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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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俺の血をどんどん吸え

18/05/28 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 霜月秋介 閲覧数:130

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 耐えている。その男は、ただひたすら痒みに耐えている。夏の夕暮れ、空中に浮遊する蚊は、草刈を終えて汗ばんだ彼の体に容赦なく襲い掛かる。彼はいったいどれだけの蚊に無抵抗で刺されたのだろうか。無数の蚊が彼の血を吸うのを見ていると、見ている私までが蚊に刺されているようで体が痒く感じる。私なら目の前に蚊が飛んでいるのを見つけた瞬間、即座に駆除するだろう。しかし目の前の彼はそれをしない。なぜ黙って蚊に血を吸わせているのだろうか。

 世間の珍しい人物を見つけては記事にするのが私の役目。週刊誌、週刊モノガタリの記者である私、未知野領行は、蚊が近寄ってきてもいつも何の抵抗もせず、黙って刺される男がいるとの情報を受けて取材しにきた。そして私はその男に、その理由を尋ねた。するとこんな答えが返ってきた。

「この蚊たちは、妊娠中の俺の妻と一緒なんだ。元気な子を産むために、俺の血を吸って栄養を蓄えているんだ。そんな蚊たちを手で叩いて殺すなんて、俺にはできない…。こんな俺でも、こうして役に立ってるんだ。そう思うと、これしきの痒み、なんでもないさ。さあ蚊よ、俺の血をどんどん吸え!」

 立派だ。彼のこの謙虚な、紳士的な姿勢には敬意を表する。自分の身を守る為に見境無く蚊を殺す奴等に聞かせてやりたいくらいだ。それにしても痒い。さっきから左腕が痒い。痒いはずだ。蚊が私の左腕にくっついている。私はその蚊を手で叩こうとした。するとそのとき、左手に衝撃が走った。

「せぇぇぇい!!」

 その瞬間、目の前の彼は血相を変えて私の左腕にいる蚊を手でおもいっきり叩いた。あんなに蚊を殺すことをためらっていた彼が、今度は何のためらいもなく蚊を殺した。

「え?ちょっ…え?どうしたんですか?今あなた自分で、蚊を殺すことなんてできないと…」

「私が刺されるならいい。私の血を吸うのは許せる。だが、私以外の誰かを傷つけることは許さない。その蚊は今、あなたに危害を加えました。だから殺しました。当然です」

「当然…」


 痛い。彼に思いっきり叩かれた左腕がひりひりと痛い。彼に危害を加えられた。結局私は、このよくわからない彼についての記事を作成することをやめた。

 あなたの身近に、このようにどこか変わった人間がいましたら、週刊モノガタリ編集部、未知野領行までお知らせください。それではごきげんよう。

 


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