茶愛好家 閲覧数:152

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「今日も素敵なお召し物ですね」
 梅沢夫人は玄関に膝をつきながら、夫の被る『帽子』を褒めた。
「うむ、行ってくる」
 梅沢茂夫は靴べらで足を靴に滑り込ませるとドアノブをつかんだ。
 『帽子』を褒められたことで彼は上機嫌だった。
「行ってらっしゃいませ」
 夫人は両手を膝の上に重ねて軽やかに見送りをした。
 爽やかな春の出来事であった。



 時は西暦二〇XX年、日本国国会に置いてとある一つの法案が提出され世間の話題をさらった。

“国会内でかつらの着用を禁止する“

 その法案が提出された経緯には時の首相森村誠一が議場にかつらをかぶって登場した事にある。その日は自衛隊の海外派遣についての白熱した議論が交わされていた。そして与党と野党が一進一退の攻防を繰り広げる中で一人の野党議員が飛ばしたヤジが問題となった。
「うるせえ、このかつら野郎!」
 これに敏感に反論したのは首相の取り巻きの議員たちだった。
「かつら野郎とは何だ! かつら野郎とは! 謝れ!」
「かつらだからかつらっつたんだよ!」
 議場はもめにもめ与党議員が身を乗り出して野党側の席に詰め寄るまでに至った。
「えーっ、静粛に静粛に」
 議長が水を打つように声を上げる。しかし、騒ぎは収まる気配を見せない。
「かつらの何が悪いってんだこの野郎!」
 首相も身を乗り出し野党席に詰め寄っている。日本国の首相の品性が問われる事態である。そして、国会議員一年目の新米議員立石新の発した言葉が物議をかもした。
「国会じゃ被り物禁止だってんだよこの野郎!」
 衆議院規則第二百十三条と参議院規則第二百九条に“議場又は委員会議室に入る者は、帽子、外とう、襟巻、傘、つえの類を着用し又は携帯してはならない“とある。確かに国会では議員を始め政府参考人、証人、傍聴人、国会職員、記者等、皆帽子の着用を禁止されている。
 ここである一つの疑問が浮かぶ。

――それではかつらは帽子なのか?

 無理やりに騒ぎを収め後日、野党から嫌がらせまがいに提出された議案は“国会内でのかつら着用を禁止する“であった。このことは世間の注目を一心に集めた。

「かつらと帽子は違うと思います。もしかつらもダメってしたら禿げてる人はかわいそう過ぎると思います」と女子高生。
「いや、やっぱりかつらも被り物だからダメってことだと思います」と専門学校の男子生徒。
「僕なんかもね、かつらしてるけどそれをダメって言われるんじゃ困るよね」と五十代のサラリーマン。
 昼のワイドショーで掻き集められた世間の意見は様々であった。コメンテーターも首相擁護派と反対派に分かれて議論する。
「かつら位いいんじゃないかって気もしますけどね、木村さん」
 ワイドショーの司会者がコメンテーターの意見を促す。
「そうだよね、僕なんかもね、だんだん薄くなってきてるけど、もしかぶり出したら屋内では帽子と一緒だから脱ぎなさい何てされると困っちゃうよね」
「免許写真とかはどうなってるんでしょうね。笹川さん」
「免許写真は厳密にいうとかつらは禁止されています。しかし、実際は黙認する場合が多く更新時にかつらを取れと指摘される事も無ければそれを使って取った免許書が無効という事も有りません」と法律の専門家。
「でも、かぶり物をしてるって時点で帽子と一緒なわけでしょう。帽子がダメならかつらもダメなんじゃないの?」と女性タレント。
「さて、スタジオでは意見が分かれていますが国会はどうなっていますでしょうか? 国会前から中継がつながっています。竹澤さん」

「はい、こちら国会議事堂前です。国会では先程から与野党に分かれ激しく攻防が繰り広げられています。森村首相率いる与党は皆揃ってかつらを着用し野党の法案には断固反対との構えです。それに対し野党は普段かつらを着用している議員もかつらを脱ぎ捨て野党一丸となって法案を成立させる構えです」

「えー、森村総理に質問です。かつらはいつ頃から着用されているのでしょうか?」
「森村内閣総理大臣」と議長が指名する。呼ばれた首相は席を立ち答弁席まで歩いて行く。
「十五年程前からです」と簡素に述べ席に着く。
 野党議員がすぐさま手を挙げる。
「木田君」
「では、総理にお聞きします。帽子が国会内で禁止されている事はご存じでしょうか?」
「存じ上げております」これまた簡素な答えだ。
「ではかつらは帽子に含まれるとの認識はおありでしょうか?」
「そのような認識はありません」
「では、帽子とはいったいどういった物が帽子かご説明いただけますでしょうか?」
「一般的に頭にかぶる何らかの物と認識しております」
「それでは、かつらも帽子に含まれるという事になりませんか」
「えー、帽子は帽子、かつらはかつら。全く別のものとして認識しております」
「では、ここでね、一般的に帽子がどういったものであるかね、私調べてきました。今、便利ですねインターネット」
 と言い一つのフリップを出した。見ていたテレビの前の視聴者が揃って「そんなことにムダ金を使って……」と思った事だろう。
「えー、帽子とは防暑、防寒、防御、装飾を主な目的として頭にかぶる衣類の一種とあります。装飾を目的とする。つまりはこれに禿げ隠しを目的とした物も含まれるという事ですね。それを踏まえた上で総理にお伺いします。今ご自身の付けている物は帽子ですか違いますか。お答えください」
「えー、帽子では無いと認識しております」
「帽子だろーが!」と遠くからヤジが飛んで来る。
「帽子とはあくまで容易に着脱できるファッション性の高い物と認識していますので私の付けているのはかつら。かつらは無くてはならない物、皮膚の一部と認識していますのでしたがって帽子ではありません」
「総理、総理!」
「静粛に。……木田君」
「皮膚とご認識とのお話でしたがその容易に着脱できる点において皮膚とは明らかに違います。かつらはあくまでかつら、かぶるという時点において帽子に他なりません」
「黙らんか! 君!」
 遠くの議員席から大御所議員の怒鳴る声がする。その大御所議員は勿論かつらだ。
「総理、もうそう言った言い逃れは止めましょうよ! それは帽子ですよ」
「えー、木田君発言は手を挙げてからするように」
「木田議員のご指摘の通り、被るという時点では帽子に他なりません。しかしですね、かつらを帽子として国会で禁止すると様々な弊害が出てくるわけですよ。日本のかつら人口ご存知ですか? 百万人ですよ。百万人。百万人の人がかつらをかつらとして装着しています。これをもし帽子として国会の中で被る事を規制するとですね、世間にも屋内ではかつらを取るという風習が生まれかねません。非常にまずいわけですね。この議場にいらっしゃる方の中にもいらっしゃいませんか? かつらが帽子として認知されるとまずい人が」
 これには与党席から拍手喝采が上がった。そして一部の野党席からも小さな拍手がちらほらとあった。
「帽子は帽子。かつらはかつら。それでいいじゃありませんか」
「そうだ! そうだ!」
「総理、総理!」
「木田君」と議長が指名する。
「かつらによってね、人相を変えるなんてことも出来るわけですよ。国会中継に映る国会議員がね、大げさな例えですけど日によって金色だったり緑だったりのかつらをつけてると困るわけですよ」
「そんなやつ居ねえよ!」とヤジが飛ぶ。
「いや、だから物の例えであって…」
「もう止めようぜこんな議論!」と再びヤジが飛ぶ。
「総理、かつらは帽子でいいじゃありませんか。国会に臨む時は全てを脱ぎ捨ててまっさらな気持ちで臨む。もちろんかつらは取って望む。要らないファッション、アクセサリーは余分です。私達は一国会議員です。正々堂々真っ向から勝負する」
 これには、野党席のかつらを置き去りにしてきたツルピカの連中から拍手喝采が上がった。
「よっ、名演説!」
 議長はため息を吐き言葉を発した。
「えー、それでは採決を取ります。“国会内ではかつらを禁止とする“この規則案に賛成の方はご起立を願います」
 議長の採択を促す声に応じて、一部のかつらを取って参上した気合の入った野党議員が起立をした。しかし、ふたを開けてみるや一転与党はおろか野党の大多数も起立をしなかった。考えてみれば当然の事、有権者や後援会の禿げ層を意識しての事だった。百万人の数値はデカい。
 こうして、国会におけるかつら帽子論は幕を閉じた。



「あなた良かったですわね」
 テレビで先程、“かつら禁止法“不成立の速報が流れた。それを梅沢茂夫と夫人は居間のテレビで見ていた。
「うむ」
 梅沢茂夫は扇風機にあたりながらそのツルピカに光る頭を手拭いで拭いながら頷いた。扇風機の風で机の上に置いたかつらがそよそよと揺れていた。


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このストーリーに関するコメント

18/06/22 秋 ひのこ

かつらは帽子か否か、を大真面目に国会で議論する。
ものすごく日本人ぽくて、馬鹿馬鹿しくて、情けなくて、でも実際に起こりそう......、と思いながら読みました。
「かぶるという時点において帽子に他なりません」とか「日によって金色だったり緑だったりのかつらをつけてると困るわけですよ」とか本当に言いそうですよね、議員の人たち!
面白かったです。
ちなみに、わたしは「かつらは帽子ではない」派です(笑)。

18/06/22 紅茶愛好家

秋 ひのこ様

コメントありがとうございます!
やはりかつらは帽子ではありませんか……
かつらと言えば親戚のおじさんを思い出します。
あまりの自然さにかつらだとは知らず、温泉地の風呂上がりに初めて“生“の姿を拝見し、
「洗ったら抜けたんだ」という冗談を小6になるまで信じてた記憶があります。

18/07/13 クナリ

話の流れや応酬も、「あ、本当にありそう」と思いました……。
タイトルからはかつらのことだとは思いませんでしたが、エンターテイメント性の高い読み物に仕上げておられ、おもしろかったです。

18/07/13 紅茶愛好家

クナリ様

コメントありがとうございます!
タイトルじゃ、かつらを想像しにくいし、書き出し部分にもかつらって出てこないし、しくったなあと……。
『かつら炎上』とか『国会とかつら』、とかだともう少し目を引くかもしれない((+_+))

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