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ちほさん

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性別 女性
将来の夢 童話作家。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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ひよことたまごとニワトリとうずらの関係性

18/06/07 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:117

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  リンブルグ村の古着屋『クスクス』の裏から続く細い道を通った先に、育てたキノコが全て薬に使えるように変化する神の地『果て』がある。どう開拓しようかとユキヤが頭を捻らせていると、森の方から小さな男の子がトコトコ歩いてくる。パブ『ロビン』の店主・ピートの息子ウォルターだ。幼い子どもが、こんな場所にひとりでやってくるとは、どういうことだろう。
  逃げ出したひよこを追いかけていたら、こんなところまで来てしまった、とウォルターは頬を真っ赤にして言った。ウォルターの日頃の行動力は理解していたが、ここまで逃げてきたひよこも、ひよこらしからぬ根性の持ち主だと思う。仕事も一段落したので、ユキヤは彼らを家まで連れて帰ることにした。
ひよこは、ウォルターのかぶっていた毛糸の帽子の中に入れられた。ユキヤにおんぶされたウォルターは話し出した。
「ひよこちゃん、大きくなるとニワトリさんになるでしょう? ぼく、ニワトリさんは苦手なの。でも、ニワトリさんをふせた大きなザルの中に入れておくと、次の日の朝にはひよこちゃんに戻るから心配しなくてもいいの」
「えっ?」
  このややこしそうな展開は、なんだろう? ニワトリがひよこに戻る? 
「ひよこちゃんじゃなくて、たまごが一つの時もあるけどね」
  ウォルターの、まったく疑問に思っていない言葉に、ユキヤは心の中で突っ込みを入れる。
──ひよこを用意するのが間に合わなかったんだろうな。
「うずらちゃんだったときもあるの。うずらちゃんは、ニワトリさんにならないからいいねぇ」
──ニワトリのたまごもひよこも用意できなかったからといって、それはないだろう? 
ひよことたまごとニワトリとうずらの関係性が、かなりめちゃくちゃになっている。ユキヤは、心の中に弾けそうな怒りを抱えることになってしまった。彼は、このリンブルグ地方一帯を平和に治めている若き領主だ。土地はもちろん、そこに住む全ての人の心までも大切に守っていきたいと日々努力している。ウォルターは、いつも雄々しい空想力で動き回るが、ただ純粋に、心のままに行動しているだけなのだ。悪気はない。
「今夜は、大好きなシチューなの。お肉が柔らかくて、おいしいの! わぁーい!」
ユキヤの優しい心を針でつつくようなことをしても、悪気はない。溜息を吐きつつ、ユキヤはウォルターに尋ねた。
「ひよこが好き?」
「世界一かわいいの!」
「じゃあ、ニワトリは?」
「え? えっとぉ……ひよこちゃんになったり、たまごになったり、うずらちゃんになったり?」
  つまり、この子の頭の中にある公式は──。
『ひよこ→ニワトリ→ひよこ(あるいは、たまご。または、うずら)』
そして、
『ニワトリ→?』
  ニワトリのことを、ひよこやたまごやうずらに変身させるためのアイテムだと思っている! 少なくとも、『ニワトリ→お肉』とは思っていない。
ユキヤは、また溜息を吐いた。どうすればいいかと悩んでいると、背中の子どもは呑気に欠伸を一つして、ユキヤの左肩に顔を押しつけてきた。ずいぶん歩いたようだから、疲れて眠くなったのだろう。
「ひよこ、どのくらい好きなんだ?」
「ぼくの命なの」
  たいしたひよこ愛だと感心しているユキヤに、ウォルターは眠りに落っこちていきながら、一つお願いしてきた。
「ついたら起こしてねー」
「こらこらこらーっ!」
  ほんとうに眠ってしまった。ユキヤに、大きな問題を残して。
  十分後、パブ『ロビン』まで、ウォルターを無事に届けたユキヤは、ウォルターの父・ピートに問いただした。彼は、自分の愚かな行為を認めた。ウォルターを喜ばすため、ふせたザルに入れられたニワトリをひよこと入れ替えていた。結果、ウォルターの知識が歪んでしまった。ひよこが手に入らない時は、たまごやうずらを代わりにしていたが、それもまずかった。
「あの子、シチューが大好きでね」
「愛情の深さは理解できるが、変な方向に愛情を示すのはやめてほしい」
 こう説教しつつ、ユキヤは思った。
──あぁ、めんどくさい。
 ザルに送り込まれたニワトリは、その日の夕食のシチューの具になるわけだ。ユキヤとピートが視線をそっとウォルターに向けると、彼はピートの右袖をしっかりと掴んで、立ったままこっくりこっくりしていた。こちらの話など耳に入っていない様子だ。ピートは、今さらながらに大きな責任を感じて、真剣に幼い息子に謝った。
「ごめん。あの……もう、お父さんのことは嫌いかい?」
  ウォルターは、夢うつつに答えた。
「……ひよこちゃん……さんわぶん……すき……」
「ひよこ三羽分? あの、それ、何? あっ、ウォルター!」
 ピートは慌てて、倒れかかった幼い息子を抱き上げた。ウォルターは、爆睡していた。


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