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笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
座右の銘 生きているだけで幸せ

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笑えないコメディアン

18/06/18 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 笹岡 拓也 閲覧数:236

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世界で最も有名なコメディアンが言っていた。「コメディアンは決して笑ってはいけない」と。人を笑かすのに自分が笑っていたら卑怯だという意味だろう。ただ今の時代、誘い笑いができないコメディアンはなかなか芽が出ない。
「ユージくんってさ、どうして笑わないの?」
僕の夢は世界中の人々が笑ってくれるコメディアンになることだ。ただ僕自身が笑うことができない悩みを抱えている。僕以外のすべての人が笑ってくれたら…なんて思ってるけど、やっぱり笑わない人が笑かすのはかなり難しい。
「僕?あぁ子どもの頃にちょっとね。でも笑かす自信はあるよ」
僕は子どもの頃、親から虐待を受けていた。その影響で笑うことができなくなってしまったのだ。ただその代わりと言ってはなんだけど、人を笑かすことは楽しかった。教室の掲示板に飾るクラス新聞に自分の身の回りで起きた面白いことを掲載していた。それがみんなから好評だったことが僕の励みとなった。そして高校生になるとラジオのハガキ投稿に力を注いだ。とにかく深夜ラジオを全般に送り続け、次第に読まれるようになった。
「毎回こいつの書いてくる内容は面白いな」
そんなことを僕の一番好きなラジオパーソナリティが言ってくれた。こんなに自分の才能を認められることが嬉しいことなんて知らなかった僕は、コメディアンになってもっと多くの人に笑いを届けて認めてもらおうと考えたのだ。

コメディアンになった僕は月に一度、舞台に立っている。我ながら面白いことをつらつらと話していると思うが、やはり全く笑っていない僕のネタには誰も笑いはしなかった。きっと帰りの電車で僕が言った一言一言を思い出してクスっとわらってしまうだろうに。
「ユージ。そろそろお前も舞台に慣れたろ?もっとリラックスして笑いながらさ…」
マネージャーは僕にそう言った。僕のネタを面白いと思ってくれている人だが、この人は僕が笑えないということが分かっていない。一度説明したことがあったが、何も理解していないようだ。
「は、はぁ。頑張ってみます」
僕もプロのコメディアンだ。このままじゃダメだと思っている。だからどうにかしてみんなが笑ってくれるように努力をしようと考えているのだ。

その日から僕はひたすら笑う練習をした。最初は笑う人の声をマネをする。笑い方には種類があることを学んだ。「あはは」「いひひ」「うふふ」「えへへ」「おほほ」この笑い方が基本になっており、僕は断然大笑いしているように聞こえる「あはは」を練習した。不思議なことにすべての母音が同じになっていることに気が付いた。だとすれば息をするように笑えば自然にできるんじゃないか?
そして笑った顔も一生懸命作った。目じりを下げて口を大きく開ける。その時、頬をできるだけ持ち上げる。子どもの頃から笑ったことがない僕には、この顔作りが本当に難しかった。鏡を見ながら笑ってみたり、写真に撮って笑ってみたり。どうやっても自然な笑い方には見えなかった。それでも僕は頭の角度やを叩いて笑うという技法を習得し少しずつ様になっていった。
半年掛けて僕は笑うことのできるコメディアンに変貌した。これで僕も人気コメディアンの仲間入りだ!そんなことを意気込んで舞台に立つ。僕のネタは子どもの頃から変わらず自分の周りで起きた面白エピソードを話すスタイル。だから誘い笑いをすることでより笑かすことができると考えていた。緊張はしていたが笑うことに意識をしていたからかとてもネタがスムーズにすることができた。そしていつもよりも大きな笑い声が聞こえる。やっぱり僕が笑えばみんなに笑いを届けることができるんだ。
楽屋に戻るとマネージャーをはじめ、仲間からも絶賛された。
「とうとうユージも笑いながらネタをやれるようになったのか!」
「やっぱりあぁいうネタは誘い笑いが必要だよな」
みんなが評価をしてくれる。僕の笑いのセンスを今までも認めてくれる人はいたが、ここまで多くの人が褒めてくれることは今までなかった。僕はとっても嬉しい気持ちでいっぱいだった。ただその嬉しい気持ちも楽屋を出るまでだった。
「ユージさん、どうしてあんなネタにされたんですか」
僕の帰りを待っていてくれたファンの子が声を掛けてきた。この子は僕の唯一のファンと言ってもいいほどの子。僕はしっかりその子に説明した。
「やっぱり僕が笑った方がみんなも面白いと思ってくれるでしょ?」
てっきり僕はファンの子に褒められると思った。しかしファンの子は涙を浮かべながら言葉にした。
「あんな嘘で固められた笑顔、見たくない。あなたのネタは絶対いつか評価されます!だから無理して笑わないで!」
僕は呆気に取られた。本当に僕のネタを見てくれている人には、嘘だって分かるんだと。そんなファンがいる僕は幸せ者なんだ。その時、僕は心がふわっと温かくなるのが分かった。


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