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早川さん

大学院生です。

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コメディアン

18/06/03 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 早川 閲覧数:125

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 俺と圭は二人で教室の隅に座っていた。この高校の落ちこぼれでお互いに友達がいない。クラスの連中を見上げては陰口を言い合う。
「さゆりの化粧みてみろよ」と俺は言った。
「あいつ高校生にもなってまだ反抗してるよな。正直時代遅れ」
「そうそう。ああやって派手な化粧して仲間に入ろうとしてる」
「馬鹿みたいだよな」
「ほんと笑える」
 俺と圭はそんな風にクラスの目立つグループを眺めていた。午後の昼休み二人でつるんでいるだけだった。カーテンから日差しが射しこみ、教室の中を明るく照らす。そして男女混合ではしゃぐグループを見ては皮肉を言っていた。別に俺たちは容姿も学力も運動だって優れているわけではない。それどころか友達いない同士がただくっついていたようなものだった。
 それでも俺は圭といると安心した。さすがに一人でいるのは寂しすぎる。それに一人でいると誰かから理不尽なことを言われる可能性がある。頭の中では本当はあの目立つグループの中に入りたいという欲求があった。でもあのグループは見た目が派手で入っていくことができない。本当はあいつらに注目されたいという欲があった。
「なぁ、俺達もあんな風になりたくないか?」
 俺は帰り道に圭に本心を打ち明けた。帰り道の住宅街は午後のオレンジ色の日差しに照らされていた。
「別に。ああやって馬鹿みたいに騒いでるだけだろ」と圭は言う。
「俺はああなりたいよ。本当はね」
「じゃあさ」
「何だよ?」
「ふざけてあいつらの仲間になってみるか?」
「いいね」
 次の日の昼休み俺たちはそいつらのグループに近づいて行った。彼らは俺たちが近づいてきたことに気付いた。そして俺たちが声をかける前にその目立つグループは俺たちの方を向いて不思議そうに見ている。
「これからコメディやるから見てくれよ」
 俺は咄嗟にそう言った。
「コメディ? なんで突然?」
 俺が皮肉を言ってたさゆりがそう言った。相変わらず派手な化粧をしていて、目立つし、怖い。
「じゃあ、やるぞ圭」
「まじで?」と圭は言う。
 圭は俺と同じように戸惑いながら笑っている。クラス中の視線が俺達に集まった。
「じゃあショートコントやります」
 俺はそう言った。
「じゃあやるか。ショートコント」と圭は言った。
「この間みんなでさゆりの部屋に行ったんだ。そうしたら俺も呼ばれてね。俺はさゆりのことをずっと見てたよ。馬鹿なやつだなあって」と俺は言った。
 少しの沈黙。圭は俺の目を見ている。
「以上です!」と俺は言った。
「なんだよそれ?」
 グループで一番目立つやつが俺に向かって問いかけた。
「コメディだよ」
「お笑いでも目指してんの?」
「笑えるだろ?」
「全然」とさゆりは言った。
「お前ら、何がしたいんだよ」
 他のグループの男がそう言って笑う。その言葉にクラスが笑いに包まれる。
 コメディを演じきった俺たちは苦笑いをしながら席に戻る。席に戻ると他のクラスの連中はそれぞれ何事もなかったようにそれぞれが話を始めた。
「お前、何がしたかったんだよ?」と圭は言う。
「いや、なんとなく目立ちたいなって」
「正直滑ってたぜ」
「別にいいよ」
 放課後に下駄箱で俺が靴を履き替えているとさゆりが俺の隣りにやってきた。
「何さっきの?」
 さゆりから親し気に話しかけられた。
 それだけで俺は嬉しかった。あまりの嬉しさに胸が鼓動していた。そして本当はさゆりに注目されたかったのだと気づいた。
「おもしろかったっしょ?」
 俺はそう言った。
「正直、意味不明」
 そう言ったさゆりは派手なギャルみたいな見た目とは裏腹に笑っていた。
「俺の友達の圭は滑ってたって言ってたけど」
「そりゃあ」
 さゆりはそう言ってくすくす笑う。それで上履きから靴に履き替える。
「お前らと話したかったんだよ」
 俺はぼそっと本音を口にした。
 なんだか馬鹿みたいだと思った。なんであの時コメディを演じたのだろう。さゆりを圭と二人で馬鹿にしたのだろう。目の前にいるさゆりは見た目とは裏腹にとても優しく見える。
「普通に話しかけてくればいいじゃん」
 さゆりは俺にそう言った。
「俺達はクラスの中でも目立たないやつらだから無理なんだよ。もう全部言ってしまえば、お前らみたいに楽しくはしゃぎたいよ」
「へえー。そんなこと初めて言われた。正直な性格してるね。君って」
「別に」と俺は言った。
「こんなこと言うのもあれだけどさ」とさゆりは後ろを振り向きながらそう言った。
「もっとふざけていいんじゃない?」


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