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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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この時を待っていたぞ! サンタクロース!

18/06/18 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:122

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 年長組のまーくんは、いい子でした。
 いいえ、いい子を自覚的に演じている子でした。
 その理由は、一年以上前という、まーくんにとっては大昔にあります。
 まーくんは、サンタクロースの存在に、興味と疑問を抱くようになっていたのです。
 サンタクロースとは何者なのか、犯罪者と紙一重か同一なのではないか、と。
 そこでまーくんは、サンタクロースを直接追及し、場合によってはやっつけようと考えたのです。
 それがどうして「いい子」に繋がるのかですが、サンタクロースはいい子のところへ来るという話を聞いていたからに他なりません。
 いい子のところへプレゼントを持ってくるというのが話の筋でしたが、どんな大義があろうとも、まーくんにとっては瑣末なことです。
 プレゼントはどうでもよく、あくまでも追及し討つために、いい子を演じることにしたのです。
 しかしまーくんの未熟な頭脳には、ここでも疑問が生まれます。
 いい子というのは、どういう子のことなのか、です。
 お父さんやお母さんにとって都合のいい聞き分けのいい子のことなのか。あるいは国家にとって有益な納税者になれそうな子のことなのか。はたまた、日本的な感性による、小さな集団に溶け込んで無個性でいられる子のことなのか。もっとシンプルに、サンタクロースの好みの子ということなのか。
 まーくんの幼い頭脳では答えは出せませんでしたが、それでも日々考えて、大多数の人にとって都合がよく、最低でも不利益にならない子でいようと、頑張りました。
 サンタクロースは、クリスマスイブの夜という限られた時間にしか現れてくれません。まーくんのほうから仕掛けていくわけにはいきません。どこに潜んでいるかなど、誰も知らないのです。
 だからまーくんは、一年間、いい子にして、ひたすら待ちました。
 小さなまーくんの身にとって、このストレスは耐え難い苦痛です。あまりに辛く、第一次反抗期のものとは明らかに違う、奇声を発しそうになったこともありました。
 それでも、いい子でいるためには、壊れてしまうわけにはいけません。
 心を落ち着かせる薬にも頼れません。お医者さんは小さな子に出してくれませんし、それ以前に、親に心の病を打ち明けることは、いい子ではないことを明かすことになると思ったからです。
 だから平常でいられるすべを、自力でどうにか身につけていき、何とか壊れずに、十二月を迎えました。
 クリスマスイブはもう少しです。もう少しの辛抱です。
 クリスマス――。
 十二月に入ると、早くも街はクリスマスムードでした。至るところでクリスマス用の飾り付けがされたツリーを見かけるようになりました。
 しかしサンタクロースはさすがに見かけません。一見して偽者とわかるコスプレのサンタクロースはよく見かけますが……。
 まーくんの辛抱は、まだ続くのです。
 クリスマスの話題が、保育園やテレビなどで語られる度に、まーくんは思います。
 自分はイエスを人間として敬ってはいるけれど、クリスマスを祝う気はまったくない、と。
 イエス・キリストという言われ方をするので、誤解をする人が日本人にはいますが、キリストというのは人名ではありません。イエスというのが人物の名前で、キリストは、名前に付けられた冠のようなものです。
 意味は、クリストス、メシア、救世主といったもので、イエスがそうだということは、あくまでもキリスト教において信じられていることです。
 ですから、ユダヤ教というキリスト教の元になった宗教や、イスラーム教というキリスト教から分かれた宗教では、イエスはキリストではありません。
 これらの宗教を持たないなら、イエスをキリストとしてもしなくてもどちらでもいいわけですが、基本的にはイエスをキリストとするのは、キリスト教だけです。
 まーくんはイエスのことを人間的に尊敬していました。そしてクリスマスは、イエスの誕生日ということで祝われます。どうしてまーくんはクリスマスに反抗的なのでしょうか。
 第一次反抗期だからでは、もちろんありません。
 クリスマスは、イエスの誕生日ではないからです。
 イエスという人は、素性が不明といってよいほど、身分の低い生まれでした。
 そのため、誕生日もわからないのです。
 クリスマスは、イエスという個人とは別の、宗教的な意味合いが強い行事なのです。
 だからまーくんは、クリスマスを認めていません。
 イエスはイエス、キリスト教はキリスト教だと、分けて考えているのです。
 そして肝心のサンタクロースは、これはもう完全に、イエスとは無関係です。
 イエスを敬うまーくんは、「隣人を愛せ」という教えのことも知っていました。
 どんなに偉いとされる人でも、クズ扱いされる人でも、その人間の言動・中身をもって評価を下せ――つまりは「差別をするな」という教えです。
 サンタクロースがいかに世界的に偉大とされていようとも、やっていることが犯罪者でしかないなら、まーくんは差別せずに軽蔑するのです。
 まーくんは、年長児に過ぎません。大人かそれ以上の力を持つと予想できるサンタクロースには、とても敵わないでしょう。
 それでもまーくんは、イエスの「右の頬をぶたれたら左の頬を差し出せ」を実践しようと思っていました。
 たとえどんなに不利な状況でも、精神的には屈していないという態度を、挑発で示すということです。
 クリスマスイブは刻々と近づいてきています。
 まーくんの緊張は日増しに高まりました。
 そして、一年考えても出ない結論に、迷っていました。
 サンタクロースはどうやって部屋に侵入してくるのか、それがわからないのです。
 煙突はまーくんの家にはありません。
 待ち伏せをして捕まえることなどできそうもないのです。
 そうこうしている内に、ついに、クリスマスイブの夜を迎えてしまいました。
 まーくんは、お父さんお母さんに「おやすみなさい」を言って、寝たように装いました。まさに、いい子です。
 しかし当然、眠ってなどいません。
 この日のために、一年間頑張ったのです。
 どこからやってくるのか、何時何分何秒にやってくるのか、わかりません。
 まーくんは警戒し、時計の音にも敏感に反応しながら、窓ガラスに風が当たる音にも敏感に反応しながら、その瞬間を待ちました。
 こうなったら、どこからでもかかってこい、という気持ちです。

 まーくんの部屋に入ろうという、このサンタクロースは、まーくんが起きていて自分を目撃する可能性を考えていました。まーくんのことをよく知っていたからです。
 だから、いわゆるサンタクロースの格好――赤い服で髭のある目立つ格好を、きちんとしていました。

 まーくんは警戒を解きません。一瞬の油断が命取りになる、一年間という途方もない時間の努力が無駄になる。
 部屋のドアを背にして、どんなに意表を突いた出現の仕方をされても対処できるように、待ち構えます。
 その時です。
 部屋のドアが、開きました。そしてそこにいたのは……。
 まーくんは驚きです。サンタクロースは、普通に部屋のドアを開けて入ってきたのです。
 警戒が裏目に出たような格好ではありましたが、幸運でした。
 どうなるかわからなかった賭けに、こんな間抜けなオチがついたのです。
 まーくんはサンタクロースのほうを素早く向くと、言いました。

「ふはは、こいつは僥倖だ! まさかこんな侵入手段だとはな。お前はこれで終わりだ。僕はずっと、この時を待っていたぞ! サンタクロース!」

 通常なら、意外な反応を示す子供と映るまーくんですが、このサンタクロースはまーくんのことをよく知っているので、うろたえるようなことはありませんでした。
 かといって、困らなかったわけでもありません。
 この状況ではどうやってプレゼントを渡せばいいのか、わからないのです。

 まーくんは、違和感を覚えました。
 違和感はすぐに、疑念に変わります。
 そして疑念が確信に変わるのに、時間はかかりませんでした。
 まーくんは、このサンタクロースを、知っている!
 謎は多く残ったままです。サンタクロースについての謎は、何も解けていません。
 しかしこのサンタクロースのような人のことは大好きなので、追及などはせず、今までの言動もなかったことにして、おとなしく寝たふりをしました。

 サンタクロースは安堵して、まーくんの枕元にプレゼントを置き、静かに去っていきます。

 サンタクロースとまーくんは、心の中だけで言い合いました。

 メリークリスマス。

(了)


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