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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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プリーズプリーズイラストレーター

18/05/28 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:163

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 月に一度、出版社をおどかしに行く。
「よーう、不二家で百個買ったのになんにもオマケしてもらえなかった爺さんです、こんにちは」
「佐野さん。差し入れはありがたいんですけど、不二家さんに迷惑かけないでくださいよ。編集全部でも二十人ちょっとなんですよ? うわ、ペコちゃんのほっぺ全部カスタードだ、恐ろしい」 
「けっけっけ、愉快痛快、セイ?」
「言いませんよ」
「言わなくて結構だよ、唄って欲しいんだから」
「む、負けた、いいですよ、かいぶつくんは〜」
「怪物ランドのプリンスだいっと、小林亜星はいい曲作るな。同い年として鼻が高い」
「佐野さんって、まさに怪物ですよね、若過ぎますよ見ため」
「まぁまぁ。俺の若さの元をおくんない」
 月に一度、適度に美味しくそれでいて滅法な差し入れをチョイスするのも骨が折れるが、男が一度決めた闘いは背中を見せると蹴られるからな、己自信に。
「はい、今月分のお便り、封書で七つ、葉書で十枚です。それと、なんかでっかい、原稿在中って朱書きのあるのが一個です」
「はいよ。じゃぁ屋上ふけてくるんで、ま、皆さんほっぺ食べてほっぺ落としておくんない」
 担当編集の佐伯女史からファンレターを受け取る。イラスト描きの俺に原稿を寄越すってのも珍しいが、時にあることだった。是非とも先生に表紙絵を賜りたく、プロの作家からも来るんだ。紫綬褒章ってのはなかなか、御威光のでっかいもんだよ。
 八十過ぎの爺さんにならないように、階段で屋上へ。それなりにゼイゼイ言うが、まだまだ心臓も足腰も昨日勝った相手に負ける今日の餌には成り下がらない。元気元気。
 屋上の青空に、葉書を透かして目を通す。イラスト集の感想、個展の感想、絵ばっかり褒めてある。そこが嬉しいじゃないの。俺の男っぷりに触れる隙がないほどに、俺の絵にお熱ってことだろ。可愛いじゃないか。
「おっもてーなー」
 原稿在中。の君は、何処の誰だい。
 三島舞子。二十三歳。オー、ベイビー、ビートルズは好きか。聴こえてくるね。空は小粋だ。
「なーになに、私は佐野さんの描かれるイラストが大好きです。はい。俺も大好き」
「眺めていると、壊れていない世界を信じて呆けることができます。二十五時間でもずっときっと。ちょっとこえーな」
「私は、小説家を目指しています。いつかきっと、私の書いた物語は本になります。その時には、宇野さんに絵を描いてもらいたい。それが私の壊れていない世界で見ている夢です。ふーん。熱いね、若いね、ナイスガッツ」
「しかし、今の私には、異世界の伝聞を頼まれる宿りの力はあっても、見てきた景色を文章で再現する力が無いのです。いえ、不足しているのです。とても、もどかしいです。しかし、それでも私はいつかきっと、小説家になると思うんです。それは、その根拠はと、おおーい、八十過ぎの老眼に便箋四枚突破ラブレターはきついぜ」
「その根拠は、私は小説を書いているとき、浮いているんです。それは、未来で小説家に成った自分の半身が、壁の向こうで今の私を引っ張るからだと思うんです。人は、人の産声は、前借りだと思っています。人は必ず何かを成すことができるんです。それを持って、産声を得たんです。日々、それを返済してゆくことが、人生であると思うのです。そして、私は小説を書くことで支払うのです。未来で、いつかの未来で、いつかの私は。今はまだ壁のこちらですが、小説を書いている間、私は浮かんでいるのですから。浮いているのですから。ふう、なかなか、語るね」
「それは、何年先になるかわからないですから、失礼ですが、佐野さんはもう、お年ですし。産声と同じに、前借りさせていただけないだろうかと、このようなお手紙を出します。佐野さん、同封した原稿は、未完成ですが、いつかきっと小説になります。してみせます。どうか、私の壊れていない世界を、壊さないでください。どうか、お願い致します。ふう、全部読んだよ、舞子ちゃん」
 下りも階段で戻る。誰ともすれ違わない。カツカツと革靴の音だけが追いかけてくる、悪くない。
「無礼者ですね、まったく」
 佐伯女史はフランケンみたいにフンガーしていたが、俺は描くつもりだよ。
「描いて送ってやるつもりだよ」
「なんですって? 先生、こないだ町上さんの依頼断ったのに、いけません」
「だってよう」
「なんです」
「俺だってまだ完済したかどうか怪しいもんだしな。あの世で命を支払うってのもオツなもんだろ。もう三個食べたのか、肌荒れるぞ」
「しかし、先生」
「まーまー、それにな、この子はホントのことを書いてるよ。俺だって二十歳の頃は体宙に放って描いてたよ、今の俺が引っ張ってやってたんだろう。わかるんだよ」
「先生」
「帰って描くよ。浮いたら電話する」
 帰って描いた。ゆっくり走る筆の速度にしっくりくるものを感じた。 


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