1. トップページ
  2. 人生設計図

undoodnuさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

2

人生設計図

18/06/19 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 undoodnu 閲覧数:201

この作品を評価する

 平日の昼下がりの公園で、ベンチに座っている一人の男性がいた。年の頃、40か50くらいか。スーツ姿のため、外回りの仕事をしているのだろうか? どうも覇気を感じられない。ちょっと気になり、余計なお世話かもしれないが声を掛けてみた。
「ご休憩中ですか?」
「いえ、商売中ですよ」
 男性は答えた。商売中……? 一体、何の商売をしているというのだろうか? 気になってさらに聞いてみることにした。
「どんな商売をなさっているんですか?」
「ええ、絵を売っているんです。絵です」
 まずい、これはエウリアンというやつなのではないだろうか? あまり関わらない方が良さそうな気がする。適当に話をして、切り上げてしまうことにしよう。
「絵ですか。あまり興味がないんですよね」
「ええ、みなさんそう仰ります。初めのうちはね」
「まあ、仕方ないと思いますよ。実際のところ、興味がないですからね」
「でもね、ただの絵ではないんですよ。あなたに深く関係がありますから」
 私に深く関係がある絵? どうせこじつけだろう。『これは人物が描かれている絵だ。あなたも人間だ。ほらね、関係あるでしょう?』こんな感じに違いない。
「少しお見せしましょうか。これです。人生設計図です」
 男性は、絵を取り出した。それは絵というよりは、巻物に近かった。そこには、横に直線が引かれていて、縦には何やら色々と書き込まれている。
「ここを見てください」
 男性が指し示した箇所を見ると、「聖徳病院で生誕。3605g。男」と書かれていた。私は少し驚いた。私はたしかに聖徳病院で産まれたし、正確な数字はわからないが体重もそのくらいだったと聞いている。だが、この程度の過去の情報は、私のことを調べればわからなくもないはずだ。人生設計図とはまた、大げさな話である。
「いいですか、この絵には、あなたの人生の全てが描かれているんですよ。ご興味ありませんか」
「そうは言いましても……。私が産まれた時の話は過去のことですし、それをどうこう言われましても」
「そうですね、では未来を見てみましょうか。ここを見てください」
 再び男性が指し示した箇所を見ると、そこには今日から三日後のことが書かれていた。『韮淵課長が、電車遅延で40分遅れてやってくる。その後、事務の光川さんが韮淵課長にお茶を入れようとした。しかし、手がすべってお茶をこぼしてしまう。幸いデスク上の書類は濡れずに済んだ』どうでも良さそうなことだが、私が勤めている会社のことが細かに描かれている。韮淵課長に事務の光川さん。どちらも存在する。韮淵課長は自宅から会社が遠く、電車遅延の影響を受けやすい。事務の光川さんは気が利くが、割とおっちょこちょいなところがある。これが現実に起こるとしたら、この人生設計図は、ものすごい代物なのではないだろうか?
「これは、すごいですね……」
「そうでしょう、そうでしょう」
 この人生設計図があれば、これから何が起こるかわかる。つまり、不確定な未来に対して、適切な行動を取っていくことができるのだ。
「この人生設計図を売っていただくことはできるのでしょうか?」
「ええ、もちろん。私はそういった商売を行っておりますのでね」
「で、おいくらくらいするのでしょうか」
「そうですね、このくらいになります」
 男性が提示した金額は、ものすごく高かった。私の貯金だけでは足りず、借金をする必要まである。
「どうにか、まけていただくことはできないでしょうか?」
「申し訳ありませんが、それはできません。もうお分かりかもしれませんが、この人生設計図、これからの出来事を予め知ることができるわけですから、その対処を行うことも可能だということです」
「……例えばですが、一週間後のある株式の価格を見ることはできるのでしょうか」
「可能です」
 これがわかるなら、貯金がゼロになろうと、いくら借金しようと関係ないのではないだろうか? 人生設計図を買いたいという気持ちが大きくなっていった。しかし、まだ未来のことが当たったかどうか、確かめられていないではないか。これでは、信憑性が薄い。気を引き締める必要がある。
「三日後、再びこの場所で売っていただくということはできるでしょうか」
「ええ、よろしいですよ。三日後ですね、お待ちいたしております」
 それからというもの、私はとにかく落ち着かなかった。あの人生設計図は本物なのか? 韮淵課長と、事務の光川さんの行動に全てが掛かっている。
 そして、三日後の朝になった。出勤した私は、韮淵課長のデスクを見る。そこには、韮淵課長の姿はなかった。数分後、始業時間になっても韮淵課長は現れない。私は、韮淵課長が利用している路線の運行状況を調べた。たしかに遅れている。このペースだと、30分以上は遅れて到着となることだろう。次に、事務の光川さんのデスクを見た。光川さんは既に出社している。私は書類を整理しながら、とても落ち着かない状態だった。
 やっと10分が経過する。再び、運行状況を確認。依然として遅れている。コンピュータに向かい意味もなくキーボードを叩く。今日の営業目標を目では捉えているが、頭には入って来ない。
 さらに15分が経過する。残り15分。運行状況を確認する。あと15分だ。提案書を作成しようと文書作成ソフトを起動したが、文章を書いては消し、書いては消しの繰り返しとなった。そして、時計の長針が8に差し掛かろうとした瞬間、声がした。
「いやー、参った参った。また遅れていてねー。もっと近くに引っ越そうかな、なんちゃって。家買ったばっかだしな。がはは」
 韮淵課長が出社してきた。人生設計図通り、40分遅れだ。ここまでは、正確。あとは、光川さんだ。光川さんは、急須と茶碗を持って、韮淵課長のデスクへと向かっている。よし、あと少しだ。あと少しで……。私は、光川さんの動作を漏らすことなく凝視した。あと3ブロック、2ブロック、1ブロック。よし、デスクについた。
「韮淵課長、お茶を淹れますね」
「ああ、ありがとう」
 光川さんが茶碗をデスクに置いて、お茶を淹れ始めた。その時だった。急須のふたがはずれて、お茶が上方からこぼれ始めたのだ。
「おわわわわ……っと。ふー」
「すみません、すみません」
「大丈夫、大丈夫。書類はほら、こっちの方にあったから」
 私はその光景を見て、興奮を抑えられなかった。本当に起こった。あの人生設計図は本物だったんだ。
 私は今日の営業目標と提案書を適当にでっち上げて、外回りに出かけることにした。目的はあの公園だ。
 三日前とは違い、公園に着いたのは午前中になってしまった。はやる気持ちが抑えきれなかったのだ。これではあの男性はまだ来ていないかもしれない。現金は既に用意してある。貯金は全て下ろして、借金もした。もう後戻りはできない。早く済ませてしまいたいという気持ちと、とてつもない期待感が混ぜこぜになりながら、この前のベンチの前まで行った。
 すると、そこには男性がベンチに座っていた。この前の男性だ。間違いない。
「お待ちしておりましたよ」
「お待たせしてしまいました。申し訳ございません」
「いえいえ、そんなにかしこまらなくても良いのですよ」
「単刀直入に言いますが……」
 やはり、とんでもない大金。でも、あの現実を見てしまったら、もう戻れない。心が戻れない。進みたい。未来を掌握したい。
「人生設計図を私に売ってください」
「はい、元からそのつもりでここにやってきたのですよ」
「では、こちらが現金に……」
「まあまあ、お待ちください。ここを見てみてください」
 男性が示す箇所を見ると、今日ここで私が男性に現金を渡し、人生設計図を受け取る、ということが書かれていた。
「なるほど、もう決まっていたことなのですね。最終確認もできて、嬉しく思います。こちら、現金になります」
「はい、たしかに。では、こちらは人生設計図となります」
 男性に現金を渡し、人生設計図を受け取った。ずっしりと重さを感じる。人生設計図自体はそんなに重くはないのかもしれない。だが、ここには人生が乗っかっている。私の人生全てだ。
 これで、だ。これで私も人生思い通りだ。やった。何をしようかな。とりあえず、会社に居続ける意味なんてないだろうな。まず、金か。金なんて簡単だ。こっちは未来が分かるんだ。いくらでも稼げる。金さえあれば、何だってできるだろう。今から楽しみだ。
 喜びを噛み締めていると、男性は既にいなくなっていた。まあ、あの人にもう用はない。今はこれだ。人生設計図だ。さっそく開いてみることにしよう。興奮で手が震える。震える手を抑えて、人生設計図を開いた。
 ……? なんだ、これは。たしかに、数多の人生について記載がある。だが、どれだ? どこを見れば良い? どれが私の人生についてなんだ? わからない、教えてくれ、誰か教えてくれ。そうだ、あの男性。私は、あたりを見回した。男性はもう見当たらない。
 私は絶望を感じ、人生設計図をその場に取り落した。人生設計図は公園を転がり、開いた。開かれた箇所には、こう書かれていた。「数々の人生を知ることができるようになった。男性に会うことはもうない」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン