1. トップページ
  2. コメディって。

泡沫さん

高校生です。日常の中で感じたこと言葉にしています。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

コメディって。

18/06/02 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 泡沫 閲覧数:114

この作品を評価する

「面白かったね!」

 君はそう言って笑った。僕にはただの笑顔にしか見えないのだが、その裏にある僕に対する――いや、僕に限らず周りにいるみなにもあてはまる――同情の想いを感じざるを得なかった。

「うん、また見ようね」

 僕はコメディドラマが録画してあるDVDを取り出し、テレビの電源を落とした。消灯の時刻だ。
 僕は今、各部屋六人が布団を敷けるだけの部屋にいる。男女ともに三人ずつの部屋割りは前から疑問に思っていたが、そんなこと教官に訊ける訊くはずもなく、まもなく十ヶ月になる。
 さっきまで観ていたのは十年ほど前にテレビで放送されていたらしいコメディドラマだ。ほかの部屋から偶然借りることができたから観ることができたのだが、とても面白かった。僕らには新鮮な体験だった。
 君の左隣に布団を敷いて横になる。誰かの寝息が室内に響くが、誰もそれを確かめようとはしない。カーテンの隙間からは月明かりが煌々と差し込んでいる。
 この戦争が開戦してもうまもなく九年だ。もしこの戦争がなければ僕たちは『高校生』というものになっていたらしい。今は『学兵』として過ごしているが、是非その『高校生』というものを経験してみたかったものだ。

「ねえ、まだ起きてる?」

 僕の左で君は囁いた。

「うん、起きてるけど……」

 消灯後の私語は厳禁だ。僕は突然の焦りを感じながらも、顔を左に向けた。
 月明かりのせいだろうか。君は悲しそうな顔をしているように見えた。

「……うんうん、なんでもない」

「そっか……」

 君は顔をそむけてしまった。僕も、天井に視線を送る。
 君は何を僕に伝えたかったのだろう。そう考えると、まったく寝付けなくなってしまった。
 静寂の室内に緊張が張り詰めている。他の部屋からは泣き声が聞こえてきそうだ。
 さっき見たコメディドラマに映っていた人たちはみな楽しそうに笑っていた。あの笑顔がこの暗がりに際しても鮮明に思い起こされる。演技であったから深く考えることはないのかもしれないが、あの笑顔は僕らの心に直接刺さるものがあった。もちろん悪い意味ではない。しかし、僕らにとってその笑顔は悲しさをより一層煽るものであった。
 いったい日本はいつ間違った選択をしてしまったのだろう、というところにまで思考が及ぶ。今の日常は間違っているのだろうか。昔の日本は『平和ボケ』していたとよく聞くが、そこにはどんな自由があったのだろうか。今だって自由はある。休み時間には友人たちと遊ぶことだってあるし、今日はきみとコメディドラマだって見たのだから。



 昨日の君はこう言っていた。

「いつになったらこの施設から出られるのかな」

 そう言って君は綺麗に食べ終えた昼食の食器を片付けに向かった。僕は遅れて食べ始めていたから、君の言葉を軽く流してしまった。しかし、この言葉からしたら、僕たちは捕らわれているみたいではないか。この外に何があるというのだ。今のままでも十分満足だろう。
 食器を片付け終えた君は何も話すことなく、頬杖をつきながら僕のことを見ていた。一瞬みた君の目は潤んでいたようにも見えたけれど。
 僕らが何かしたところで何も変わらないのだから、このまま言われるがままに生きていたほうが余程いいのだろう。こうするしかないのだから。



 外は暗い。満月が照らしているにも関わらず暗い。いつかの流れ星が瞬きする瞬間に流れた気がした。
 そんなこと言ったら僕だって君ともう一度、あのコメディドラマを観たい。
 明日は、出兵だ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン