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syo-tanさん

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憧れの軍帽

18/06/18 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 syo-tan 閲覧数:112

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「俺、自衛隊入る!」
この時期になると毎年このセリフを言い出す友達が居る。
今年27歳。
応募出来るのは今年が最後だ。
いつもは「そうか頑張れ」と軽く流すのだが、なぜ昨年は応募しなかったのか今年は聞いてみる事にした。
だって、今年が最後だから。
「自衛隊って、登山用のシューズとかリュックとか自分で用意しなきゃならないから色々金がかかるんだ。」
どうやら自衛隊に入隊することは金がかかる事だと思っているらしい。
去年はそのくらいの金も無かったという事か。いい大人が。
今年はその金があるのか?無ければ昨年と同じ結果じゃないか?
こうなったら、とことんその辺りも掘り下げて聞いてみる事にした。
例年と違い、問い詰めてくる俺に目をまん丸くしながら少し困惑した様子でお猪口に残った日本酒を飲み干した。
タンッ
とテーブルにお猪口を置いた後、酒くさい口を開いた。
「小説のコンテストに応募するんだ…大賞受賞で50万円だぜ。楽勝だろ」
最後の楽勝だろの意味が、コンテストの大賞を受賞することが楽勝なのか50万円もあれば登山用のシューズやリュックを買うこと自体が楽勝なのかどちらの意味なのか分からなかった。
そもそもこいつが小説を書いているだなんて話は、20年間の付き合いの中で一度も聞いたことがない。
学生時代、芥川龍之介全集をこいつに貸してやって冒頭の蜘蛛の糸を読み終えた所で俺に返してきたくらいしかこいつと小説との関わりを知らない。
「実績はあるのか?」
実績つまり、今まで小説を書いてきたという経験を積んできたのか、それとは別のコンテストに応募した事はあるのか。
そういう事を俺は聞いている。
「………………………………無い」
小説を書いた経験が、1度も無いという意味か?
「…無い」
さっきの楽勝だろって、どういう意味だ?
「いや、もし受賞すれば登山用のリュックやシューズを買うのなんて、50万円もあれば楽勝だぜ?他にも色々装備買えるぜ」
後者の意味だった。
そうなるためには受賞するに値する作品を、まず書き上げなければならない。
友達として、こいつの夢にまるっきり水をかけるような事は言いたくない。
だが、それ以前の話として自衛隊に入隊するのにそんなにお金が必要なはずはない。
シューズやリュックは必要だったとしても、安物で十分だし本当に買うお金が無かったとしても入隊した後先輩や上司に事情を説明すればお下がりを恵んでもらえる可能性はあるだろう。
こいつのプロブレムは、そもそもがお金が有るか無いかじゃないんだ。
人生の中で、大きな変革例えば就職とか、そういう事になると目の前に自分にとっては大きな壁を作ってその一歩を踏み出す事を躊躇したがる癖がある。
他人から見ればその壁の両脇は、がら空きになっているというのに。
万里の長城なんかじゃない。
3歩下がって、その壁を見てごらん。
お前にもその壁の両脇が、どうなっているのか見えるはず。
無言でスマホをいじるそいつが、突然「あーーーっ!」とケツに棒を突っ込まれたような声をあげた。
「おい、このコンテスト、結果発表来年だぜ。賞金来年まで貰えないよ…」
それは仕方ない事だ。むしろ、よかったな。
真面目に働いてリュックとシューズ買えよ。
そもそもフリーターと自宅警備員を行ったり来たりするお前が、どうして自衛隊に入りたいんだ。
自分を変えたいのか?体を鍛えたいのか?強い男に憧れているのか?
テーブルに置いたそいつのスマホの待受画面が見えた。
軍帽を被った金髪碧眼の男が敬礼をしている画像だった。
どこの国の軍人なのか、もしくはただのコスプレなのか分からないがその軍帽は確かにカッコよかった。
お前はこれが被りたかったのか。
今日の俺はこいつに色々問い詰めると決めている。
「これは…俺の理想だから」
なんだその真面目な顔。
そいつは思い出したように、タバコに火をつけ深く吸い込み斜め45度の角度で煙を吐いた。
自衛隊に入れば、その理想に近づけるのか?
「近づけるに決まってるだろ」
相変わらず顔は真剣だった。
その真剣な顔を見て、俺は問い詰めるのをやめてイカの塩辛を頼んだ。
イカの塩辛は、俺達のシメの合図だ。

年が明けて、また同じくらいの時期にこいつと飲みに行った。
毎年自衛隊に入ると意気込んでいたこいつも、年齢制限でもう自衛隊に応募する事は出来ない。
そうなると、ベクトルは間違ってるけど夢に向かって(向かおうとして)いきいきとしたこいつの眼差しを見れなくなるのかと思うと少し寂しい。
俺の心配をよそに、そいつは席につくとまっすぐいきいきとした眼差しで俺を見つめるなりこう言った。


「俺、フランス外人部隊入る!」


よし、親友であるこいつの為だ。
今年はとことん問い詰めるぞ!


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